吹雪、がんばります!







 特型駆逐艦・吹雪は練度が低い。
 とはいっても、彼女が戦力外扱いを受けていたとか、何か特別ないわくがあるわけではない。
 ただ単に、彼女は鎮守府へやって来てから日が浅いのだ。
 少なくとも……舞鶴鎮守府で、自分の後に建造されたという艦娘の話を吹雪は聞いたことがなかった。
 要するに、一番の新顔というわけである。

 「はあ……」

 新顔なだけあって、同じ鎮守府の仲間とも交流を然程深められていないのが現状だ。
 そこで、これから少しずつ親交を深めていき、新入りなりに皆と仲良くなるのだと一人意気込んでいたのだが。
 結局、吹雪の鎮守府生活は最悪の形でスタートを迎えることとなってしまった。
 いや……それどころか、そもそも鎮守府にもう一度戻ることが出来るかすら疑わしい始末だ。

 「全然笑えないよ……」

 何度目かも分からない、深い深い溜息が自然と口からこぼれ落ちる。
 吹雪は本来多少の失敗にはへこたれず、前向きに活路を模索できる性格の持ち主であったが、こればかりは話が別だ。
 ――未だ任務にも遠征にも出たことのない彼女にとっては、これが最初の作戦参加である。にも関わらず、敵対しているのは深海棲艦ではない。今回の敵は提督であり、良くしてくれた工作艦であり、まだ見ぬ謎の男性達であり。
 そして、場合によってはこれから共に戦う筈だった艦娘達もまた、敵となり得るのだ。
 こんな状況に置かれれば、誰だって溜息の二つ、三つは吐きたくなるだろう。
 それに。事実上顔見知りのいない状況下での殺し合いを命ぜられ、正気を保っていられるだけでも、彼女は優秀な精神構造をしているといえた。だがあくまでそれは、現実感の欠如という"弱さ"に裏打ちされたものであったが。

 不安がない? そんなわけがない。
 こうしている今も、少し気を抜けば押し潰されそうな程の恐怖に苛まれている。
 酩酊した現実感は確かに付け入る隙となる致命的な要素かもしれない。
 だが――それがなければ、落ち着いた行動など、到底取ることなど出来ないだろう。

 物言わぬ黒鉄の駆逐艦、"吹雪"ならばまだしも。ここにいる"吹雪"は、年並みの心を持った少女に過ぎないのだ。


 「どうしよう」

 弱音を、こぼす。
 しかしながら、彼女はこの殺し合いにおける自身の在り方は既に定めていた。
 言わずもがな、殺し合いへの反逆だ。
 たとえ面識のない相手とはいえ、遠い過去には同じ目的の為に戦った仲間。同志。
 そんな人達を我が身可愛さで手に掛けるなど――言語道断だろう。そう思った故の判断だった。
 
 でも、どうやって?
 当然ながら、吹雪には精密機械の塊である首輪を解除できる技術などない。
 殺し合いに乗ってしまった者の鎮圧すら、実戦経験のない彼女では荷が重いだろう。
 かと言って、皆を安堵させ、惹き付けるような人望があるわけでもないのだ。

 「どんなに頑張ったって、私じゃあね……」


 何故なら――その言葉には、重みがない。
 建造されて数日かそこらしか経過しておらず、挙句実際に海へ出たことすらないと来た。
 そんな小娘の声に、誰が耳を傾けるだろうか? ……少なくとも吹雪には、そんな物好きはいないだろうと思えた。
 
 もっとも、そんなに気張らなくたって殺し合いへ抗うこと自体は可能だ。
 自身の立場を明らかにした上で、同じ志を持つ参加者へ同行を志願するなりすればいい。
 そうすれば、とりあえず作戦打倒派として戦うことはできるようになる。
 けれど――所詮、それまでだ。無力な小娘一人、足手まとい以外の何だというのか。

 何か。何か、自分にもできることはないだろうか。
 武勲を欲するわけではない。そんなもの、もっと貰うに相応しい人がいくらでもいる。
 いる、けれど。このままではあまりにもやり切れないではないか。

 そう思い、吹雪は――自身にあてがわれた12.7cm連装砲へ視線を落とす。
 これは、艦娘の武装としては比較的オーソドックスな代物だ。
 彼女は知る由もないことだが、現にこの砲を支給品扱いとして与えられた艦娘も少なくはない。

