氷川村の休日






 この程度の傷、キース・シリーズなら、一時間もしないうちに回復する。
 けれど、この島ではARMSが原因不明の不調を訴えているため回復が遅い。

「しかし、それでも足だけなら2時間で回復する」
 回復次第、綾崎ハヤテと乱馬に復讐する。
 彼らの戦闘力は既に知っている、歩けるようになれば十分に殺せるはずだ。
 だから、両足が回復したらすぐにでも殺しに行こう。
 この戦神を侮辱した罰を与えてやろうではないか。

(しかし、回復する時いつも思うのだが……)
 ARMSは服までは回復してくれない。
 ズボンや下着までハヤテに破かれてしまった。
 今の状態で、人間の姿に戻ればセクハラ間違いなし。

(支給品は一応身に着けるものではあるが……)
 それは服でもなければズボンでもない。
 大事なところを全く隠してくれない支給品。

(滑稽だな)

 そう言えば、支給品に関してもう一つの事を思い出す。
 説明書には、戦神の力を得るための装飾品と書いてあった。

「あり得ない話だ」

 自身を神と形容するシルバーでさえ、神とは存在しないモノと言う認識がある。
 こんな支給品を渡すなど、あの女は何を考えているのか。
 力はブリューナクの槍で十分。自分がこれを使う事はないだろう。
 何とか診療所へ避難する事が出来た。
 あの白人が半身を失っても動けた事は驚いたが、ここまで来れば安心だ。
 なにせ、あの状態では這って動くしかない。だから、ここまでは来られないだろう。

 しかし、それはそうと体中のあちこちがギシギシと軋む。
 動くのさえ辛いが、今はそんな事も言ってられない。
 今後の事、ナギの事、考えなければならない事は山ほどある。
 さしあたって、今考えるべきことは宮本武蔵の事か。
 ハヤテは思う。
 自分の不用意な行動が原因で亡くなってしまった老人の事を。
 悔やんでも悔やみきれない、なぜ自分はあんな軍人に話しかけてしまったのか。
 あんな事さえしなければ、宮本は死ななかったはずではないか。
 悲しんでも悲しみきれない、自分を助けてくれた老人が目の前で消滅してしまった。
 ハヤテの目から涙が流れる。
 分かっている、これは悲しみの涙だ。

「泣いてたって仕方ねーぜ」
 突然投げかけられる言葉は無慈悲な正論。
 ハヤテにだって分かっている、生き残った者のすべき事は泣く事ではない。
 だが、すぐに割り切れるものではない。
「宮本さんが死んだのは僕のせいなんですよ!」
「だったら、お前が悲しめばジジィは生き返るってのか?」
 それは違う。やはり、自分のなす事は悲しむ事ではない。
 よく見ると、乱馬の瞳にも涙があった。
 悲しいのは乱馬も同じなんだ。そう思うと、ハヤテは泣いてばかりいられないと思えてくる。
 けれど、ハヤテの涙が止まる事はなかった。

「とりあえず、おめぇはそのベッドで横になっときな。俺が湿布でも探してきてやるよ」

 乱馬の言葉に従い、ハヤテは診療所のベッドに横たわる。
 その枕はすぐに涙でにじんできた。
 フォルゴレの目に映るのはこの世のものとは思えない地獄絵図。
 魔物の子の戦いだって、ここまで凄惨なものにはならない。
「想像以上に酷い事になってるな」
「へっ、上等じゃねぇか」
 御神苗と犬夜叉は臆することなく、氷川村へと歩を進める。
 けれど、フォルゴレは中々同意しきれない。率直に言って怖いのだ。
「おい、行くぞ」
 犬夜叉の声が聞こえるが、フォルゴレは動けない。
「震えてんのか? 心配すんなって、俺が守ってやるからよ」
「み、見くびってもらっては困るな……私はイタリアの英雄パルコ・フォルゴレだ」
 強がっていても、震える体は止まらない。
 フォルゴレは分かっているのだ。今、氷川村に向かえば戦闘は免れない。
「怖いなら、残ってても構わないんだぜ」
 御神苗が言う。彼なりに心配してくれているんだろう。
 氷川村へ進めば激戦は避けられない。
 腕に覚えがある二人はともかく、フォルゴレは足手まといでしかないかも知れない。
 けれど、だからと言ってフォルゴレはどこへ向かえばいいのだろう。
 残ると言っても、安全な場所などありはしない。

