束の間の邂逅
物陰から何かが勢いよく飛び出してきた。
一瞬何かの動物かと思った。
がしかしよく見るとそれは女の子。知らない娘。
綺麗な長い栗色の髪に木の葉や枝がひっかかっている。
鋭い目でこちらを見つめている。息が荒い。
どうしよう? この子は誰かに追われているのか?
優しく声をかけてみようか?
それとも今すぐここから逃げた方がいいのだろうか?
私は迷った。
女の子は凄い形相で私を睨んで威嚇している。今にも飛びかかって来そうだ。
けど私には少女が何かに怯える寂しい子猫の様に見えた。
そうだ! 私は自分の鞄を探って支給品であるお菓子袋に手を突っ込む。
「ほら」
いくつかのあめ玉やラムネ。
少女は警戒しつつも何かに引き寄せられるようにゆっくり近づいてきて
私の手からお菓子を奪うとすばやく離れてまた2人の間に一定の距離を保った。
あぅ〜という変なうめき声を漏らしつつ少女はお菓子を食べながら私に話しかけてきた。
「肉まんは……ある?」
「御免……ない……」
少女は心底残念そうに下を向く。
「けど……お菓子はまだある」
こういうの何て言うんだっけ?
……餌付け?
とてとてと近寄って私の手からお菓子を受け取る少女。今度は離れない。
自分でも何故そう思ったのかよく分からなかったが私は少女の頭を撫でてやろうと手を伸ばした。
私の手が頭に触れるか触れないかの所で突然少女は私の手をはねのけ叫んだ。
「こ、子供扱いするなーっ!」
女の子はきびすを返して現れた時と同じ様に勢いよく走り去っていった。
「失敗しちゃった……」
河島はるかは残念そうに呟いた。
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