 「こんなところで使いたくなんて、なかったなあ」

 たはは。そんな苦笑が、厭に情けなく思えた。
 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。
 その答えを求めることに、きっとさしたる意味はないのだろう。
 それを知るのは、どこかで自分達を見下ろしているはずの――"司令官(ていとく)"だけなのだから。


 ――、身体が震えるのは、悔しさのせいか。


 不甲斐なさとやるせなさに震える身体を、冬の日にそうするように優しく抱きしめる。
 ……ここに来てからというもの、マイナス思考ばかりだ。
 少しでも気分を切り替えておかないと、いつか本当に押し潰されてしまいそうだと感じた。
 病は気からと言うが、存外この論は馬鹿にできない。駄目だ駄目だと思っていると本当に事態は悪化の一途を辿っていくし、逆に空元気でも前向きに考えることを心がけていると予期せぬ光明が見えることがある。
 吹雪は大きく息を吸い、そして吐いた。深呼吸だ。……気休めかもしれないが、ほんの少し楽になったような。
 でも、まだ震えは止まらない。もう一度、今度は更に深く息を吸い込んで――

 「……あれ……?」

 ――ふと、自分の身に付けているデイパックへ目をやった。
 
 ……気のせいだろうか?
 なんだか、今このデイパック、動いたような――……?

 「って、いやいや、そんなまさか……」

 そんなことあるわけがない。大体、自分はさっき支給品を一通り確認しているのだ。
 入っていたのは今装備している連装砲と、ちゃんと買えばそれなりに値の張りそうなジッポライター。
 それから、よく用途の分からない折り畳まれた白い紙。この三つが吹雪に与えられた支給品であった。
 それなりに当たりの部類だとは思う。火が必要になる局面はいくつか考えられるし、簡単に着火できて持ち運びも容易なライターを所持しているというのは、いつかアドバンテージになるやもしれない。
 しかし最後の一つは意味不明だ。紙の表面に何か気味の悪い文様が書かれていたが、それ以外は説明も何もなしだ。
 ――正直、縁起が悪そうでげんなりしたのを覚えている。

 確認のためにデイパックを下ろしてみて、そこで吹雪ははっとなった。
 震えが消えている。さっきまでのものがまるで嘘のようにだ。
 ……そして地面に置かれたデイパックをよく見れば、やはり左右に少しずつだが動いていた。
 成程。これが身体にぶつかり、重心を揺らしていたのが震えの原因だったんですね……って、冷静に分析してる場合じゃありません。おっかなびっくりといった様子でそれを覗き込むが、やはり外側からでは何がなんだかさっぱりだ。


 ごく。
 生唾を飲み込んで、ゆっくりファスナーに手をかけた。
 意を決し、一気にそれを開ける。
 すると、中から件の折り畳まれた紙が転がり落ちてきた。――いや、それだけではない。


 「な、何これぇ……!?」
 『も、申し訳ありませーん! どなたか存じ上げませんが、引っ張りだしては頂けませんでしょうか!?』


 紙の中から、狐の身体が半分ほど覗いていた。
 勿論、最初はこんなことになっていなかったと誓って言える。
 あまりの事態に不安も忘れ、おろおろとしてしまう吹雪。
 喧しく騒ぎ立てる狐の勢いに押されるがまま、その尻尾を両手で握り締め……思い切り、引っ張った!

 どーん!
 勢い余って尻餅をつく。
 鈍痛が臀部に走り、いてて、と声が漏れた。

 そんな彼女の前に、駆け寄り、ちょこんと座っている愛らしい姿がある。


 『いやはや、助かりました! お怪我はありませんか、艦娘様!!』
 「え……いや、へ……!?」

 困惑を隠すこともなく露わにする吹雪の身を、平身低頭といった様子で子狐の姿をしたソレは案じた。
 ――え、なんで狐?
 ――そもそも、なんでこの子喋ってるの?
 ――さっきの紙、一体なに!?
 疑問符しか浮かばない彼女の様子を察したのか、もう一度深々と礼をすると、ソレは自らの名を名乗る。
 
 
 『申し遅れました。私、"こんのすけ"と申します。私の存在を知らない貴方様にとっては色々と疑問もあるでしょうが、どうか"こういうもの"として納得していただけると幸いです』

