放ってはおけないから
暗い世界を走っていた。
彼女、川名みさきは目が見えない。夜の闇ではなく本物の闇である。星明かりも意味のないものだった。
走るのは得意だから、走っている。
納得もできるはずないまま始まった死のゲーム。
盲目という圧倒的ハンデを背負った自分は格好の獲物となることを充分すぎるほど理解していた。
それでも、せめて最後まで足掻きたかった。浩平君を助けることは自分には無理だから。
「ハァ……ハァ……」
息が切れて立ち止まる。次の瞬間、誰かの足音が確かに聞こえた。
「誰っ!?」
足音が止まる。そして沈黙。方向まで特定できなかったために、相手に向くことさえできなかった。
「わたしを殺しに来たのかな?」
少し落ち着いたので強りを言う。もちろん、声は震えていた。
「わたし、目が見えないけど。簡単には殺されてあげないよ」
言ったとたん、みさきは再び走り出した。
間をおかずに足音が追いかけてくる。
速かった。追い付かれ手を掴まれるまで、長い時間は必要としなかった。
「……捕まっちゃった」
「一人で走ると危ない」
声が答えた。静かで、強い女の人。
「一緒に、行く?」
思いも寄らない台詞だった。
「放ってはおけないから」
相手の口調から、自分を気づかっているのだとわかる。
「……お名前は?」
みさきが尋ね、声が答える。
「川澄……舞……」
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