真琴危うし、奪われた麦チョコ






「ぅ〜……………………鼻が、鼻が痛……はっ」
 沢渡真琴はその束の間の眠りから目覚め、半ば地面に埋まっていた顔を勢いよく引き抜く。
 真琴の両脇にしゃがみ込んで盗聴器をいじっていた舞とみさきは突然の出来事に反応できなかった。
 特にみさきは舞の使う盗聴器を覗き込むよう身を乗り出していたので右斜め下方から迫る真琴の後頭部を避けることが出来なかった。
 結果。
 ごちん。辺りに嫌な鈍い音が響いた。
「痛たたた……今度は頭が…………も〜!」
「うう……強烈な……アッパーだった……よ……」
 頭と鼻をおさえる者一人。のけぞって倒れている者一人。あっけにとられている者一人。
「みさき大丈夫?」 
舞の耳からぽろりとイヤホンが落ちる。
「あぅ〜……ん? ちょっと! あたしのモノ勝手に使わないでよ!」
 盗聴器を持つ舞の手めがけてしなるような腕を円を描く様に振り下ろし、交差した瞬間見事それを奪い取る真琴。
 ぷちっと電源を切ってしまう。
「あ……」
 瞬間舞の顔が険しく変化した。
「そうだよ、舞ちゃん人のものを勝手に盗るのはよくないよ」
 いつの間にか復活したみさきが真琴に向けて伸ばした舞の手をぎゅっと抑えた。
「でも…………」
「ちゃんと頼んで貸してもらおうよ。ね」
 舞の迫力に少しびびって逃げ腰になっていた真琴だったが、
「そんな事言ってアンタこそそのお菓子……」
 真琴が指差すのはみさきのもう片方の手に捕まれた麦チョコの袋。
「え? あ、これは落とし物だよ、うんそこに散らばってたから」
 といって素早く腕を後ろにまわして隠す。
「それもあ・た・しのよ!」
「う、うん、拾ってあげたんだよ。拾った人は一割貰えるんだよね」
「返しなさいよー!」
 取っ組み合いを始める二人を見て舞は深くて長いため息をついた。



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