2つの刃






 防戦一方、あたしは押されていた。
 この娘きっと何かスポーツをしている、いい瞬発力だ。
 鋏をほとんどむちゃくちゃに振り回している様に見えるこの赤い髪の少女の攻撃をなんとかかわしながらあたしはそんな事を考えていた。
 だけど、このままじりじりと下がっていても仕方がない。
 あたしは覚悟を決め小手の要領で彼女の斬撃をかわすように飛んだ。 
 腰に針をズブリと突き刺すような鋭い痛みが走る、けど今はそんな事にかまっていられない。
 彼女の腕に刀が滑るようにかすった。赤い鮮血。当然だ。彼女も人間なんだ。
 だけど浅い。思いきり踏み込めないのはやっぱりまだ躊躇しているから?
 しかし彼女は腕を押さえて座り込んだ。やっぱり斬られた所が痛いんだろうか?
 長丁場になればあたしの体も多分保たない。このままどこかへ逃げてくれれば……
 完全に油断していた。彼女は突然立ち上がり何かを投げつけてきたのだ。
 それはさっきあたしが投げ捨てた刀の鞘だった。
 あたしは動転し大袈裟に体を反らして避けようとしたので足下の木の根につまずいた。
 そのまま無様に倒れ込み後ろにあった木に激しく背中を打ちつける。
「イタタタ……」
 今ので刀が手からはなれて少し転がった。手を伸ばしても届かない位置。
 そして頭上にほとんど覆い被さる様に倒れた私に落ちる影。
 勝ち誇った顔の少女は鋏を振り上げて嬉しそうに呟いた。
「まず一人目」
 万事休す……か。目を閉じた。
 やっぱりあたしには無理だった。御免瑞佳、巧く逃げて。
 御免折原。あたしやっぱり駄目だったよ。
 ……だけど振り上げられた鋏はなかなか振り下ろされてはこない。
 あたしはゆっくりと目を開ける。
 ちょうど彼女があたしめがけてゆっくりと倒れ込んでくる所だった。
「へ?」
 見ると彼女の背中には小刀が深々と突き刺さっている。
 彼女の後ろにいたのは今にも泣き出しそうな顔の瑞佳だった。



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