支配者
遠野美凪は、ただ静かにその少女を見下ろしていた。
気絶しているのだろうか、反応はない。手元の機械は少女の認識番号が『56』であると示していた。
そしてこちらに近付きたもう一人の誰か、『58』番。
「見つけた。わ、もう一人誰かいるね。運がいいよ」
「この方をどうするつもりでしょう?」
現れた少女、名雪に美凪は問いかける。
「栞ちゃんだね、わたしを殺そうとしたんだよ、酷いよね。だから仕返しするんだ」
状況はだいたいのみこめた。目の前の尋常ではない瞳をした少女は、きっと自分も殺そうとするのだろう。美凪はそう判断した。
「今すぐどこかへ行ってもらえますか?」
「この子を庇うの? 酷いよ。だから一緒に殺しちゃってもいいよね?」
金属バットを構える。彼女の支給武器だろうか。
しかし、それならこちらに分があった。
ため息一つつき、手にもった機械をいじる。
名雪の首輪に電流が走り、悲鳴を上げて倒れる。
「っ!? 何をしたんだよっ!?」
「もう一度言います。立ち去ってください。次は本気ですよ?」
「……っ、今度は殺してあげるからね!」
相手が何をしたかはわからないが、名雪は勝ち目なしと判断してその場を離れる。
美凪の支給武器であるこの装置は、このゲームで特殊な部類に入るものであった。
装置から半径100メートル以内の参加者の位置を画面に表示し、軽い電流を流すことができる。
もっとも、時間をかければ電流で相手を殺すことも可能だ。
レーダーも兼ねたこの武器から逃れる術はない。
ただしデメリットも存在する。
装置の起動時に一番近くにいた者――所有者である美凪――を認識し、電流の使用時間が計1分に達すると、その首輪が爆発する。
自分の手にあまる武器を持った美凪の目下の悩みは、この少女をどうすればいいのだろうということだった。
【電流制限時間 残り57秒】
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