 
 それから、"こんのすけ"はその双眸を申し訳なさそうに細めて、言った。


 『私は――――"審神者"様にお仕えする、式神にございます』

 ■


 審神者。
 その呼び名には覚えがあった。
 それは確か、最初のホールで明石が語った"主催者"の一人の筈だ。

 「審神者……それって確か、この殺し合いを主催する側の方、ですよね?」
 『はい』
 「……じゃあ、あなたも?」
 『……いいえ』

 こんのすけの声色は、どこか消沈しているように感じられた。
 意地悪な質問をしてしまったな、と罪悪感すら覚えさせる。
 念の為に聞いたことだったが、実のところ吹雪は、この彼が主催と内通しているとは最初から思えなかった。
 思えば最初から。どこか、彼は焦っているように見えたのだ。
 そして自分を見た時、ほんの一瞬ではあったが申し訳なさそうな顔をした。
 ――感情の機微をそこまで敏感に察せるわけではないが、あれは多分、心からすまないと感じている顔だったと思う。少なくとも、これから自分を陥れようとしている顔ではなかった。
 ……狐の表情でその心中を察そうとするのは、よくよく考えるとおかしいが。

 『私は確かに審神者様の式神です。
  ――しかし、今は完全に繋がりを断たれている状態でして。
  式神としての権能や機能も、何一つ使えない有様なのです。早い話が、単なる一匹の野狐と変わりません』
 
 「機能……」

 『詳しく話すと長くなるのですが……、例えば、この島の外側へ救援を求めるようなものもあります』

 こんのすけとは、本来審神者とその本丸へ配備される式神だ。
 その為形式上こそ審神者の従者という扱いになるが、政府へのパイプ役という役割も持つ。
 例えば、本丸の運営が覚束なくなった場合。また、何らかの重大な問題が生じた場合等など。
 事実、こんのすけが政府へ連絡することで審神者を解任された例も数こそ少ないが存在する。
 そういう仕組みの存在もあり、本来こういった審神者による暴挙が発生する可能性は限りなく零に等しいのだが……

 『迂闊でした。よもや、審神者様があのような術を習得していようとは……
  言い訳をするつもりはありませんが、私も私で、あの方のことを信用しきってしまっていたのです。
  普段の彼女は――皆を慮り、それでいて時に厳しく導く女傑でございましたから』

 その言い方からするに、彼が本当に自身の主たる審神者へ信を置いていたのだとわかった。
 そして、それだけに当の彼自身が誰よりも、その凶行を止められなかったことに――そして、事を起こそうとする兆候を見つけることすら出来なかったことに、強い悔恨の情を抱いていることも。
 
 「……そんな人が、どうして……」
 『わかりません。
  ですが、これだけは言えます。この殺し合いは、なんとしても止めなくてはなりません』

 しかし、情けないことに今の私には力がありません。
 そこで、貴女様の力をお借りしたいのです。

 こんのすけの瞳は、真摯に吹雪を見上げていた。
 ああ。やはり彼は、主催の内通者などではないのだと理解する。
 腹に一物抱える者には、こんな目は出来ない。
 そして。――その懇願は、吹雪にとってもっとも求めていたもので、同時にもっとも辛いものであった。

 吹雪には、力がない。
 艦娘としての強さに直結する練度は、この会場に存在する艦娘の中でも最低のものだ。
 実戦経験は皆無、砲すら艦娘の身体で放ったことはない。
 そんな自分に殺し合いをどうにかする力があるかどうかと問われたなら、誰もがこう答えるはずだ。
 否――、と。そのような役立たずに出しゃばられるくらいなら、精々戦場の隅で無力に震えていればいいと。
 当の吹雪自身でさえもそう思っている。自分では余りに役者が足りない。端的に言って、弱すぎる。

 「……お断り、します」
 『な……そんな! どうしてですか、艦娘様!?』

 悲痛な声をあげるこんのすけ。
 それに心は傷んだが、吹雪は発言を撤回しない。
 
 「私では、ダメです。私じゃ、殺し合いを止めることは出来ませんから」

 今のこんのすけはただの狐と同じ程度の力しか持っていないという。
 なら、戦いに巻き込まれて傷を負ってしまえばそれで終わりだ。
 そういうことを加味しても、彼と共に戦う人物はより強く、勇ましい艦娘の方がいいに決まっている。
 
