大きな光と大きな闇
駆ける………駆ける………、、、、、駆けた
普段より消耗する体に感づきながらも、電光石火で走り続けた
しかし、それももう限界、木陰に入る、息をつく、汗を拭う、座り込む、そして気を抜いた瞬間………
「こんにちは皆さん。12時になりましたので最初の放送に入ります」
……………悪魔の声が聞こえてきた
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「う………、9人も………、嘘…じゃないのか………」
震える声、頭を垂れる、ぶつぶつと呟き続ける
「狂ってる、どうかしてる………、何故なんだろう、僕は母さんと絵が描きたかっただけなのに………」
バロウは、バロウ・エシャロットは、自らの手で母親を再起不能に陥れてしまった
もちろん、彼自身がそんなことを願ったわけではなく、母親が自らそうなろうとしたわけでもなく
他の誰かがそうさせたわけでも、もちろんなかった
けれど、どうあろうと、結果は生まれてしまうものだ
………そう、それが残酷な物だとしても
彼は呪った、自分自身を、人として生を授けられなかったことを
そんなことを言ってもしょうがない、過去は変えられない、過去は捨てられない
あるのは現在、変えられるのは未来
そして彼は、全てを捨てて未来を変える決意をした
100人の中学生が神を決めるための戦い、その影で蠢く地獄人
その"陰謀"に彼は加担する
"ボクが優勝したら、君を人間にしてあげる"
その言葉を信じて戦った
傷ついた味方を容赦なく潰した、足手まといだったから
傷ついた敵を容赦なく潰した、情報が渡るのは困るから
目的以外の全てを捨てた、守るべきは自分の目標だけだから
そして……………、裏切られた
「………? そうか………」
彼は気がつく、それは彼にとっては決定的なもの
「"この戦い"も同じなんだ………」
幾ばくかの人間が、絶対的な力の下で、自らの欲望をかなえるために戦う
表現や意思決定の違いはあれど、やっていることは変わらない
「なら………」
ならまた……………、また"裏切られる"に違いない
たとえ、この戦いで自分以外の全ての人間を倒したとしても………
ネ ガ イ ガ カ ナ ウ ワ ケ ガ ナ イ
ようは、バケツの中に水を入れ、その中に蟻を沢山いれるようなものだ
気まぐれで助け舟として枝や葉が入れられても、結局は沈められる、残酷な遊び
「けれど………」
けれど………、他人に殺されては同じだ、水に沈んでしまえば同じなのだ
そう、この戦いも同じならば、自分ができることも同じ
目標以外の全てを捨て、目的だけを求め続ける
この目的は"生存、そして脱出"
できるはずだ、絶対的な者などいない、微力とはいえ、無力ではない自分だったら………
なんとか気づかれずバケツの端までいって、よじ登り、生存することは可能なはずだ
「………よし」
目標は決まった、ぐずぐずはしていられない、腰を上げて…
"何も捨てない覚悟なら、とっくにできているんだ"
「!!?」
彼は戦慄した
もちろん、言葉が近くから発せられたわけではない
記憶の中の言葉も強い口調で言われたわけではない
けれど………、彼は戦慄した、浮かせた腰が固まった
「そうだ………」
そんなことをして戻って何になるんだ
友にどう話せと言うのだ
母に………、なんと帰りの挨拶をすればよいのだ………
自分は間違っている、間違っていた、そう理解したのではなかったのか
始めから失うつもりでいては、本当に求めるものなど得られるはずが無いのだ
「……………」
頭をフルフルと振り、気持ちを切り替える
やるべき事が………"正しき"やるべき事ができた
「植木君達を探そう、彼らならなんとかしてくれるはずだ!」
こんどこそ腰をあげる、後悔する暇は無い、全ての人の命の導火線には既に火がついている
そして、ふと何かを思いついたように、その場で何か言葉を発する
「あなた…あなた達がこの声を聞くときに、僕は死ぬでしょう」
「僕はこのゲームから全ての人を解放するために動いていました」
「しかし、力及ばずです、皆を助けることはできませんでした」
「けど、この声を聞いたあなた方が行動を引き継いでくれれば、決して無駄にはなりません」
「もう一度言います、この声を聞いているときに、僕は死ぬでしょう」
「でも、そのときにこの言葉があなた達の心に届いたなら、僕は死を後悔しません」
そう、これは保険、そして希望の種
万一、自分が死ぬ瞬間にこの声を発している自分を「過去の映像を現実に変える能力」で出せば
このメッセージはこの場で再び発せられることとなる
そうして、誰か、迷っているものの心に光を与えられるはず………
そう、彼は考えたのだ
「………、よし」
そうして彼は仲間を探しに、やや小走りに進み始めた
その進路は東、何のいたずらか、目的の人、植木がいるその方向である
彼はそうとも知らず、歩み続ける
時々あのメッセージを残し、大きな光を目指して進み続けた………
大きな光には大きな影が付きまとう物だと言うことを忘れて………
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「………、誰だ?」
焼け焦げた神社、そこにたたずんでいた一人の男が、バロウの存在に気がつく
「フゥ………、一応追いますか」
男が完全に気配を消し立ち上がる
追いかけるべき対象はそれほどの速さで動いていない
万一戦闘になるとしても、それほどはなれたところにはならない、約束の時間には帰れる、そう踏んだのだ
「………、3人連続で"あたり"を引く………、なんて幸運があるとは………、わかりませんね」
そうしてそのまま完全に音を立てず動き出す
制限のせいか、それほどの速度は出ないものの、バロウの動きより速い
男――紅麗は時期にバロウに追いつくであろう
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大きな光にたどり着くか大きな闇に飲み込まれるか
それは誰のみぞ知るところなのか………
【G-6 鷹野神社/放送から1時間】
【バロウ・エシャロット@うえきの法則】
[状態]健康
[装備]不明(本人未確認)
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1、植木たちと合流する。
2、救えそうな人を全員救う。
3、このゲームから脱出する。
4、メッセージを残す。
【紅麗@烈火の炎】
[状態]全身に軽度の打撲、ほとんど回復している。戦闘に支障なし
[装備]ネックレスブレード@MAR
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1、カオスにこのゲームの解析をさせる。
2、ボーマンにゲームに役立たない人間の排除、役立つ人間の勧誘をさせる。
3、バロウを追いかける。
4、有能な参加者を配下に、従わないものは殺す。
5、主催者を倒し、その力を我が物に。
6、午後8時に鷹野神社へ
[備考]紅麗はバロウが何を言っているか知りません
バロウはG-7に向かっています
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