チェスゲーム






 このままじゃ差が埋まらない逃げられてしまう、そう考えた川澄舞は
「みさき、ちょっとだけじっとしてて」
「え? 追いかけるのやめるの? わ、わわ!」
 次の瞬間舞はみさきを抱きかかえていた。いわゆるお姫様だっこってやつだ。
 女の子1人と2人分の荷物をかかえてながらもぐんぐんスピードを上げる舞。
「わ、早い。舞ちゃん重くないの?」
「しゃべらないでみさき。舌を噛む」
 あたふたと後ろを振り返りながら沢渡真琴はパニックに陥っていた。
「ちょ、ちょ、ちょっとなんなのよあの女ぁ〜!」
 ほとんど泣き出しそうな感じの悲鳴だ。このままじゃ追いつかれる、と思ったその時
「へ?」
 何かにけつまずいて体が宙を舞った。一瞬のスローモーション。
 そしてそのまま顔面から地面に激突し派手な音をたてて前方に滑っていく。
 その衝撃は凄まじく真琴の顔と同じ幅の浅い溝が約1メートルほどに渡って地面にしるされたという。
「何か凄い音がしたけど……大丈夫……かな?」
「……足……」
 よく目をこらしてみると茂みからニョッキリ二本の足が出ていた。
 前方を走っていた少女はこれに足をとられたのだろう。
 そこにはお下げの少女が倒れていた。いや正確には眠っていた。
「大丈夫、死んでない眠ってるだけ」
 月明かりに照らされてその眠り姫の顔の辺りがキランと光った。
 それはその眠り姫が眼鏡をかけていたからだろう。
 ひょっとしたらおでこが反射したのかも知れないが。
「あぅ〜おほしさまぁ……」
「こっちは気絶してるだけ」
 こうして3人の追いかけっこは終わりを告げた。

「………………………………………………………………あれ?」
 江藤結花はビルの中で待ちぼうけをくっていた。
 どうやら誰かがここに来るのはまだ先の様だ。



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