 『それでは、貴女は……』
 「私は……えへへ、どうしましょうね。とりあえず殺し合いをするつもりはありませんから、安心してください」

 こんのすけはそれを聞くと、すっかり黙り込んでしまった。
 無理もない。必死に事態の収束を図ろうとして協力を要請したのが、無碍に切り捨てられてしまったのだから。
 けれど、これが互いにとって最善なのだと吹雪は信じていた。
 勿論、ここで見捨てるほど薄情者ではない。
 一先ず彼と共に戦ってくれる、他の参加者を探し当てるまでは同行するつもりだった。
 ――が、そんな彼女の心中を余所に。こんのすけは、吹雪の顔をまっすぐ見上げて問いかける。


 『一つだけ、聞かせてください。
  ―――どうして、泣いているのですか』

 「……?」


 ――――言われて初めて、吹雪は自分が涙を流していることに気が付いた。


 
 「あ、あれ……? 私、なんで……」
 
 それを聞きたいのはこんのすけの方だった。
 殺し合いの打破へ協力してほしい旨を伝えると、彼女は断った。
 しかしその大きな瞳は涙に潤み、言葉を重ねる度、それはしずくとなって滴り落ちた。
 
 吹雪は未だ知らないことだが、艦娘と刀剣男士の在り方は似通っている。
 それは練度という概念についても同じ。
 艦娘に対しての知識は深くないこんのすけだったが、故に彼女の言葉の意味を理解することはできた。
 つまり、彼女はこう言っているのだ。
 自分は練度が足りない。
 そして恐らく、鍛刀……もとい、建造されて間もない。
 だから横の繋がりもほぼ皆無に等しく、この殺し合いという状況では何の役にも立ちはしないのだ、と。

 『心配ご無用ですよ、艦娘様。
  私は何も、力のみを求めているわけじゃありません。――力だけじゃどうにもならないことだって、あります』

 人の心を真の意味で動かせるのは、同じ人の心だけだという。
 それは艦娘も、刀剣男士だって同じだ。
 単に練度が高い、経験が豊富というだけでは……解決の出来ない問題だって必ずある。
 が、それでもなお、吹雪の顔色が晴れることはなかった。

 「私、駄目な子なんです。
  こんなに弱くて、おまけに知り合いもいない。
  こんのすけさんはそう言いますけど、別に気の利いたことが言えるわけでもない。
  ――そんななのに、私、こんなことを考えてしまうんですよ。……"誰かの役に立ちたい"……って」

 自分は弱い。
 他人の役に立とうと思うなら、それこそ隅でじっとしている方が余程役に立つほどに。
 そんなことは百も承知だ。承知した上で尚、分を弁えない願いを抱いてしまう自分が嫌だった。
 
 「でも、仕方がないじゃないですか。
  私だって……私だって、二度目の生に何も感じてないわけじゃない」

 第二次大戦――海上を馳せ、物言わぬ身体で戦った日々のことを、吹雪は断片的にではあるが記憶していた。
 
 記憶があったからこそ、目覚めた時の感慨は凄まじいものだった。
 何もかもが変わった世界と、新たな敵。
 今度こそ、自分を建造してくれた司令官の為に頑張って戦おうと決意していた。
 その矢先に殺し合いが起こったことで、その決意が報われることは遂になかったわけだが。


 「悲しすぎるじゃないですか。
  ……無念すぎるじゃないですか。
  折角生まれ直して、人の体を手に入れて。
  それなのに一度も戦わないまま、誰にも必要とされずに生きて……また沈められるなんて。
  そんなの――悔しすぎるじゃないですか」


 それは弱い彼女が抱いた、弱いなりの意地だった。
 誰にも、自分の存在を無意味だったと言わせたくない。
 せめて一度でもいいから活躍して、誰かの役に立って……艦娘として生まれ直した意味はあったのだと満足したい。
 けれどその願いは、他人の足を引っ張ってしまうものだと、利口な彼女は自覚してしまっていた。
 だから閉ざした。自分を無価値と断じ、心の瞳を閉ざすことで、敢えて無力に甘んじようとした。

 その気持ちは、こんのすけには理解できない類のものだ。
 されど、その悲痛さは余すところなく伝わってきた。
 そして。だからこそ、彼はこう思う。


 『ええ。その通りです、艦娘様。
  ――そして今、確信しました。このこんのすけが貴女様の支給品として配給されたこと。それは紛れもなく、私めにとって最大の幸運であったのだと』

