おんな風林火山
・・・誰かが、私の腕を叩いている。 ええと、これは・・・確か、タップ。 ギブアップの意思表示だ。
ああ、なら手を離さないとね・・・って、手?
私は目を開いた。 ・・・私の手の中で、青白い顔をした初音が、必死に腕を叩いている。
「ええっ!?」
私は慌てて手を離した。 私、が・・・首を絞めていた?
「千鶴お姉ちゃん・・・?」
涙目の初音が、おどおどしつつもこちらを覘き込んでくる。
「初音・・・わ、わたし、一体何を!?」
二人で深呼吸してちょっと落ち着いた後、私は何が起こったのか説明を求めた。
初音の話によると、いつの間にか寝込んでいた私を、初音が看てくれていたらしい。
梓と楓は、向かいの家に入っていった人が居るとかで、監視をしに2階に上がって行った。
二人きりになって、初音がうとうとしかけたとき、突然私が首を絞めたのだという。
私は思い違いをしていた。
力を封じられても、「鬼」は、私の体の中で眠ってはいなかったのだ。
首輪の力によって、普段の力を発揮することは出来ないだろうが(初音が生きているのが何よりの証拠だ)、この体を動かす事くらいは出来るらしい。
私の意識が無くなった後、狩りがし易い状況になるまで待っていたということか。
”制御しようとする力”自体が首輪によって抑えられているのだ。 制御不能になった事による、鬼の反乱、か・・・
「困ったわね・・・」
初音に今の考えを話すと、私と同じように考え込む。
「だったら、私達、寝ちゃ駄目なのかな?」
「ろくに力は出ないんだし、残りの3人で見張りをすれば・・・」
と、話していたとき、梓が降りてきた。
「千鶴姉ぇ? 起きたんだ。 ・・・起き抜けに悪いけど、移動しなきゃいけないかもよ」
「え?」
私が聞き返す間もなく、遠くでガラスの割れる音がした。
「お隣りさん、おっ始めやがった」
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