無題






カウントダウン。部屋に居る人間の視線が、座り込んだままの女の子と、スクリーンを往復する。
3・2・1……0。
「ひっ!」と、女の子が、声を上げた。
スクリーンには、『なんちゃって〜』、の文字。その横には、へらへらと笑う男。
「はっはっは、殺すとでも思ったかい?確かに首輪を爆破して今すぐ殺すことは出来る。
 でも、人数が減ると面白みが減るからねぇ〜。今回は見逃してあげよう。
 変わりと言っちゃなんだが、これが冗談でもなんでもない証拠をひとつ、お見せしよう」
そう言って、もう一度リモコンのボタンを押す。カウントダウン。
男が語りだす、前置きだ。
「まあ我々は極力ばれないように君たちを拉致って来たわけだけど、
 ひとつヘマをしてしまってね。感付いた人物が居たんだ。その人がどうなったかというと――」
そこまで語って、丁度数字が『0』になる。
モニターに映し出されたのは、折り重なった、二人の人間、だったもの。
「………え」
想像を絶する映像に、一瞬、空気が止まる。そして、絶叫。
「お姉ちゃんッ!」
振り向く。そこには、スクリーンの中の、もう二度と起き上がることのないモノに向かって泣きながら呼びかける女の子。
なるほど、制服が一緒だな、と一瞬冷静に考えてしまって、ちょっと嫌な気分になる。
「そう。お前の姉、美坂香里ちゃんだよ〜。可哀想にねぇ、気付かなければ殺されることもなかったのに」
男がまた、笑った。心のそこから嫌悪を感じる笑い。
もう一人の人物に対し、声をあげる者は居なかった。ただ、同じ制服の子は何人か見かける。
恐らくはその中に関係している人がいたんだろう。
「ま、こんな感じかな。君たちが僕らに歯向かったり逃げようとしたりしたら、
 あの男の子たちもこんなになっちゃうかもしれないから気をつけることだね」
――本気なんだ、この人たち。
不気味な静けさに包まれた教室の中、男の笑顔だけが変わらなかった。

【美坂香里 死亡】



前話   目次   次話