日本一のマヌケだと思ってます






かなり複雑に絡まった網をなんとかほどき、猪名川由宇は、大庭詠美を小屋に招きいれた。
「…ったく、罠仕掛けたのがウチだったから良かったようなものの…」
「何よ〜!せっかくこのあたしがアンタなんかを探してあげたっていうのに!」
いつもの傲慢な言い口(もう慣れっこ)を聞き逃しつつ、
こんな状況でよくもまあこれだけ毒づけるものだ、と由宇は密かに感心すら覚えていた。
それと同時に、詠美の言葉にわずかな引っかかりを覚えたが、今の由宇にはその正体が思い浮かばない。
(…ま、ええか)
兎も角、今は運良く合流できたことを喜ぶべきだ。二人なら、このゲームを有利に運ぶことが出来…
無意識中にそこまで考え、由宇はハッとする。
(一体ウチは何を考えとるんや!殺し合いなんて漫画の中だけで十分やないか!
何としても、みんなで生きて脱出する方法を探さなアカンのやないか!)
殺し合いなんて考えるな。脱出するんだ、そう言い聞かせ、詠美へと向き直る。
「…詠美、ここに来るまで誰かに会わんかったか?」
いかな詠美といえど不気味な沈黙に何か感じるものがあったのか、やや気圧された口調で、
「だ、だれにも会ってないわよ」
と答えた。それを聴いて、僅かに落胆する由宇。
が、詠美の次の言葉で落胆しているどころではなくなる羽目になる。
「あんたの名前呼びながらここまで来たけど誰も出てこなかったもん」
その詠美の言葉から一拍置いて、由宇がこの危機的状況に気付く。
「アホンダラぁぁッ!!」
「ふみゅーうッ!?」
名前を呼びながら来た、という事は、自分の居場所を教えながら歩いていたも同然。
すでにこの場所はバレていて、今にも誰かが襲撃をかけてくるかもしれない。
由宇は素早く荷物を引っつかむと、ついでに詠美の腕も引っつかみ、喚き叫ぶ詠美の声を無視し、小屋のドアを開いた瞬間、
ガツン!と鈍い音がして、それが誰かがドアに頭をぶつけた音、ということに気付くには数瞬を要した。
極めて慎重に、由宇はその人物を確認する。そこにいたのは――



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