無題
――少しだけ、時間を遡らせてもらう。
それは、ゲームが始まって、ほんの少し時間が経過した教室。
数分毎に、一人づつ、支給品と自分の荷物を持ち、教室を出て行く。
足取りは一様に重い。なかなか出て行こうとしない者には、
男が軽く爆破装置のリモコンを振ってみせる。
その瞬間に、彼女らは弾かれたように教室から駆け出して行くのだ。
そんな中でも、自分が呼ばれるまでの、ほんの、ほんのわずかな間に、
様々な事を試みようとする人たちがまたいるのもまた必然である。
知り合いだと思われる人に、こっそりと紙切れを渡していく人。
『そんなことしても、結局最後にはひとりしか生き残れないのにね』
ほんの僅か、ほんの僅かだけ机と椅子を寄せ合い、脱出の方法をひそひそと考える人たち。
『だめだよ。そんなことしちゃったら、大好きな人まで帰って来なくなっちゃうよ?』
結局、このゲームに乗るしかないんじゃないかな。
……と、そこで自分の名を呼ばれた。
「えーと、次は39番。月島瑠璃子」
席を立ち、支給品を受け取る。男と目を合わせる事はしない。
何故なら――
敵は、今までに部屋から出て行った、そしてこれから出て行く人たちなのだから。
外に出た。涼しげな夜風に暫し身を任せ、息を一つ吐く。
「待っててね、お兄ちゃん、長瀬ちゃん」
月島瑠璃子の目下の悩みは、自分が最後まで生き残ったとき、どちらを助けるか、という事であった。
前話
目次
次話