 それにだ。

 自分は、キャンチョメと共に魔物の王を決める戦いに参加している。
 逃げる事は、キャンチョメにも、清麿にも教わっていない。
「怖くなどない。私は不死身の男パルコ・フォルゴレだ」
 深呼吸をし、震える体を力で押さえつけながら、フォルゴレは氷川村へと進む。
 武蔵が死んじまった。
 八宝斎と面影重なるジジィなだけに、心のどこかで武蔵は大丈夫と思ってたのだろう。
 明らかに油断だった、自分がしっかりしていれば武蔵を守ることが出来たはずだ。
 酒樽につめて、ダイナマイトと一緒に山に生き埋めにしても死なない八宝斎と武蔵は同じに出来ない。
 それは分かってたはずだ。

 乱馬の目に涙があふれてくる。
 泣くな。泣いたところで、解決する問題ではない。
 俺たち武道家のやる事は泣く事じゃないだろ。

(乱馬よ、古来より妖怪退治は武道家の務め)
 不意に父玄馬の言葉が思い出される。
 そうだ、アイツを許しておいては武道家の名が廃る。
 何より、このままでは第二・第三の武蔵を生み出しかねない。
 その中にはあかねも含まれているかも知れないのだ。
「やっぱ、アイツとはもう一度闘う事になりそうだな」
 自分のため、武蔵のため、あかねのため。
 あの男は確実に倒す。乱馬は決意を新たにした。

「さて、それはそうと湿布はどこだ?」
 この部屋に来たのは、ハヤテのための湿布を探すためだ。
 それに、武蔵の遺言で医療道具も探さなければならない。
 そう思って、辺りを探してみるが……
 何一つ見つからない。
 置いてあるものは、一般の家庭にも普通にある当たり前の家具ばかり。
 机、椅子、ベッド、タンス、カーテンなどなど。
 医療器具として使えそうなものは一つも置いていない。
「湿布もねぇのか。ま、アイツはほっときゃ治るだろ」
 そもそも、自分の使った技の反動なんだから、時間が経てばケロッと治るはずだ。
 そう思って、乱馬はハヤテの寝る部屋へと戻る。
 早乙女乱馬に会う。
 新たな目的を手に入れ、東、蘭、良牙の三人は沖木診療所へと向かう。
 しかし、沖木診療所と言えば、家を吹き飛ばすビームの発生した方角でもあるのだ。

「怖いわね……」
「大丈夫じゃ。使いたくはないが、銃もある事じゃしな」

 決して使わないだろうと思っていたサブマシンガンを片手に東は蘭の前に立って進む。


 暫くして、目的の沖木診療所が見えてきた。
 診療所の隣には、二台分のスペースの駐車場と小さな庭がある。
 そして、目の前にはデコボコしたアスファルトと、それを挟んで一軒の家。
 診療所の近くには、他に何も見当たらなかった。

「どうやら、ビームの主はおらんようじゃな」

 そうは言っても安心できない。
 この付近に、先ほどの騒動を引き起こした張本人がいる事に違いはないのだから。
 東は慎重に診療所へと足を進める。

 診療所の中には、待合室と受付。
 そして、奥にはいくつかのドアがあり、そこは診察室へと続いているようだった。

 そして、東が診察室のドアを開けてみると、一人の少年がベッドに横たわっていた。
「誰ですか?」

 診察室に突然の侵入者。
 彼らは見た目、自分と同じ年代の男女だが、男の方がサブマシンガンを抱えている。

「おぉ、スマンかった」

 ハヤテが警戒心をむき出しにして男を見つめていると、彼はサブマシンガンをデイパックにしまい込んだ。

「突然来てスイマセン。私は毛利蘭、彼は東和馬と言います。あなたが早乙女乱馬君ですか?」

 侵入者たちが話しかけてくる言葉は極めて常識的なものだった。
 当初持っていたサブマシンガンも、今はデイパックの中に片付けられている。
 恐らく、サブマシンガンは護身のために持っていただけだろう。
 ハヤテはそう判断して、彼女の言葉に答える。

