Another Spirits






「まあ、なんにしても自分の身だけは守らないといけないわけで」
薄暗い森の中、ぎゅ、ぎゅっと鈍く擦れる音を立てながら、呟く男がいた。
木と木の間に座り込むようにして、何かに足を通している。
「ゲームに乗るにしろ、ここを脱出するにしても」
足を通した後は腕を通す。張り詰めた黒いレザーが再び『ぎゅう』と音を立てた。
股上から胸元まで、一気にファスナーを引き上げる。
「なんとか、生き残らないとなあ」
こうして、漆黒のライダースーツに身を包んだT.T(23番)は、手元の紙片に目を落とした。
そこにはP明朝体で『俺とお前で、ダブルライダーだからな』とだけ書いてある。
「……ま、縁起としては悪くないかぁ」
支給武器は『滝和也ライダーセット』。レザースーツとヘルメット、電極ナックルの一式だ。
だが彼は、レザースーツだけを身につけ、ヘルメットと電極ナックルは鞄にしまってある。

ヘルメットは被ると視界が狭くなり、暗いところでは動きにくいから。
(そもそも、深夜にドクロヘルメットじゃあいきなり撃たれても文句は言えない)
電極ナックルは、握り締めて歩くにはいささか重すぎ、腰に下げるにも暴発が怖かったから。

結局のところ、常時装備可能なものはレザースーツのみ、あとの二つは、
適宜使っていくしかないだろう、と彼は判断したのだ。
「さすがに、銃は入ってないか」
再度荷物を確認し、彼はふー、っと一息ついた。
……銃。
自分が発したその言葉に、思わず戦慄く。
先ほど、遠くで銃声がした。
つまりは、誰かしらに銃が配給されているということだ。
銃の前では、レザースーツなどほとんど役に立たない。
もし、自分以外の全員に銃が配給されていたら――。
ありえない、とは思いつつ、心のどこかでその可能性を捨てきれない。
「まあ、何とかするしかないか」
ふ、と状況に似つかわしくない笑みを浮かべ、近くの枝振りがいい木に登り始める。
丁度葉の生い茂った部分に潜り込み、鞄を抱き、幹に背を預けた。
「とりあえず……動くのは、朝になってからにしよう」
協力するか。殺しあうか。
どちらにせよ、今は休息を取るべきだ。

いっそのことこの殺し合いが全て、アナザー行きでありますようにと。
そう思い、闇に溶け込みながら、彼は静かに目を閉じた。



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