無題
4人分の荷物は重く、何より人を殺したという罪の重さにココは疲弊していた。
平瀬村から離れたのは少しでも罪から逃れようとする本能なのか。
適当な木に背中を預け、茂みに隠れるようにして休息をとる。
武器は血液だから貧血にだと命に関わるなぁ…とぼんやり考え、食事
を再びとり、水を飲む。
…あぁ、そうだギンタ君の武器、確認しなくちゃ
ココは初めて殺した少年のバッグをあさる。
入っていたのは十二枚の封筒のようなもの。
ココは期待せず説明書を読んだ。
「…うそ…」
その声は震えていた。期待は逆の意味で裏ぎられ、この封筒のような紙は有利過ぎる物だったから。
まるでココに人殺しを勧めるかのように。
震える手で説明書を持ち、頭に使用方法を叩き込む。
―――使役できるのは1時間のみ、再度使役するには1時間を要する。
―――1時間以内に使役を解除しても再度使役するのに1時間を要する。
―――1度に使役する数と体力の疲労は比例する。
―――破壊された場合、完全な復元に3時間を要する。
―――札の持ち主にのみ使役される。使役途中、札を奪われた場合、使役は不可能となる。
―――札が破壊された場合、式神は消滅する。
そこまで読んだ時あの女性の声が聞こえてきた。放送だ……
どうか、シェリーの名が呼ばれませんようにとココは祈る。
人殺しの自分が誰に祈ればいいのか分からないのに。
『…河内恭介…』
びくりと体が震えた。死んだ。当たり前だ。
自分が肉塊に変えたのだから。
『虎水ギンタ…』
あの少年ならこの札でヒーローのように活躍したかもしれない。でも彼は私が殺したのだ。
許してくださいと言っても彼は許さないに違いない。
『……以上9名…』
―――えっ?
女性は次の禁止エリアを喋り出す。
―――待って、おかしいじゃないの……
どうして美神さんがよばれないの?
ココは混乱していた。殺したはずだ。スナイパーライフルも食料も水も奪った。
聞き逃した?そんなはずはない。生きている……!
大変だ。あの人に私の事を喋られたらやりにくくなる。
今までココは相手を油断させて殺してきた。
敵意を剥き出しにして殺しあってきたわけではない。
「殺さなきゃ…」
心臓が強く脈打つ。邪魔はさせない。絶対に。シェリーを助けるためにも。殺す。大丈夫、だってもう2人も殺してる。
今更躊躇う意味など皆無じゃないの。
「お前、オレの遊び、邪魔したヤツだな?」
突然かけられた言葉にココは緊張する。前方には仮面を被った大男がいた。
「そのライフル、間違いない、オレ、獲物、一匹も見つからない、イライラしてた。」
大きな矛をこちらに向け門都は笑った。
「お前、覚悟し…」
そこまでいいかけて門都は少女の様子がおかしいのに気付いた。
「何がおかしい」
ココは微笑む、しかし嘲り、侮蔑するように。
「だって貴方、まだ誰も殺してないのでしょう?」
彼は河内さんを殺し損ねた襲撃者だろう。
だから美神さんのライフルを持つ私が邪魔した相手だと勘違いしている。
「そう、お前、オレの一番目の獲物!喜べ!」
無邪気に笑う門都。いや、邪気いっぱいだが……
ココは二枚の札を取り出した。
「私にとって…貴方は…」
門都が蛮竜を片手にココにゆっくりと向かってきた。
「練習相手です」
ココの言葉が殺しあいの合図となった。
……何が起きた?
門都は混乱した。左腕が痛い。いや、無くなっている。
「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
目の前には弱者でしかない少女が笑っている。
強者である自分の左腕が石となり崩れ落ちていた。
激痛激痛激痛
右腕で大矛を振るい、自分を石化させたトカゲを潰そうとする。
しかし今度は手足もない口だけの奇妙な生き物のタックルをくらい、情けなくなるほど吹っ飛ぶ。
少女は遠慮なく無防備な門都に血塊弾を撃ち込む。
「ビカラ!」
主の呼び掛けに式神は従う。
その口だけの式神は門都の右腕に噛みついた。肉が引き千切られる。血が吹き出す。
「おおぉぉぉぉっ!」
門都は即座に距離をとる。右腕の肉を持っていかれ矛を持つのが精一杯だ。
ばかな!
門都は後退する。
狩る側である自分があんな小娘に追い詰められている。
まただっ…!
あの黒い闇に吸い込まれた時と一緒になる!
嫌だ!オレはまだ殺したい!たくさんたくさんたくさん!
憎しみを込めて少女の眼を見る。
しかしその時門都はデジャヴに襲われた。
あの眼をどこかで見た事がある。あれは…
門都は思い出す。
自分を焼いたあの男の眼を。
一つの目的のためなら鬼にも悪魔にもなれたあの男の眼を。
紅麗の眼を。
それに気付いた門都は気が付けば一目散に逃げ出した。
屈辱、恐怖、憤怒と三種の感情が混ざりあい彼の精神をぐちゃぐちゃにしていた。
まだ誰も殺していないのに!
もういい、誰でもいい、殺させろ!
殺させろ殺させろ殺させろ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す!
ココは逃げた門都を追わなかった。
予想以上に式神を使役するのに気力を使ったことと血塊弾の消費で血を失ったせいだ。
まぁいい、あんな殺人鬼丸出しの男がココの事をなんと言おうと信じる人は少ないし、それにあそこまで痛めつければシェリーに会っても殺せないだろうから。
問題は…美神さん
ココは平瀬村の方へ戻る。
不思議とギンタ君や河内さんを殺した時のような罪悪感はなかった。
むしろ清々しい気分だ。
きっと『悪い人』を殺そうとしたからだ。
うん、なるべく『悪い人』を殺そう。
そのほうが気も楽だし、シェリーのためになる。
それにこの式神とやらはギンタ君が私に悪人退治をさせるためにくれたに違いない。
待ってて、シェリー、私が必ず助けるからね。
ココは歩き出す。人を殺すために。
【F-4 森/放送開始直後】
【ココ@金色のガッシュ!!】
【状態】軽度の疲労
【装備】血塊@烈火の炎
【道具】荷物一式(食料&水8日分、若干消費)スナイパーライフル(残弾1)六道家の式神の札@GS美神極楽大作戦
【思考】1、シェリーをこの世界から脱出させるために参加者を殺す(美神、『悪い人』優先)
2、シェリーに会いたくない。
(ビカラ、アジラは召喚解除しました。次に使えるのは1時間後です)
【F-4 森/放送開始直後】
【門都@烈火の炎】
【状態】左腕喪失、右腕出血、全身に血塊弾を受け、出血(戦闘に支障あり)
【装備】蛮竜@犬夜叉
【道具】荷物一式(食料&水2日分)
【思考】1、傷の手当て
2、皆殺し
3、ココは必ず殺す
(門都はココと反対方向へ逃げています)
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