「いいえ、僕は綾崎ハヤテです。乱馬さんなら、もうすぐ戻ってくると思いますよ」

 と、言った側から乱馬が戻ってきた。

「なーんでぇ、随分人が増えたじゃねぇか」

 ちなみに、乱馬は一通り診療所全体を見て回ったようだが、結局医薬品の類は一つも見つからなかったそうだ。
 俺の目の前に同年代の人間が四人集まった。
 乱馬も目の前にいる。
 後は、乱馬にお湯の事を説明させ、お湯を作れば男に戻れる。

「アナタが早乙女乱馬君? 私は毛利蘭といいます。そして……」
 蘭さんの手が震えながら俺を抱き上げる。
「この豚が……良牙君です」

 震える彼女の両手からは、子豚に変身させたという後悔の念が伝わってくる。
 だが、心配ない。乱馬が変身体質の事を説明すれば、俺は男に戻れるんだ。

「知ってるよ、Pちゃんだろ」
 バンダナを掴みながら、ひょいと乱馬が俺を持ち上げた。
「良牙、てめぇ、豚になって運んでもらったのか?
ま、方向音痴のお前にはその方が良かったかもな」
 いきなりの憎まれ口。乱馬はこんな奴だ。男に戻ったら、一発殴ってやろう。
 それに、そんな事よりも今は、早く変身体質の事を説明してくれ。
「乱馬君は良牙君が子豚になっても驚かないの?」
「あぁ、いつもの事だからな」
「え? いつもの事って……」
 驚く蘭さんと東に、乱馬が変身体質の事を説明する。
 呪泉郷の水の事、水を掛けると変身する事、お湯をかぶると元に戻る事、必要な事は全て説明した。

「新一でも推理できないわね……」
「変身体質って、一体どんな物食べたらそんなリアクション取れるんじゃ……」
「どこのメルヘンですか、それは……」
 蘭さん、東、綾崎は三人とも信じられないといった表情だ。
 そりゃそうだろう、呪泉郷の事を知っていても、実際にその泉に溺れても、信じたくないのが変身体質だ。

「少し驚いたけど、とにかく、良牙君はお湯さえあれば元に戻るのね? だったら今すぐお湯を沸かそうよ」
 そうだ、今すぐ沸かしてくれ。
「でも、沸かそうにも道具がないですよ」
 な、何だと!!
「そうじゃなぁ……」
 ここまで来て、俺は男に戻れないのか。
 こんな事では、あかねさんを助けられないじゃないか。
 このままだと……
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「良牙君ったら酷いのよ。全く助けてくれなかったわ」
「ぶひ、ピギィー」
「何よPちゃんだって、役に立たないじゃない」

「あかね、無事か?」
「乱馬、怖かった」
「俺が来たからにはもう大丈夫だ」
「ありがとう乱馬。大好き!」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
 って事になってしまうではないか。許さんぞ乱馬!
「ブヒッ、フー、ピギー」
「おいおい良牙、何怒ってんだ?」
 何があっても、乱馬より先にあかねさんを助けるんだ。

「落ち着くんじゃ良牙。とりあえず、全員の支給品を確認すれば、何か方法が見つかるかも知れんじゃろ?」

 そうか。頼むぜ、お前ら。これ以上乱馬にいい格好はさせられん。
 って、まだコイツもいい格好してないか?
「右側に一人、左側に……四人か? なんか、小動物の匂いが混じってるな」
「その四人と小動物は一緒にいるのか?」
「あぁ、そうだな」

 犬夜叉の嗅覚を頼りに、俺たちは氷川村まで進んできた。
 こいつの言葉を信じれば、氷川村には二つのグループが存在するらしい。
 ゲームの性質を考えれば、4人(+1匹?)のグループに合流した方がいいだろうな。

