何が正しい、何が間違い






 震えが止まらない。自分を深い闇へ誘うあの銃口が忘れられない。逃げるように、私は走った。
 なんでこんなことに。私が何かしましたか? どうしてあんなに簡単に、人に銃を向けるんですか?
 それくらいじゃないと、冬弥君を助けられないんですか?
 なら、私はどうすればいいの。たったあれだけで、こんなにも脅えて。
 何かに躓いて、その場に転がる。膝が痛い。血が滲んでいる。
 助けるという決意さえ守れなそうで、こんな自分がどうしようもなく惨めで、
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
 泣くことしか、できなかった。

「お姉ちゃん!」
 聞き覚えのある声。知っている人。私の従姉妹。顔を上げたらそこに、マナちゃんがいた。
 目を見開き。私に向かって走ってきて、抱きつく。
 怖かったと、小さな体を小刻みに震わせ。私と同じ思いをしてる人が他にもいることに気づいて、
 肩を抱き二人して、泣いた。

「由綺さん!!」
 また聞き覚えのある声。いつも私を守ってくれた人。弥生さ――
 次の瞬間、私に抱きついていたマナちゃんが強引に引き剥がされた。
 何が起こったのかわからなかった。ただ映像として捕らえたのは、弥生さんがマナちゃんの頭にナイフを、
「危ないところでした」
 弥生さんがマナちゃんに視線を落とす。私は何も考えずにそれを追う。
 いつの間にか、マナちゃんの手には、鎌が握られていた。
「お怪我はありませんでしたか?」
 これはつまり、マナちゃんが私を殺そうとしていて、弥生さんがそれを助けた?
 そんなことが有り得るのだろうか。マナちゃんに呼びかける。返事はない。
 小さいころからよく私に懐いてくれて、私を姉のように慕ってくれて、

 何が正しいのか、何が間違っているのか、私にはもう考えられなかった。
「どうしてっ!? どうしてそんなことが平気で出来るのよっ!?」
 マナちゃんの遺体を抱き糾弾する私を、弥生さんはただ悲しげに見ているだけだった気がする。

【観月マナ 死亡 残り52人】



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