意地
へまをやった─
後悔を一瞬で終えて、自分のダメージを計算する。
肩に銃弾が残っている。傷口に指を突っ込んでえぐり出す。
死ぬほど痛いが、声は出せない。あの女に気づかれるからだ。
状況を確認する。上品そうな女が倒れている。生きているようだ。外傷は確認できない。
赤いヘルメットの餓鬼はここからは見えない位置にいるようだ。おそらく撃たれたか、腰が抜けてでもいるのだろう。
髪の短い女がゆっくりと彼女たちに近づいていく。あたしにはわかる。あの女は狂っている。
しかも新兵によくある一時的な狂気ではなく、狂気の中でも最悪のもの、冷静な狂気だ。
あの女は拳銃を持っている。あんな拳銃は見たことがない。
もっとも、50年もたてばあたしの知っているものが出てくるほうがおかしいかもしれないが。
銃をしまい、ナイフを抜いた。どうやらそれでとどめを刺すつもりらしい。
(素人か)
致命傷を与えてもいないのにもう勝った気になっているところを見ると、
どうやら本格的な殺し合いの経験はないようだ。
(どうする?)
理性は退けと命じている。疲労と能力の低下は想像以上だ。相手が素人でなければ、今日は二度も死んでいる。
だが、あたしにも意地がある。戦士としての意地が。
おそらく、あたしのほかにも特殊な能力を持っていたやつはいるだろう。
あたし以上の化け物もいるかもしれない。あの女がそうかもしれない。だが、この条件下ならあたしが有利だ。
やつには、ジャングルでヒルと格闘しながらゲリラ戦を行った経験はないだろう。
銃火の中を敵陣に向かって突撃したこともないだろう。戦友の死を看取ったこともあるまい。
仙命樹の力を封じられた?それがどうしたというのだ。私が戦士であるということには変わりない。
昨日今日殺し合いを始めたような素人相手に、びびって逃げ出すようなまねは出来ない。
(どうするか…)
辺りを見回す。あちこち焼け焦げた鞄が目に入った。地雷で吹っ飛んだ女のものだろう。
中身を確認し、あたしは笑みを浮かべた。
(こいつは…使えるな)
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