道化師と狂言回し
「それにしても、殺し合いとはね・・・。ほんと困った困った。」
「困ったと言う割にはずいぶんと楽しそうっスね。」
黒衣の大男の指摘は正しく、ソファに腰掛けた黒ぶちメガネの男はいかにも
楽しくて仕方がない、と言わんばかりに満面の笑みを浮かべている。
「いやいや、そんなこおはないよ。ぼかぁこんなつまらないゲームに巻き込まれて心底
うんざりしているのさ。何の前フリもなしに見知らぬ他人と殺し合いをしろ、だなんて
不条理もいいとこだよ。ぼくが主催者ならこんな企画は没にしてもっと面白いゲームを
開催するね。」
男のあまりに不謹慎な物言いに、黒衣の大男は“ゆらり"と立ち上がる。
[何がもっと面白いゲームだ・・・オレ達がこうしている間にも、また人が殺されてるかも
しれないんだぞ。]
何かを軋ませる様な低い声が大男の口から漏れる。
「ああ、気に障ったかな?ぼくはゲーム会社に勤めていてね、我ながら不謹慎とは思う
がついついこういうコトを考えてしまう癖があるんだ。すまないね加藤君。」
常人なら身動き一つとれなくなるような大男の怒気を、黒ぶちメガネの男は笑顔で受け
流し謝罪の言葉を述べる。
そのあまりに飄々とした態度に大男も気勢を削がれ、怒気を納めて座りなおす。
やりにくいな、大男は思う。
ゲームの舞台に送り込まれ、最初に出会ったのがこの黒ぶちメガネをかけたスーツ姿の
中年男性だった。
とりあえず危険そうではなかったので、話しかけてみて今に至るのだが・・・
話し上手で腹の内が読めない、探りを入れてみても先ほどのように暖簾に腕押しである。
ゲームに乗りそうな雰囲気ではないが、さりとて無条件で信用できそうな相手でもない。
まともに戦えば確実に勝てるが、話術では手も足も出ない。
頭で考えるより体を動かす方が得意な青年にしてみれば、まことに対処し辛い相手である。
ゲームに乗って問答無用で襲い掛かってくる輩の方がよほど相手にしやすい。
「ところで、加藤君はこれからどうするともりかね?」
「あの主催者をぶちのめしてやりたいが…その前にこのゲームに巻き込まれた人たちを守る。」
主催者から配られた名簿には子供も載っていた。
「子供や、戦えない人たちを探し出して・・・守る。ゲームに乗った奴らは倒す。」
何かに耐えるように顔を歪ませ、大男は臓腑から搾り出すようにして声を発する。
「ふむ・・・でが、ぼくも君に同行しよう。」
「・・・いいんスか?オレはゲームに乗った奴らを見つけたら倒すつもりですよ?」
大男は訝しげに聞き返す。彼と同行するということはそれだけ危険な事態に積極的に
関わるということだ。
「なに、一人で動いたところで危険人物と出くわしてしまえば問答無用で殺されるさ。
それなら加藤君と一緒に動いた方がまだ安全だろう。身を守る一番の方法は群れること
だからね。それに、失礼だが加藤君は強面だし、話上手とも言えないだろう?守るはず
の子供に逃げられたら本末転倒だよ。」
そう言って黒ぶちメガネの男はますます笑みを深めた。
大男は考える。
確かに、大柄で厳つい自分よりもスーツ姿で柔和な顔つきの中年男性のほうが信用され
やすいだろう。自分がいささか会話下手であることも自覚している。この異常なゲーム
の中、警戒心の高まっている相手を自分ひとりで説得するのは骨だ。
それに、この男を放って置くのも後味が悪い。動きからして多少の心得はあるようだが、
最初の会場には雷を放った金色の獣や仮面の男・軍人らしき男など明らかな強者が何人
もいた。この男の実力ではあのような輩に襲われてはひとたまりもあるまい。
いまいち信用しきれない男ではあるが、見捨てるわけにもいかない。結局は同行するしか
ない。
その後も話し合いは続き、行動指針が決まったころにはゲーム開始から一時間以上過ぎていた。
「さて、いよいよ出発だが。加藤君、これは君が持っていたまえ。」
そう言って中年男が差し出したのは古風な造りの一振りの剣。
「いいんスか?」
不思議な色合いの全金属製のそれを受け取りながら大男は問う。
「かまわないよ、ぼくが持っていても宝の持ち腐れだからね。なぁに、僕はこれで十分さ。」
と言って懐から取り出したのは大男が渡した円筒状の奇妙な機械・小型キルリアン振動機“チェシャキャット”。
説明書によると、小規模なバリヤーのようなモノを発生させる装置らしい。バッテリーの容量の問題で効果時間は
あまり長くないが、身を守るには十分だろう。
「さあて、冒険の旅に出発!」
高らかに宣言し、中年男・内海は民家の玄関から足を踏み出す。
その後に続きながら、加藤鳴海はため息をついた。
(やっぱり楽しんでないか、こいつ?)
【F-2/平瀬村・民家の玄関先/早朝・ゲーム開始から一時間20分経過】
【内海課長@機動警察パトレイバー】
[状態]上機嫌
[装備]小型キルリアン振動機“チェシャキャット”@うしおととら
[荷物]荷物一式(食料・水二日分)
[思考]1.鳴海に同行
2.ゲームを楽しむ
3.ゲームクリア
【加藤鳴海@からくりサーカス】
[状態]健康、義肢の動作も良好
[装備]ヒヒイロカネの剣@スプリガン
[荷物]荷物一式(食料・水二日分、義肢の整備用具一式)
[思考]1.周囲の捜索
2.戦えない人を守る(子供最優先)
3.ゲームに乗った参加者を倒す(殺害も厭わない)
4.主催者の打倒
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