「よし、犬夜叉。俺たちをその四人の所まで案内してくれ。
フォルゴレはショットガンを構えるんだ。いつでも闘えるようにな」

 俺自身もジャバウォックの爪を装備して準備を整える。
 隣では、フォルゴレが息を荒くしてショットガンを抱えていた。

 しかし、フォルゴレか……
 正直な事を言うと、俺はコイツの扱いに困っている。
 犬夜叉はともかく、フォルゴレは明らかに非戦闘要員だ。
 安全な場所があるなら、そこに隠れていてもらいたい。
 だが、冷静に考えてみればこの島で安全な場所などどこにあるのだろう。
 仮にあったとしても、俺には分からない。
 こうなったら、俺と犬夜叉で守るしかないな。


「おい、さっき言った四人はこの家にいるらしいぜ」

 犬夜叉が指差したのは診療所。地図によると、ここは沖木診療所だろう。
 四人は医薬品を求めてやってきたのだろうか。
 だとすると、結構頭の切れる奴がいるみたいだな。

「犬夜叉、フォルゴレ、慎重に入るぜ」
「じゃ、みんなの持ち物を確認するわね。良牙君の支給品が移動用のアイテム。
これは、お湯を沸かすのには使えないわ」
「良牙にこんなん渡しても、豚に真珠じゃねーか。
あかねさーん、とか言って海の上を飛んでる姿が目に浮かぶぜ」

 そこまで方向音痴なんですか? 伊澄さんを思い出しますね。

「だから良牙君はこの支給品を使わなかったんじゃない?
で、それはおいといて、乱馬君の支給品はと……これ、コナン君の靴じゃない!」

 乱馬さんが出した支給品は子供用の小さい靴。
 あれはお嬢さまも履けないだろうな。

「説明書にはキック力増強シューズって書いてあるぜ。
電気と磁力で足のつぼを刺激して筋力を極限まで高めるアイテムみたいだな」
「なんで、あの子がそんな物持ってるわけ?」
「俺に聞かれても知らねーよ、この位のガキだと何でも遊び道具にするんじゃねーか?」
「う〜ん。仮面ヤイバーごっことかで使ってたのかな?
ま、これもお湯は沸かせないと」

「俺の支給品は、このマシンガンじゃ。これもお湯を沸かすには使えんのう」

 慣れない手つきで東さんがマシンガンを取り出す。
 なんだか不安になりますね。僕なら、あれの使い方ぐらい熟知してるんですけど。
 で、次は僕の番ですか。

「僕の支給品はジュラルミンケースと中に詰まったお金です。
火種があれば、燃やす事ぐらい出来るわけですが、これだけだと無理ですよね」

「残ったのは私の支給品だけど、これは炎の映像を出す支給品で炎そのものは出ないのよね」
「微妙に惜しい支給品じゃな」
 診察室の床には各々の支給品が並べられている。
 どれをとっても、キチンとした目的にあわせれば役立つ物ばかりだ。
 けれど、今回の目的はお湯を沸かすというもの。
 その目的に沿ってみた場合、残念ながら全て使えない。
 蘭さんの支給品だけはとても惜しいのだけれど。
「これじゃ、お湯は沸かせねーか……良牙には頼みたい事があるってのに」
 良牙さんに頼みたい事って?
 それが何なのか分かりませんが、三千院家の執事として、ここは僕の能力を見せるところですね。
 後一歩で何か思い浮かびそうなんですよ。

「うーん、どうしようもないのかしら」
「まぁ、俺の友達の諏訪原に会えれば木を擦って火を起してくれるぞ。そんなに焦らんでいいんじゃないか?」
「ぶひ!?」
 東さんの言葉とは違い、明らかに良牙さんは焦っている。
 気持ちは分かるので、ちゃんと考えてますよ。
「他にも、この診療所にある物をかき集めてみませんか? 火を付けられる何かがあるかもしれませんよ」
 僕の提案により、皆が集めてきてくれたのはどれもこれも普通の家庭で見かける物ばかり。
 トイレットペーパー、ティッシュペーパー、タオル、ハンカチ、台所用洗剤。
 お風呂用洗剤、石鹸、たわし、スチールウール、皿、コップ、スプーン etc
 けれど、これらを見て僕は閃きました。
 これなら、火を作る事が出来ます。
「乱馬さん、この時計を壊していただけませんか? 中の電池を取り出したいんです」
 僕が乱馬さんに渡したのは全参加者に渡されている時計。
 時計の中には小さなボタン電池が入っているはずだ。

