命尽きる前に






 これは本当のことなのだろうか。それとも、私はまだ夢を見ているのだろうか。
 教室に吹き込む夜の風が私を包み込む。寒い。震えが止まらない。
 この寒さも、この外の暗さも、この机の質感も、これが現実であると教える。
 つまり、お姉ちゃんは死んだ――殺されたんだ。
 周りを見る。あまりのことに錯乱しかけている人、何が起きたか理解していない人。
 あぁ、私は冷静だ。こんなにも落ち着いている。こんなにも平然としている。
 お姉ちゃんとの想い出を呼び起こす。去年のクリスマスまで、仲のいい姉妹だった。
 私が死ぬとわかってから、一度もお姉ちゃんとまともに話せなかった。それが悔しい。
 人質となった人の中にあの人の姿を見つける。
 もうすぐ私の誕生日。次の誕生日まで生きられないと言われた、誕生日。
 残された命の使いきりは決まった。行きたい場所もやりたいこともたくさんあった。
 だけど今は、あの人の命を助けることができれば、それでいい。
「さぁ、大きな声でよんでみろ。これからお前達が何をするのかだ!」
 男の人が怒鳴る。「イチ、ニのサンで、皆で言うように!」
 カウントが始まる、イチ、ニのサン。

「私達は、殺しあいを、する。私達は、殺しあいを、する」
 機械のように私は口ずさむ。夜より暗い闇が、教室に蔓延する。
 大丈夫。私は冷静だ。こんなにも落ち着いている。好きな人のために命をつかいきる。
 大丈夫。私は正しい。私は大丈夫……。頬を濡らす何かも、どうということはないはずだ。
 私達は、殺しあいを、する。



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