勇気と無謀
一歩一歩、しっかりと地面を踏み締め歩く。気を抜くと萎えてしまいそうな心を戒めるために。震えてしまいそうな体を押さえるために。
葵は、ゲームが始まったこの場所に戻ってきた。
『松原葵だな。何の用だ』
どこからか声が聞こえる。怖いけど、逃げたいけど、死んでしまうかもしれないけど。
「こんなことはおかしいです。お願いします、今すぐ皆を解放してください!」
言ってしまった。闇に佇む建物が、冷たく彼女を見下ろしている。
『何を言い出すかと思えば……』
「私ならどうなっても構いませんから、どうか皆さんは!」
『お前はわかっていない、そんなお眠くなるような台詞が聴きたいんじゃないんだ。
殺し合いを見たいんだよ。悩み苦しみ殺しあうお前達の姿が面白いんだ。
それに、もう死人は出ている。死に急ぐこともないだろう』
もう死者が出ている。覚悟はしていた。いや、そもそも教室内で見せられた映像から犠牲者はいたではないか。
だけど……。
「……私にはできません!!」
建物の入口に向かって走り出す。途端に、首輪に電流が走った。
「うあぁあっ!」
倒れる。何一つできない自分が惨めだったけど、それでも自分は間違っていないと思う。浩之さんも褒めてくれると思う。
『もういいよ、つまらない。お前は死ね』
葵は立ち上がり、目を閉じる。この電子音の感覚が小さくなっていったときに、自分は死ぬのだろう。
大好きな人の姿を思い浮かべる。そして、体に衝撃が走り、意識を失った。
『何の真似だ?』
葵に当て身をくらわせ意識を奪った人物に向かい声が問う。
「この子は私がしっかり目つけてるから、今は見逃してくれる?」
しばしの沈黙の後、次はないぞと声が答えた。
その人物は葵を担ぎ、無言でその場を離れていった。
「まったく……無謀なことをするんだから……」
綾香は気絶している葵に、優しく話しかけた。
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