心
佳乃に手を引かれつつ、マルチは考える。
もしかしたら、自分はセリオさんたちと合流なんかせずに、このままでいいのではないか、と。
だって、
マルチの頭の中に、数刻前の会話がフラッシュバックする。
――マルチさん。現在の状況では、このゲームで優勝する以外の島からの脱出はほぼ不可能です。
――は、はい……。
――私たちはお嬢さま方を守らなくてはなりません。
――はい。
――助けが来るかもしれません。しかし、助けが来ずに、生き残ったのが私達とお嬢さま方だけになった場合…
――はい。
――私たちは、その機能を停止しましょう。
――…………。
――マルチさん?
――あ!は、はい。
――生き残るのは、お嬢さま方であって私たちではないのです。
――…はい。
尤もなことだと思う。セリオさんは正しいことを言っている。
でも、
わたしは、
死にたくは、ない。
“死ぬ”という表現が正しいのかは分からない。
だけど、わたしは浩之さんに生きて、もう一度会いたい。
自分はとんでもない欠陥品なのだと思う。私を作ってくれた皆さんに申し訳ないと思う。
だけど、それでも、わたしは、わたしの思うままの、わたしで在りたい。
未だ名前も知らない少女に手を引かれながら、マルチは夜の森をひた走る。
セリオや来栖川姉妹と殺しあうことになる可能性は、考えないことにした。
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