 乱馬さんは時計を壊し、中から電池を取り出す。
 僕はそれを受け取ると、電池の両極にスチールウールを当ててショートさせる。
 さらに、赤熱したスチールウールにトイレットペーパーを付けると、勢いよく燃え出した。

「凄いわハヤテ君」
「やるのぉ」
 どうですか、これが三千院家執事の実力です。
  コンコンッ

 と、今からお湯を沸かそうというときに、誰かがドアをノックしました。
 ここには全員揃ってるはずですので、また新しい人が来たのでしょう。
 あの白人男性じゃなきゃいいんですが……

「はい、どなたですか?」

 蘭さんが、ドアを開けるとそこには三人の男性がいた。
 一人は僕と同じ年ぐらいの男の子。
 一人はやはり、同じ年ぐらいの男なんですが、和服姿なのが印象的ですね。
 最後の一人は、若干年齢が高めの白人です。結構格好いいですね……
 って、ショットガン握ってますよこの人!

「フォルゴレ、銃はしまってくれ。俺たちは戦いに来たわけじゃない」

 先頭になっている男の子が言うと、白人はすぐにそれをデイパックにしまう。
 驚かさないでくださいよ。

「突然の来訪ですまない。俺の名は御神苗優。こいつが犬夜叉で、こっちがフォルゴレだ。
俺たちは今、このゲームを壊すための仲間を集めてるんだ」

 なるほど、ゲームの破壊と言うのは誰もが考える発想ですね。

「いきなり来てそんな話をされても困ります」

 いやいや、蘭さん。アナタだっていきなり来たでしょうに。

「確かに困るかも知れないが、最終的にはアンタだってこのゲームを何とかしたいだろ?」
「そりゃ、そうですけど……」
「蘭さん、ここは彼らの話を聞いてみましょう。ゲームの破壊には僕も興味があります」

 お湯を沸かすのが遅れるのは残念ですが、ゲーム破壊と湯沸しだったら前者の方が優先順位が高い。
 ここは御神苗さんの話を聞いた方が後々のためになると思います。

「ありがとう。んじゃ、俺たちの方からゲーム破壊に繋がるかも知れない話をさせてもらうぜ」

 まずは、ゲームに参加している人物たちの説明。
 染井芳乃、ヘンリー・ボーマン、トニー・ベネット、高峰清麿、シェリー・ベルモンド、
日暮かごめ、殺生丸、神楽という名前が出てきた。
 彼らのうち信頼できる能力を持つ者は、ヘンリー・ボーマン、高峰清麿、日暮かごめ。
 警戒すべき者は、トニー・ベネット、殺生丸、神楽。
 特筆すべき能力がないか、または情報が少ないのが、染井芳乃、シェリー・ベルモンド。
 となっている。

 続いて、このゲーム参加者たちに関する御神苗さんの考察。
 彼が考えるには、このゲームの参加者たちは異なる時代から連れてこられた可能性が高いということだ。
 その根拠となるのが犬夜叉と言う人物。
 御神苗さんは、彼の知識が戦国日本のものであるため、このような仮説を立てたらしい。
 しかし、世の中には地下鉄を知らない現代人がいるぐらいだから、正直言ってこの仮説は信じがたい。
 それに、厳しい事を言えば御神苗さんの話は全てこのゲーム破壊に直接繋がるものではない。

「情報提供ありがとうございます。ですが、それだけではゲーム破壊はできないのでは?」
「厳しいことを言うね。確かに、俺たちもこれで何とか出来るとは思っちゃいない。
とりあえずは、体に取り憑いた化け物を何とかしてくれる人間を探すところから始めてるんだ。
アンタ達はそういう人間に心当たりはないか?」

