暴走






 目の前でぶつぶつ言い始めた少女に、スフィーは段々と恐怖を感じてきた。
 こんな状況でも冗談を言い合える少女達だったから、こちらの正体を曝すのに抵抗が無かったのだが。
「そうよ・・・・きっと、夢、夢なのよ・・・・こんな事起こるわけないじゃない・・・ば、馬鹿馬鹿しい」
 瑞希の瞳から生気が失われていくのを見て、スフィーはこの場から立ち去る決意をした。
「あ、あの〜? あたし、なんだかお邪魔だったみたいなんで・・・失礼しますね?」
 てへっ☆ と額を押さえて軽やかに立ちあがり、玄関へと向かう。
 瑞希の横を通りすぎようとしたとき、それまでこちらの動きに無反応だった瑞希がゆらりと立ちあがった。
「え?  わ、わわっ!?」
 スフィーが声を掛けるよりも早く、瑞希のタックルがスフィーを突き飛ばす。 小柄なスフィーの体は縁側を超え、庭まで転落した。

 状況に取り残された玲子が唖然と見守る中、瑞希が静かに支給武器を取り出した。
 それは、某国の警察官が暴動鎮圧用に使用するような、棒状に巻かれた革の中に砂を詰めた、黒光りする棍棒だった。
「ちょちょ、ちょっとタンマ! それで一体何するつもり!?」
 生気の感じられない瑞希の動作と凶悪なシルエットの棍棒が合わさった禍禍しさに、玲子の思考が働き出す。
「何って、あの娘を殺すのよ? あんな妙な娘を生かしておいたら、後から苦労しそうじゃない?」
 目には生気が無いが、返事ははっきりしている。 しかも、平然と物騒な事を言い放っている。
 その姿に恐怖を感じつつも、目の前で人が殺されるところを黙って見ているわけにはいかない。
 スフィーを見ると、落ち方が悪かったのか、這いずりながら表通りに逃れようとしていた。

 取り敢えずスフィーを逃がしてから瑞希を落ち着かせるのが上策とみた玲子は、瑞希を後ろから羽交い締めにした。
「お、落ち着こうね、瑞希ちゃん? ほら、あんな娘放っといてさ?」
「・・・るさい・・・うるっさーーーい!! あんたも敵なのよ!?」
 突然瑞希は後ろへと突進する。 その先には食器棚があり、当然後ろにいた玲子は食器棚へ叩き付けられた。

 家の中から聞こえてくるガラスの砕ける音に首を竦めながらも、スフィーは必死に逃げようとする。
「・・・・けんたろ・・・・・」



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