 彼女は確かに弱いのだろう。
 しかしながら、その想いはどこまでも一途だ。
 殺し合いを止めたい。仮に自分が生き延びられなくとも、何らかの希望を残したい。
 見返りを求めない姿勢はあまりに真摯で、いじらしいほどである。
 
 だが――そんな彼女だからこそ、常識を覆す切り札になり得る。
 その足取りは決して綺麗ではないかもしれないが、彼女はきっと、立派な希望になるはずだ。
 こんのすけはそう理解し……その上で、彼女との出会いを幸運と評したのだった。

 『こんのすけ、一生の頼みにございます。
  煮るなり焼くなり好きにして頂いても構いません。
  ――どうか、お願いします。私と共に、審神者様達と……戦ってください』

 彼にも人の身体があったなら、土下座でもしていそうな勢いだった。
 それを吹雪は、茫然と見つめている。
 彼女にとって、彼の発言と行動は到底信じられないものであったのだ。

 とくん。 
 心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
 それは彼女が最も望んでいたこと。
 弱いなりに活躍し、殺し合いを破壊し、皆でハッピーエンドを掴み取るという王道。
 
 「でも、そんな……」
 
 こんのすけはもう何も言わなかった。
 後は彼女が決めることだ。彼女が嫌なら無理強いは出来ないし、言えるだけのことは全て言ったと思っている。
 己を偽らずに、不器用であれども希望の道を進むのか。
 それとも己を偽り固め、世界を閉ざして諦めてしまうのか。
 正しく二者択一。吹雪は、目の前に二又の分かれ道が広がっている錯覚をすら覚えた。

 手を握り締める。
 これが最後のチャンスだ。
 自分の在り方を定める、最初で最後のチャンスだ。



 「……私に、そんな大層なことが出来るかはわかりませんけど……」
 
 
 やがて彼女はこくり小さく頷けば、姿勢を落とす。


 「やれるだけ……やってみます。――吹雪は、がんばります」
 
 
 そして――こんのすけの頭を、優しく撫でた。
 その意味はこんのすけへもしっかりと伝わり。

 ここに、一つの"希望"が誕生するに至った。


 ■


 「ええっと……それで、これからどうすればいいと思いますか、こんのすけさん」

 一悶着を終えた一人と一匹は、ひとまずこれからの行動方針について話し合っていた。
 更には前置きとして、こんのすけの口から刀剣男士についての知識も語って聞かせた。
 歴史修正主義者と日々戦い続ける刀剣の付喪神達。
 こんのすけ曰く、進んで仲間を討とうとする刀など思いつかないとのことだったが……状況が状況だ。余計な先入観は捨て去り、いっそ初対面の相手に接するくらいの気持ちでいた方がいいだろうということで合意した。
 
 『やはり、まずは勢力を広げていかないと始まらないでしょうね。
  艦娘様でも刀剣男士様でも、現状の我々が抱える最大の問題……即ち戦力不足を解決するためにも、志を同じくする仲間を得ておきたいところです』

 「……仲間、ですか……」

 吹雪はやや不安そうに顔を曇らせた。
 やはり強気ではいられない。
 自分などの話をちゃんと聞いてくれるのか、果たして信用してくれるだろうかという不安。
 考えれば考えるだけ不毛だと分かっていても、どうしても悪い方にばかり考えてしまうのは悪癖だった。
 が、そこは吹雪も一念発起した身。
 ぶんぶんとかぶりを振って弱気を振り払い、うん、と力強く一つ頷いてみせた。

 (大丈夫。――やれるだけ、頑張ってみよう。私が、皆を助けるんだから……!)

 一人と一匹。
 その戦力は、間違いなく現状最弱のもの。
 彼女達の行く末にあるのは、敢えなく現実の前に蹴散らされるという絶望だろうか。
 
 それとも――胸に描いた通りの、ハッピーエンドという希望か。答えは、未だ誰にも分からない。


【H-4 林/一日目/深夜】

【吹雪@艦隊これくしょん】
[状態:健康、強い決意]
[装備:12.7cm連装砲@艦隊これくしょん、こんのすけ@刀剣乱舞]
[所持品:基本支給品一式、ジッポライター]
[思考・行動]
基本:――吹雪、がんばります。
1:こんのすけさんと一緒に、とりあえず仲間になってくれる人を探す。
2:くよくよしても仕方ないですよね。
[備考]
※『刀剣乱舞』の世界観についての知識を得ました。



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