 この言葉を皮切りに、蘭さん、乱馬さん、東さんと僕の四人が参加者名簿に載っている知人たちを紹介し始めた。
 しかし、その中で役立ちそうな能力を持っているのは二人だけと言う結果だ。
 やはり、ゲーム破壊と言うのは物凄く難しい事なのだろう。
 ちなみに役立ちそうな人間とは、毛利小五郎とピエロ・ボルネーゼ。
 毛利小五郎さんは別名『眠りの小五郎』とも言われた名探偵で、数々の事件を解決してきた頭脳の持ち主らしい。
 彼の頭脳があれば、このゲームの解明と破壊も出来るだろうという事だ。
 ちなみに、毛利小五郎氏は蘭さんの父親らしい。

 もう一人、ピエロ・ボルネーゼさんは少し信じられない能力を持っている。
 世界レベールのピエロで、ケダムサーカスの団長と言うところまでは常識的なのだが。
 150体の分身が可能、100ヶ国語以上を話す事が出来る。
 さらに、ヘリコプターから世界最深の洞窟までパラシュート無しで飛び込む事も可能。
 おまけに、ドラ●もんのように多くの道具を持ち運ぶ事まで出来るそうです。
 この時点で人間辞めてるような気がしますが、彼の凄いところはさらにあります。

「俺のパンと、ピエロのおっ兄ちゃんのリアクションがあれば何でも出来るじゃろうな」

 東さんが説明するには、ピエロさんと同格の能力を持つ黒柳さんと言う方が、
かつてパンを食べたりアクションで、過去の歴史を変えたとの事です。
 逆転タルトと言う物を食べて、黒柳さんがリアクションを出したら、今までの勝敗が全て逆転したと。
 って、言ってて意味が分からなくなりました。
 大体、過去の歴史を変えるってどういう事ですか……
 僕は咲夜さんみたいにお笑い目指してないので、突っ込みは控えたいのですが……

「信じられない話ばかりね」
「その話が本当だとすると、俺たちは時間を越えて集められたってより、世界を超えて集められたって考えたほうがいいな」
「でも、いくらなんでも、こんな話信じられないわよ」
「確かに信じられないだろうが、今世間に公開されてる科学なんて氷山の一角に過ぎねぇ。
全ての科学力を導入すれば、これぐらい出来るかも知れねぇぜ」

 どこのSFですか!

「そんな嘘言わないでよ」
「嘘じゃない、証拠に毛利にも信じられる話をしてやるよ」
 そう言って御神苗さんは乱馬さんの方を見つめる。
「なぁ、早乙女。お前、眠りの小五郎って探偵知ってるか?」
「知らねぇな」
「綾崎と東は?」
「知らん」  「知りません」
「俺も知らねぇ。数々の難事件を解決してきてTVにも出演経験がある有名な探偵を知らないなんておかしいだろ?」
「確かにそうだけど……」
「いいか? 俺たちがここに集められて、変な化け物が体に取り憑いた時点で既におかしな事が起こってるんだ。
常識に囚われて物事を考えていたら、本質を見失うぜ」

 説得力が有るような無いような……
 お嬢さま、僕はどうしたら良いのか分からなくなってきました。

「まぁ、ともかく、今はゲーム破壊に役立つ人材を集める所から始めるべきだ。
あんた達にも、このトランシーバーを渡しておく。何かあったら連絡してくれ」
「これ、コナン君のバッジじゃない!」
 またコナン君ですか。
「トランシーバー機能が内蔵されたバッジらしい。連絡を取り合うには便利だろ?」
「なんであの子がこんな物持ってるわけ?」
「だから、その年頃のガキは何でも遊び道具にするんだろ」

