閉鎖的殺人






 反応がないだろうことを確認し、攻撃の手を休める。息が荒い。嫌な匂いがする。この
部屋には窓一つないせいで、血の匂いが充満している。名も知らない相手が放り投げた懐
中電灯を拾い、照らす。相手の頭部は見事に破壊されていた。凄惨さに耐えかねてその場
で嘔吐する。吐瀉物が死体にかかり、より一層、無惨な光景となった。自分がやったのだ。
これは自分がやったのだと自覚する。涙が流れる、だがこれで、敵が一人減ったのだ。
 そして次の瞬間だった。開きっぱなしのドアが突然大きな音を立てて閉められた。驚く
暇すら忘れ、死体を飛び越えドアノブを回す。回らなかった。まるで鍵がかけられている
ように。改めてドアノブを見ると、鍵穴がついていた。つまり、この建物のドアは、外か
らも中からも、鍵がないとロックすることができないのだ。
 江藤結花はドアの外でほくそ笑んだ。部屋の中では誰かが大声で助けを求めていた。も
ちろん知ったことではない。手元にあるリモコンを見る。三つあるボタンのうち一つを押
す。これで、部屋の中の人間の命はなくなった。結花の支給武器は、この建物全てのドア
に共通の鍵と、特定の部屋に仕掛けられた罠を操作するリモコンだった。三階、四階、そ
して五階に一つずつエアコンのついた部屋がある。そしてこのスイッチを押せば、そこか
ら流れてくるのは毒ガスだ。窓一つなく、気密性も極めて高い。鍵穴に鍵を差し込んだま
まにしておけば、中の空気はほぼ漏れることはない。理緒が建物に入る姿を目撃し、後を
つけた。そして、三階の理緒が入った部屋と罠のある部屋以外、全ての部屋に鍵をかけた。
自分は隣の部屋に中から鍵をかけ隠れていた。次に入ってきた理奈が上手く理緒とトラブ
ルを起こしてくれたせいで、一つの部屋で二人始末することができた。残された部屋は二
つ。今使用した部屋は放置しておく。どのくらいの時間で中の人間が死ぬのか見当もつか
ないし、下手にドアを開けたら中のガスが飛び出てくる。自分の服の袖を破り、鍵穴につ
め、四階へ向かう。次はいつ、獲物がかかるだろうかと考えながら。
 そして、部屋の中では理奈の意識が永久に閉じようとしていた。どうして、こんなこと
になったのかと考えながら。自分が殺した少女の死体が、こっちを向いて笑っている気がした。

【緒方理奈 死亡 残り54人】



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