されど戦神は姫と踊る
とある民家の居間で、椅子に優雅に腰掛けたシェリー・ベルモンドは黙考する。
突如として事態に巻き込まれ、名も知らぬ他人と戦うことを強要され、勝ち残るのは唯一人。
それだけなら魔物の王を決める戦いと同じだ。
だが今までの戦いは“命を取ること”までは強制されなかった。
魔物の本を燃やせば魔界へ強制送還、というシステムは一種の安全装置でもある。
だがこの“ゲーム”は違う。
相手を殺さねば自分も死ぬ。
自分以外を皆殺しにして生き残る。
「馬鹿馬鹿しい」
金細工の如き長髪を手漉き梳き、吐き捨てる。
殺す?
ココを?
親友を?
論外だ、そんなことは出来ない。
魔物の王を決める戦いなら多少は乗る理由も在る。
共に戦った相棒を、ココを守るための力を貸してくれたブラゴを王にするためなら
自分は見知らぬ他人を、あるいは見知った他人を殺すことも厭わないだろう。
だが、このゲームにそんな理由など存在しない。ココを傷つける理由も何の恨みも
無い他人を殺害する動機も存在しない。
シェリー・ベルモンドの目的は定まった。
「ココを連れてこのゲームから脱出する。」
目的を定め、シェリーは改めて名簿に目を通す。
見知った顔は3つ、優先的に探すのはココと高峰清麿。
ココは親友だから当然。
高峰清麿は自分よりもさらに幼い少年だが、その高い知性と強靭な意思は頼りになるし人品も信頼できる。
もう一人の知人であるパルコ・フォルゴレは性格は信用できるのだが・・・
いまいち便りに成りそうにないので後回しにすることに決める。
(あとは、あの碑妖とやらを駆除できる技能の持ち主ね)
そこまで考え・・・シェリーは硬直した。
敵が来ている、恐ろしい敵が
全身が粟立つのを感じながら、シェリーは優雅に立ち上がる。
腰に下げた剣の柄に手をかけ、ゆっくりと廊下へと続く扉を振り返り。
「どちらさまかしら?」
問いかけに答えるように、扉が開かれる。
現れたのは軍服を着込んだ長身の白人男性。
男は無表情にシェリーを見つめる。
「あなたは・・・」
いつでも動けるように身構えながら、名簿の写真を思い出し再度問いかける。
「ムッシュ・シルバーで宜しいかしら?」
「・・・そうだ」
返答までに間があったが、今は気にしている場合ではない。
「一つ宜しいですか、ムッシュー?」
「なんだ」
「あなたはこのゲームに乗るつもりですか?」
返答は
メキメキメキ
男の左腕が音を立てて膨れ上がり、馬鹿げたサイズの巨大な鉤爪と化す。
気配から只者ではないと感じていたが、どうやら人間ですらなかったらしい。
「それが返答ですね?」
異形の左腕に目をやり、シェリーはすらりと抜剣し構えた。
ガシャン
と、硝子格子を砕きシェリーは背後への庭へ着地。
同時に凄まじい速度で突進してきたシルバーが左腕を振るう。
明らかに体格に不釣合いなサイズの豪腕が空間を薙ぎ、地を砕く。
掠めただけで致命傷となる一撃を身を投げ出す様な横っ飛びで回避、転がる勢いを利用して立ち上がる。
服は泥まみれ、転がる際に剣を抱えていた左腕を浅く切ってしまったが、支障はない。
その間、シルバーはただ詰まらなそうにシェリーを見ている。
「倒れた女に追撃はしないの?お優しいわね。」
彼女の揶揄に答えるわけでも無しに鼻を鳴らし
「一つ言っておくが、オレは別にゲームに乗せられたワケではない。」
「じゃあなんで襲い掛かってくるのかしら?」
「闘争こそがオレを形作る真実だからだ。このゲームが何のために物であろうが、このオレの戦闘生命体
として、『戦いの神』としての生を満たせるならばどうでもいいこと。」
言って狂笑を浮かべる。
「はんっ」
シェリーは嘲笑を浮かべる。
「下らないわ。」
「何?」
シルバーは訝しげに少女を見やる。
「あなたがどんな人生を歩んできたかは知らない、何の目的もなくただ戦うだけなんて、
守る物も為すべきことも無く自己満足の為だけに他人を傷つけるだけなんてゾフィー以下よ。」
強靭な意志を湛えた目が、シルバーを見据える。
「あなたは戦い神でも何でもない、ただの卑怯者の下衆野郎よ!!」
叫び同時に、少女は一挙に踏み込んでくる。
一瞬の虚を付かれ、反応が僅かに遅れた。
右側面からの鋭い突き、回避しきれないと判断し右腕で受け止める。
ずぶり
刀身が肉に食い込む熱い感触。だがARMSの再生能力を持ってすれば掠り傷のウチにも入らない。
そのまま前腕部の筋肉を締め、剣を拘束しようとし、
「サングレ・イ・フェーゴ!!」
少女の叫びと共に刀身から凄まじい電流が駆け抜ける。
「がぁぁぁぁっ!!」
ARMS最大の弱点、強力な電撃を直接浴びせられシルバーは崩れるように膝をついた。
肉の焦げる嫌な臭いを嗅ぎながら、止めを刺すべく「血と雷」を引き抜こうとし。
「見事だ。」
「!!」
膝を突いたはずのシルバーが再び立ち上がる。
シェリーは即座に相手の筋肉に拘束され動かぬ剣を手放し、下がろうとするが。
「あぐぅ」
それよりも早く、シルバーの異形の左腕が彼女を文字通り“握り締めた”。
ギリギリと肢体を締め上げる豪腕の中で、苦痛に顔を歪めながらもシルバーを睨み付ける。
バチンッ
「あっ」
金属質の鍵爪から紫電が走り、少女の意識を奪う。
手の平の中で気絶した少女を見つめ、しばしシルバーは立ち尽くしていた。
「卑怯者の下衆野郎、か。」
やがて少女を握ったまま家に入り、家の寝室のベッドに彼女を横たえた。
少女を寝かせた、右腕に刺さった剣を抜いて枕元に立て掛け、シルバーはそのまま家屋を後にする。
築地があるので外観からは室内の異常は分からないはず、万一他の参加者が気付いたとしても
それは単に彼女の運が無かっただけの話だ。
高槻涼を探そう、
心が乾いていくのを感じながら、シルバーは思う。
あの魔獣と戦えば、この虚しさもきっとどうにかなる、そう思いながら。
【I-6 民家/早朝】
【シェリー・ベルモンド@金色のガッシュ】
[状態]気絶、土まみれ
[装備]血と剣(サングレ・イ・フエーゴ)@からくりサーカス
[道具]荷物一式
[思考]1.ココ・清麿と合流
2.ココを守る
3.ココと共にゲームからの生還
【キース・シルバー@ARMS】
[状態]全身ダメージ(自己修復中)、虚しい
[装備]不明(本人は確認済み)
[荷物]荷物一式
[思考]1.高槻涼を探す
2.高槻涼と戦う
前話
目次
次話