凸と狐と麦チョコと






「じゃぁ……しょうがないから3割でいいよ」
「さんわり……って増えてるじゃない!」
「大丈夫、減るもんじゃないよ」
「減るわよ!」
 言い争いを続ける2人から離れ川澄舞は未だに眠り続けるお下げの少女の体を激しく揺すってみた。
 どうも深い昏睡状態にある様だ。このまま放っておくわけにはいかない。
 一つ深呼吸。落ち着け。佐祐理はきっと大丈夫。
 今はとにかく色々と派手に動いたので騒ぎを聞きつけた誰かがやってくる前に、
「みさき、何処か落ち着ける所に移動する。話は、それから」
「あ、うん。えーと……あなたも来る、よね?」
「な、なんであたしがアンタ達と一緒に行かないといけないのよ〜」
「私達探してる人がいるんだ。だからその機械少し貸してくれないかな?」
 顔の前で両手を合わせてお願いのポーズをとるみさき。
「そ、そんなのあたし知らないもん」
 キッと舞が鋭い視線で真琴を睨み付ける。
 真琴は素早くみさきを盾にする様に隠れて、
「な、何よ!そんなはんこうてきな態度じゃこれ貸してあげないわよ」
 手をブンブン振り回して威勢だけはいい抗議の声をあげる。
「まぁまぁ舞ちゃん。ね、一緒に行こうよ」
「……そ、そんなに言うなら一緒に行ってあげてもいいわよ」
 それから砧夕霧を背負い舞を先頭に三人は移動を始めた。
「ちょっと、私の服引っ張らないでよ〜」
「あ、ごめん、私目が見えないから……」
「え? ……アンタ目が見えないの?」
「う、うん、そうなんだ」
 振り返りみさきの顔をじっと見つめる真琴。ふぃにぷいっと前を向き
「しょうがないから手を繋いであげるわよ、その変わりこれ持ってよね。ちょっとだけなら食べてもいいからさ……」
 最後の方は何かごにょごにょとほとんど聞こえなかったがそう言って手を突きだし麦チョコの袋を渡す。
「うん、有り難う」
夜の闇がゆっくりと白みつつあった。



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