魔人邂逅






「火は赤、赤は南なり、夏なり羽根なり!『己』になる『戊』を方角西南より東北へ!!」
哀れなる老人を飲み込もうとした煉獄の炎は、振るわれた錫杖により文字通り跳ね返された。
逆流する炎蛇の進行方向には禍々しい仮面を着けた男が一人、炎の渦が男を飲み込み・・・

流れすぎた後には、何事も無いかの様にたたずむ男の姿が。

「お見事です、ご老体。」
己の攻撃をことごとく凌いだ老人を、炎の魔人・紅麗は素直に賞賛する。

「ふん、貴様ごとき若造にくれてやるほど、ワシの首は安くはないわ。」
尊大な態度で言い返したのはヨーロッパの魔王・ドクターカオス。
・・・最も、内心冷や汗だらだらなのだが・・・
(なんっちゅうハイレベルな炎術氏じゃ、ろくな霊具も無しにこれほどの炎を操るとは!)

「これは失礼。では、私もそろそろ本気を出しましょう。」
言うや同時に、仮面の男の身から炎の翼が生える。
否、炎の天使が生み出された。

「な、なんじゃぁ!?」
「ご紹介しましょう、彼女の名は・・・“紅”」

驚愕覚めやらぬ様子で、しかしひどく冷静な視線で美しき天使を観察するカオス。
「ぬぅ、こやつジンと契約を・・・違う!これは・・・人の魂魄を取り込み式神にしたのか!!」
先ほどまでとは一線を隔した恐るべき熱量、いかな齢1000歳を越えし魔人・ドクターカオスとて
得手とは言えぬ陰陽道の技ではこの炎を防ぎきることは不可能。
身体能力で圧倒的に勝る仮面の男相手から逃げ切ることも困難。
(もはや此れまでか・・・)
死を覚悟する大錬金術師。


・・・ところが、仮面の男は突如として炎を収めた。
「一目で紅の本質を見抜くとは・・・。素晴らしい慧眼です、ドクターカオス。」

「どういうつもりじゃ?」
急に戦意を収めた紅麗に訝しげに問いかけるカオス。
「あなたの見識と実力は失うにはあまりにも惜しい、ということですよドクター。不遜極まりないゲームの主催者どもを
倒すためにも、あなたの頭脳が不可欠なのです。」
「なるほどのう。詰まり、このワシに貴様の下につけ、と言っておるのか。」
片手であごをなでさすりながら、じろりと紅麗をねめつけるカオス。
「理解が早くて助かります。あの女を倒したあかつきには、ドクターには是非とも我が“十神衆”に加わっていただきたい。
既にお気づきでしょうが、我々はそれぞれ異なる世界から集められています。主催者どもを仕留めれば、異世界を繋ぐ技術
は我らのもの。そうなれば、ドクターは私の統治する組織“麗”の元で存分に探究心を満たすことが出来るでしょう。」
そんなカオスに対して口調だけは慇懃に、高慢な態度を崩さぬまま語りかける紅麗。

「くくくくくっ、あの妖女めを倒すことはすでに規定事項か。不遜極まりないのは貴様のほうじゃろう?」
そんな紅麗の言葉にカオスは心底愉快そうに問い返す。
「まあ、良かろう。気に入ったぞ紅麗・・・その器、このワシを使うに値する!!この“ヨーロッパの魔王”が
貴様の力となろう!!」

  ―その代わり、貴様の肉体はワシの新たな器とさせてもらおう―

錬金術師が定めた代償は魔人の器。確かに紅麗はドクターカオスを使うに値する。
なぜなら、魔人は錬金術師の新たな器となるのだから。
【G-7 山間部林道/早朝。ゲーム開始から2時間経過】
【ドクターカオス@GS美神】
[状態]やや疲労
[装備]錫杖@うしおととら
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.紅麗に協力
   2.ゲームの解明
   3.いずれ紅麗の肉体を奪う

【紅麗@烈火の炎】
[状態]健康
[装備]不明(本人は確認済み)
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.カオスにこのゲームの解析をさせる。
   2.有能な参加者を配下に、従わないものは殺す。
   3.主催者を倒し、その力を我が物に。



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