ショートカットの饗宴






 手首を軽く捻と、鋼線は綺麗な輪を作る。 花枝はその輪を躊躇いもなく澪の首へ掛けた。
「怨むなら主催者を、な?」
 と、言ったところで花枝の手が止まる。
「・・・足音?」

 花枝の来た方向とは逆方向から、誰かが近寄ってくる気配がする。
(・・・この場所を目指しているわけではない、な。 ならば)
 乱戦は御免だ、とばかりに、鋼線を持った手を左右に開いた。 澪の首筋に赤い線が浮かぶ。
 あと少し力を込めれば、首無し死体の一丁上がり---というところで、花枝はこれまでに経験したことの無いような悪寒に襲われた。
(!!?)
 瞬時に澪を捨て去り、花枝は木陰へと潜り込む。
(なんだ、今の悪寒は!? ・・・この島には化け物が潜んでいるのか!?)

 少し離れた場所で、花枝が澪を殺すのを待っていた月島瑠璃子は、一人呟いた。
「・・・あ、見つかっちゃった。 弾丸の節約になると思ったのに・・・」

 咄嗟とはいえ花枝の取った行動は、実に運のないものだった。
 彼女は忘れていた。 この場に近づいてくる足音を-----
(ッ! しまった!)
 背後に気配を感じた花枝は、咄嗟に裏拳を放つ。
 ・・・が、襲撃者は裏拳をかいくぐり、がら空きになった花枝のわき腹にタックルをかました。
(コイツッ!?)
 花枝の体が本調子ではなかったのも、運命なのだろう。
 襲撃者は物慣れた体捌きでマウントポジションを得、後ろ手に隠し持っていた獲物を振りかざした。
(馬鹿な・・・この私が・・・)
 花枝は絶望しながらも、己の生命に終止符を打たんとする獲物を凝視した。
          「どっきりテレビ!」
 花枝に馬乗りになった、赤ヘルを被った赤髪の少女は
「みゅ〜〜〜♪」
 『おどろいた?』と言わんばかりにご満悦だった。



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