赤い狂気と青い刃






目の前で何かが小さく光った気がした。
次の瞬間暗闇の中から突然突き出てきた何か。
あたしは間一髪手にしていた刀でそれを防いだ。
ぶつかった何かが鞘を滑る嫌な音。
「な、何っ!?」
勢い余ってあたしの横を通り抜けていく赤い髪の少女。
両手に鋏を握っている。
「七瀬さん!」
悲鳴に近い瑞佳の叫び。
「下がってて瑞佳っ!」
あたしは瑞佳に自分の鞄を投げつけてそう言い放った。
身軽になったあたしは両手で鞘に入ったままの刀を構え直す。
あんな目にあったってのに刀身を晒す事にはまだ抵抗があった。
少女は何かブツブツと呟いている。この娘はもう正気じゃない。
「もう一人いたんだ……ふふ……じゃぁ2人殺して後57人……ふふふ……」
馬鹿、何躊躇してるの! さっきの不意打ちで明らかな様に向こうはやる気よ!
胸の奥で誰かが叱責する。早鐘の様に鳴る心臓。震える手足。
「説得は通じそうにないわね……」
後ずさりながら距離をとる。
戦いが長引けば「新たな敵かも知れない誰か」を呼び込んでしまう可能性もある。
どうする? このまま戦う? それとも二人して一目散に逃げる?
そう言えば瑞佳って足早かったっけ?
折原に毎朝鍛えられてるか……ははは……
冷や汗が流れる。
赤い髪の少女はじりじりと近づいて来る。
ここで背を向けるわけにはいかない。
あたしに人が斬れるだろうか?
七瀬留美はゆっくりと鞘から刃を抜いた。
【残り56人】



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