自転車で突き抜けろ!
お兄さん、大好きなお兄さん、悪い人達に捕まってるお兄さん。
そちらはどうですか? 苦しくないですか? 痛い事されてないですか?
千紗は今、必死で自転車を漕いでますです。
重くて大きい千紗の鞄に入っていたのは折り畳まれた自転車だったんです。
その時千紗は自転車を組み立てるのに夢中になって誰かが近づいているのに気がつかなかったです。
千紗の後ろから無表情の耳に変な突起を付けたお姉さんが歩いてきましたです。
お兄さん、あの人はきっと千紗を殺しにやってきたんです。
千紗にはお兄さんの為とはいえ人を殺す事なんて出来ないです。
だけど誰かに殺されるのも嫌です。怖いです。
だから千紗は逃げますです。
この目の前の自転車で最後の1人になるまで逃げて逃げて逃げ続けますです。
御免なさいですお兄さん。逃げる千紗をどうか許して下さいです。
そう言う訳で千紗はお姉さんが何か言うよりも早く自転車に乗って走り出しましたです。
あれ? 何か後ろから音がしますです? にゃ?
にゃあぁぁぁ〜、先程のお姉さんが凄い勢いで追ってきますですぅ!
無表情な殺し屋の目です。早いですぅ、千紗大ピンチですぅ!
あっ! その時慌ててハンドル操作を誤った千紗は石に車輪をとられて、座席から宙に舞いました。
お兄さんを台車でひいちゃったあの時、お兄さんに台車ごと激突したあの時、お兄さんを段ボールの箱の下敷きにしたあの時
様々な事が思い出されますです。あれ……お兄さんこれが走馬燈なんですね!
忘れ物です、そう言って倒れた私の前でコスプレのお姉さんはずいっと鞄を差し出しましたです。
そう言えば千紗は慌てて逃げ出したので鞄を持っていくのをすっかり忘れていましたです。
それからコスプレのお姉さんは誰か探しているらしく千紗にあれこれ尋ねましたが千紗は正直に
これまでお姉さん以外誰も見ていないと伝えましたです。
その時だけ無表情なお姉さんの顔が一瞬曇った様な気がしますです。
それでは失礼します、そう言ってお姉さんは闇の中に消えましたです。
「あ、有り難うです。……優しいコスプレのお姉さん……」
お兄さん、そういう訳で千紗はまだ生きてますです。
【塚本千紗】支給武器:折り畳み式自転車
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