日本一
小屋から出てきた少女は三井寺月代と名乗った。
顔をぶつけた繭に素直に謝っていたことなどからも、敵意を微塵も感じさせない娘だった。
そこで、小屋への招待に応じたのだけれど・・・
「月代さん? あの方はなんとおっしゃる方なのですか?」
「へ?」
そう、小屋にはもう一人女性が居たのだ。
・・・が、月代さんは小屋に入っても紹介してくれるでもなく、まるで意に介さない様子なのだ。
「佐祐理さーん・・・おどかしっこ無しにしようよ〜
なんだかね、さっきから近くに人が居るような気がして、怖かったんだから〜」
さっき聞こえた話し声は、この二人が話していたものではないのかな?
「私は杜若きよみと申します。 よろしく、倉田さんに椎名さん」
「ふぇ? あ、はい、どうぞよろしくです」「みゅ〜♪」
「わ、わわ、佐祐理さん? 繭ちゃん? 誰と喋ってるの?
あれ? 今確かに声が聞こえたような聞こえないような?」
きよみさんの話では、彼女の弟が彼女の服に細工をしていたらしい。
その機能を使えば、ある特殊な能力を持っている(仙命樹?)相手には、存在自体が認知されないとか。
「はぇ〜、なんでそんな細工をしたんでしょう?」
「多分、趣味ですね。 そういう小細工が好きな部分も日本一ですから」
「わわ、さっきから佐祐理さんが誰かと喋っているような気がするけど、独り言のような気もするし?」
繭はすっかりきよみさんに懐いてしまい、今は膝枕されてみゅ〜みゅ〜言っている。
月代さんの混乱は増すばかりだ。
「あははーっ、で、どうして月代さんにその機能を使っているんですか?」
「声を掛けたときの反応が可愛いからです・・・くすくす」
「な、なんだか笑われているような気がするけど、なんでだろう?
ううっ、佐祐理さ〜ん、こちら側に帰ってきてぇ〜 繭ちゃ〜ん、なんで気持ち良さそうに寝てるのぉ〜?」
世の中にはおかしなこともあるものだ。
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