手品師






 とりあえず、死ぬわけにはいかなかった。
 今ある手持ちのものから、なんとかして最後まで生き残らなければいけない。
 使えるか使えないか別にすると、支給品の数だけならもしかしたら最多ではないだろうか。
 鞄を漁り、役に立ちそうなものを洗い出す。もちろん、そうでないものもきちんととっておく。
 とりあえず、これだけで、最後まで生き残らなければいけない。
 使用法、相手による対処方を、頭の中でシミュレートして――

 いつも冬弥君が傍にいた。今の自分がやってこれたのは全部、冬弥君のおかげ。
 ……私は冬弥君を助けたい。助けなければいけない。いつかまた、粉雪の舞うあの街を、冬弥君と歩きたい。
 叶わぬ夢にしたくない。
 とは言え、非力な私一人では何もできないのが現実。
 まずは……そうだ、弥生さんを探そう。弥生さんなら頼りになる。
 それから、美咲先輩。はるか、マナちゃん……
 そこまで考えた時、目の前に誰かが――

「殺されたくなかったら、さっさと消えな」
 動揺を悟られないように言い放つ。
 突然現れたもんだから、シミュレートも何もあったものじゃない。思わずそう言って動いてしまった。
 運のいいことに目の前の小娘は脅えてくれた。
 これが冷静でやる気のあった奴だったら――ぞっとしない。
「聞こえなかったのか? 仕方ないな」
 私は銃にかけた指を――引くところで、小娘は一目散に走り去っていく。
 誰もいなくなったところで、私はそのまま引き金を引いた。
 銃口からは弾丸――なんて出るはずもなく、なんとも可愛らしい一輪の花が咲いていた。
 各種簡易手品セットのうち、一番脅しに使えそうなシロモノだ。

 杜若きよみ(黒)のため息が夜の森に染み渡る。
 返事をする鳥の声は、彼女を嘲笑っているように聞こえた。



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