約束の証






 支給された武器はピンク色の傘が二本。ハズレ。だが私、里村茜は嬉しかった。
 私は傘を差して島の北の果ての岬に立つ。月は雲に隠れて見えていない。
(それにしても……結局何事も思い出には勝てないということなのでしょうか……?)
 ここへ来てからずっと私の心の中にあったのは、浩平ではなく空き地から消えてしまった幼馴染みだった。
 その事に気付いた私は、もうどうでもよくなっていた。。
「私は、疲れてしまいました……。もう、いいです……よ、ねっ」
 振り向きざま、もう一本の傘を背後の気配へと投げやる。「あっ…」という声。パラパラパラッという乾いた音。
 体にめり込む熱い感触。口内にあふれる自らの血。倒れつつ音の方を見た私の目には天使の姿が映った。

「ごめんなさいっ、わたし、どうしていいか分からなくて……、往人さんがいて、わたし、もう一人ぼっちに
 なっちゃうの嫌で、でも私、あたま良くないから、どうしていいかわからなくて……でもっでもでもっどうして…」
 その天使は綺麗な長い髪に白いリボンをつけていた。顔をくしゃくしゃにして泣いている。
「いいんですよ……どうせ死ぬつもりでしたから…。でも自殺するのも痛いから、困っていたんです。助かりました」
 本心だった。彼女の気配には気付いていた。だから手伝ってもらった。
「私の一番大切な人は、結局あそこにはいませんでした。でもあなたは……いるのですね。往人さんというのですか?」
「うん……、往人さんはわたしの大切な人……でもっ」
「でしたら、約束です。あなたはこの島から出て、その大切な人と一緒に生きて下さい。絶対に……」
 彼女は泣き止まなかった。私を抱き上げようとする。彼女の温もりが伝わってくる。ひどく愛しい。
 だから私は、最後の力を振り絞り、そっと彼女の顔を引き寄せ………唇を重ねた。
「あっ………」
「約束の証です。……どんなことがあっても…あなたは………生き延びて……」
 雲が途切れたのだろうか。月光が彼女に降り注ぐ。月明かりの中、彼女の唇は私の血で紅く彩られていて
 ……ひどく、美しかった。
(約束……ですよ……)
 もう声にならない声。だが、彼女は泣き止み答えてくれた。と思う……。
「うん……、約束。……わたし、がんばる」
 最後に里村茜が見た観鈴は、笑顔だった。
【神尾観鈴】  (支給武器:イングラムM10)
【里村茜 死亡】(支給武器:ピンク色の傘2本)
【残り57名】




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