 どうやら、この短い時間に蘭さんのコナン君に対する印象はガラッと変わったようだ。
 コナン君、隠し事は良くないよ。

「後はトランシーバーで連絡を取り合おうぜ。俺たちは他の人材を探すから、それじゃな」
 御神苗さん達が去っていきます。
 正直、彼がもたらした情報は驚きの一言でした。
 まぁ、ビーム出す化け物がいる時点でこの島が普通じゃない事ぐらい気付いてましたけど。
「ちょっと、待つんじゃ」
 え? まだ、何かあるんですか。
「今から俺たちは、この子豚のためにお湯を沸かすんじゃ。それだけ見て行ってくれんかのう」
「いいけど、なんでだよ?」
「アンタの仮説じゃと、俺たちは違う世界から集められた可能性があるって事じゃろ?
この豚、響良牙はその証拠になるかも知れん男じゃ」
「どういうことだ?」
「良牙は、水をかぶると豚に、お湯をかぶると人間になる変身体質を持ってるそうじゃ。
俺も美味い物食って変身する人間なら見たことはあるのじゃが、水で変身する奴は知らん」
「なるほど、そいつが本当に変身すれば、俺の仮説が裏付けられるって訳か」
「そういう事じゃ」
 それだけ言うと、全員でお湯を沸かす準備を開始する。
 大き目の皿に、椅子を壊して作った木材を並べる。
 さらに、その上に水を入れた丼を乗せる。これで、簡易湯沸かし器の完成です。
 しかし、今からお湯を沸かそうというところで、また別の話が来ました。
「なぁ、御神苗。1人だけの奴が動き始めたぜ」
「何だと、犬夜叉、そいつはどこにいるんだ?」
「匂いはあっちの方からしてくるな」
 犬夜叉さんが、北東の方を指差していますが、僕達には何の事かサッパリ分かりません。
「すいません、何の事か説明してもらえますか?」
「あぁ、スマン。この犬夜叉は鼻が利くんで人のいる大体の場所が分かるんだが、
それによると、向こうの方角に誰かがいるらしい」
 指し示された方角は、ビームを出す使●がいた所。
 どうやら、犬夜叉さんは本当に匂いで人の位置が分かるらしい。
 犬だけに、犬並みの嗅覚なんですか……
 もう、僕はどう突っ込んで良いのか分からなくなってきましたよ。

「多分、武蔵を殺した野郎だな」
 間違いなくそうでしょうね、悲しい記憶が蘇ってきます。
「おい、早乙女。殺したってどういう事だ」
「あぁ、実は……」
 乱馬さんと僕の二人で、ビーム男の事を説明する。
 この付近に出ていた、家を吹き飛ばす光や、光によって消し飛ばされた宮本武蔵さんの事。
 全てを説明した。
「そんな危険な奴がいるってのか……そいつはゲーム破壊には役立たないだろうな」
「当然ですよ、物凄く好戦的な人で話しさえまともに出来ません」
「とにかく、そんな奴がおるんじゃったら、早く安全なところに逃げた方が良いじゃろうな」
「賛成ですね。犬夜叉さんの嗅覚を頼りに、彼に遭遇しないよう逃げましょう」

「その事なんだが……」
 乱馬さんが、会話をさえぎる。
「言うのが遅れたが、逃げるのはお前たちだけで逃げてくれないか。
俺と良牙の二人はアイツと闘う」
「無茶ですよ、勝ち目なんか無かったじゃないですか」
「良牙が来なかったら、そうかもな。でも、俺と良牙が組めば天下無敵だ。
武蔵の仇は必ず取ってやるぜ」
「何言ってるのよ、相手はビームまで撃つ化け物なんでしょ」
「だが、まるっきり勝ち目がない訳じゃねぇ」
「大体、そんな危険な事に良牙君を巻き込むなら、お湯なんか沸かさないわよ」

「良牙、アイツを放って置くと、あかねにも危険が及ぶかも知れねぇ。
お前の力が借りたいんだ、頼む。俺一人じゃ勝てねぇ」
「ブヒ?」
「勝手な事ばかり言わないでよ。大体、仇討ちなんて人殺しと同じじゃない」
「殺すつもりはねーよ。だが、やられっぱなしで済ます訳にゃいかねーんだ」

 恐らく、乱馬さんは宮本さんが死んだ事を自分のせいだと思っている。
 今になって気付いた事だが、彼が死んで一番悲しんでいるのは乱馬さんなんだ。
 乱馬さんにとって、宮本さんはこの島で知り合った最初の友人なんだろう。
 だから、仇をとると言う気持ちも理解できる。

「俺は早乙女の気持ちが理解できるぜ。仇討はともかくとして、そんな危険人物は放って置けないな」
「そんな、御神苗君、何言ってるのよ」
「俺も早乙女に賛成だな」
「犬夜叉君まで……」

