去る者と向かう者
セリオは高い木の上から辺りを見回していた。遠くにビルが見える。
未だに来栖川姉妹はおろかマルチとも出会えぬまま時はいたずらに過ぎていた。
だがサテライトシステムが使えない今、自分の目と耳でなんとか探し出すしかない。
特に何か策があるわけでもなかったが島全体の構造を知る為に手近な高い木に登ってみた。
近くで何かがぶつかる様な音がした。どうやら少し離れた所で戦闘が始まった様だ。ここからならよく見える。
青い髪の少女と赤い髪の少女が対峙していた。青い髪の方は刀を持っている。
そこから少し離れた所にもう一人、制服からすると刀を持っている方の仲間らしき少女がいる様だ。
ともかく来栖川姉妹ではないので今は無意味な戦闘に関わる必要はない。
そう思い改めて自分の支給武器を見つめる。銀色のメッキがまぶしい手錠、に長い縄がくくられている。
投げ縄ならぬ投げ手錠としてでも使えというのだろうか?
一対一ならともかくこんな武器で複数の敵を相手にするのは無謀極まりない。
先程の自転車に乗った少女の様に強力な武器を持たない(万が一戦闘になったとしても勝てる)ひ弱そうな相手から何か情報仕入れて地道に探していくしかない。
セリオは忍者のように素早く木から飛び降りるとそこから走り去った。
立川郁美もその音を確かに聞いた。
彼女はゲームが始まってからずっと一人だった。どこかにじっと隠れているつもりだった。
夜の闇がほんの少し彼女を不安にさせた。一度沸き起こった不安はみるみるうちにドス黒い恐怖のシミとして広がり彼女を支配した。
今正に殺し合いが行われているこの島で、一体誰を信用するというのか? 出会う人は殺人鬼かも知れない。
がしかし孤独がなにより恐ろしかった。誰かに会いたい、一緒にいて欲しい。助けて欲しい。
これからどんな目に遭おうともこの恐怖よりはましだ、そう思っていた。
そんな時後ろの方から聞こえた何かがぶつかる音。
そこに誰かいるのだ。
恐怖で思考を停止させたまま彼女の足はそちらに向かっていた。
【セリオ】支給武器:投げ縄付き手錠
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