Fujiyama






小さな呻きとともに一等陸士であるゴトウは身を起こした。
いつの間に気を失っていたか、まったく身に覚えがない。
東京へICBMの落下を企むトールマンたちメシア教徒の横暴を防ぐため、
クーデターを起こし演説したところで記憶が途切れている。
そして、気付けばこの殺し合いに巻き込まれていた。

ゴトウは静かに手を合わせ黙祷する。
捧げる対象は、もちろん古来より日本を守り続けてきた偉大なアスラ王へだ。
アスラ王の言葉を、ゴトウは忘れていない。
確かに、あの時、あのフードの者たちを「天使」と呼んだ。

つまり――あそこにいたのは、アスラ王と、引いては自分たちと敵対する、
天使の軍勢ということだ。

この者たちに、決して屈してはならない。
ゴトウは、護国のための戦士。引いては、国の民を守る規範となるべき立場。
その自分が、名簿を見れば日本人も混じっているこの場で、殺し合えなど決して飲めるものではない。
国と、その民。それがあってこその国家。
それらを護るため裏切り者の汚名すら甘んじて受け、憂国の士として、ゴトウは立ち上がったのだ。

「これを聞くメシア教の者たち! よく聞くがいい!」

閉じていた目をカッと開き、ゴトウは宣言する。

「たとえこの先何があろうともお前たちを止める!
 われらの意地と誇り、甘く見ないことだ!」

もちろん、誰も届くことはない虚空に溶ける。
それでも、この誓いは消えることなく、ゴトウの胸に刻まれる。

ゴトウは、自分に渡された袋を開け、道具を確認する。
歯がゆいが、渡された武器も使わざるをえない。
だが、見ていろ。必ずお前たちが奢り渡した武器をかならずお前たちの首に突き立てて見せよう。
ゴトウに渡されていたのは……小さなアクセサリーと、剣だった。
「む……?」

説明書きに目を通し、ゴトウは驚く。
この、宝玉に翼のアクセサリーのようなものはケリュケイオンなる名前でブーストデバイス……という道具らしい。
ともかく使ってみようと魔破斬魔や縛封を使う時のように、掌に魔の力を送る。

『Hello〈こんにちは〉』

流石にこれにはゴトウも目を剥く。突然手袋になったかと思えば、しゃべりだす。
このような道具は初めて見た。
ゴトウも、戸惑ったが、どうにか能力などを聞き出していく。
どうやら、性格自体は素直のようだ。
むこうからここはどこなのかなど、いくつか丁寧に受け答えればしっかり答えてくれた。
音声認識機能付きのPCに近いか、とゴトウもどうにか飲み込む。

「つまり……この、キャロ・ル・ルシエがお前の本来の所持者なのだな?」
『Yes 〈はい〉』


信じられないことをいくつも言い放つ宝石に、目まいを覚えながらも、
どうにかゴトウは持ち前の冷静さで話をまとめていく。
このケリュケイオン、こことは違う世界がいくつもあり、
そこの……軍隊で治安維持用の戦力として開発されたもの、らしい。
半信半疑だが、機械が嘘をつくはずがない。
それに、こんな滑稽無燈な嘘を機械に吹き込む意味が分からない。
ゴトウ自身も、魔界という異界の存在を知っている。

受け入れるしか、ないだろう。

「……分かった。しかし、お前は、使い手の力を強化するのだな?
 武器は、剣があるからいいが……手袋ではなく防具などにはなれないのだろうか?」

ゴトウが問うと、どうやらバリアジャケットなるものを生成することもできるとケリュケイオンは答えた。
作れるのであれば、ゴトウとしては、可能な限り防具はつけておきたい。
当然だ、ここはいつどこから攻撃が来るかわからぬ戦場なのだから。
そして――ゴトウはバリアジャケットを装着した。
ゴトウの、考える戦闘衣装の衣装を反映して。

『…………………』

ケリュケイオンは、無言。いや絶句。
ゴトウの今の格好を説明しよう。



まず、肩がよく見える。二の腕を包むものがない。


肩甲骨がよく見える。背中を隠すものがない。


腹筋がよく見える。腹を隠すものがない。


足は指先までよく見える。足を隠すものがない。



見えないものは、男子としてのある一点のみ。






その格好は―――褌一丁だった。





【現在位置:B-2橋 深夜】
【ゴトウ】
【所持品: 基本セット一式 ケリュケイオン 備前長船】
【状態 健康】



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