閉鎖的状況






 通り過ぎた部屋の中に誰かがいたらどうだろう。中から鍵をかけ、誰もいないようにみ
せかけた。いや、全ての部屋に鍵がかかっていた。少なくとも外から鍵はかけられないよ
うになっている。針金を鍵穴に入れてというのを聞くけど、そんなことが出来るだろうか。
出来ればそれまでだが、出来ないとすると、一階二階には一つだけ鍵のかかってない部屋
があったということか。不自然だ。だが不自然といえばそもそもこの建物自体が不自然で
ある。何に確信を持てばいいかわからなかった。とりあえず背後にも注意するしかない。
もし全ての部屋に鍵がかかっているのなら、この先に待ち構えている人間は飛び道具を持
っているのだろう。角から、階段から、自分が顔を出すのを今か今かと待っているはずだ。

 理緒は震えている。震えている。怖い怖い……カチャッと、ドアノブが回る音がする。

 三階につき、一番手前の部屋のノブに手をかける。驚いたことに、鍵がかかっていなか
った。そして今、ドアを手前に、一気に引いた。同時にその場を飛び退く。誰かいるかも
しれないから。
 中には誰もいなかった。それどころか、殆ど何もなかった。壁にはひびが入っている。
壁紙も床のタイルも剥がれている。他には、取り外し忘れたのだろうか、エアコンが一つ
それだけ。何もありはしなかった。
 突然、背後からドアが開く音がする。慌てて理奈がふりむくと、強い光が目に入った。
暗さに慣れきった目にはかなりのダメージとなり、一瞬何も見えなくなった。理緒はその
隙に、懐中電灯で殴り掛かる。理奈の頭に直撃し、そのまま続けて殴る。殴る。殴る。五
回目はなかった。理奈は闇雲にスプレーを噴射させる。吹き出された塗料が理緒の顔にま
ともにかかる。異様な叫び声を上げて手に持っていた懐中電灯を投げる。何も見えない。
一気に形勢を逆転させた理奈はここぞとばかりに襲い掛かった。理緒を地面に押し倒し、
顔面を強く蹴る。嫌な音がしたが聞こえないふりをし、蹴る、踏み付ける、馬乗りになっ
て頭を持ち、床に強く打ち付けた。相手の顔が変型しているのも、眼球が飛び出し、血を
吐いているのを、脳漿が飛び出しているのも、今は何も、考えないように。

【雛山理緒 死亡 残り55人】



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