「いいか毛利。そんな奴を野放しにしてたら、無力な人間が次々に殺されちまう。
その武蔵って男みたいにな。危険な事かも知れねぇが、誰かがやらなきゃ駄目なんだ」

「どんな理屈を並べても、人を傷つけるんでしょ。そんなのおかしいわよ」
「殺す訳じゃないんだから、いいだろ。それとも、お前は危険人物を放置していても大丈夫だってのか」
「そう言う訳じゃないけど……」

 なんか、空気が悪くなってきた。
 双方の言い分が理解できるだけに、なんとも言い難い。

「と、とにかく。良牙さんを戻しましょう」

 別の話題を振って、雰囲気を入れ替えなければ。
 簡易湯沸かし器に火をつけて、お湯を作る。

「良牙さんが恥ずかしがるでしょうから、女の人は外してください」

 無理矢理に、蘭さんをこの部屋から追い出す。
 乱馬さん、御神苗さんと一緒にしていたら、彼女の精神が崩壊しそうだからだ。
 ちなみに、良牙さんの服は彼女が持っていたので、それは僕が代わりに預かる事にした。

「ありがとう、綾崎。じゃぁ、毛利の手前で出来なかった話をするぜ。そのビーム男と闘う作戦だ」
「作戦って、おめぇ何勝手に仕切ってんだよ」
「相手は家をなぎ払う危険生物だぞ、仇討ちより確実に倒す方が優先だ」

 危険生物? そうですね、あれは生き物ではあっても人間じゃありませんでした。

「良牙と組めば確実だって言ってるだろ。武蔵の事も知らねぇお前にでかい面されたくねーな」
「そうか……なら、早乙女に任せる。だが、危なくなったら手出しさせてもらうぜ」
 あの白人男性は最初、人間だった。
 いや、正確に言うと人間のように見えた。
 乱馬さんや、御神苗さんは彼を殺さない、と言っているけれど本当にそれは正しいのだろうか。
 相手が人間である場合、殺しは殺人として法律で裁かれます。
 いえ、法律以前に倫理や道徳の問題で許されていません。
 けれど、彼は既に人間じゃないように思えます。この場合、僕はどうしたら言いのでしょうか……

 乱馬さんに断られた御神苗さんは今、フォルゴレさんと話しています。
 理性的に考えれば、彼が一番正しい事と理解できるんです。
 彼は仇討ちではなく、人間に害する危険生物駆除と言う観点で相手を見ています。
 事実、あの生物は宮本さんを殺しました。
 通常の人間倫理に照らし合わせれば、あの生物は駆除されるべきなんです。
 でも、だからって僕は、僕は……

「綾崎、お湯が沸いたぞ」
「東さん……」
「色々考える事はあるじゃろうが、今は良牙を戻すのが先じゃ」
「そうですね……」

 沸いたお湯を子豚にかけると、彼は見る見る大きくなり、バンダナ姿の少年へと姿を変えていく。

「良牙も元に戻ったし、後はあの男を倒すだけだな」
 目の前で子豚から人間へと変化する男を見て、俺は自分の仮説の正しさを確信した。
 そして、これは同時にこの島が如何に危険であるかを示すものでもある。

 この島には、複数の世界からヤバイ生き物たちが集められている。
 人間を殺す事をどうとも思わない彼らが集まる事により、殺し合いが促進され、
あの女の目論むゲームが成立するって訳だ。
 だが、本当のヤバさは実は他のところにある。
 それは参加している人間たちの倫理観崩壊だ。

 さっき毛利と話していたとき、俺は彼女の考えに感動しちまった。
『どんな理屈を並べても、人を傷つけるんでしょ。そんなのおかしいわよ』
 こんな事、生半可な覚悟で言えるもんじゃねぇ。流石は名探偵の娘って訳だ。
 だが、誰も彼もが毛利のように言える訳じゃない。
 それどころか大半の人間は、人を殺した人間以外の生き物なら、殺しても構わないと考えるだろう。
 全く、厄介なゲームだぜ。
 それに正直な話、俺自身、まっとうな人間を守るためなら少々の殺しも仕方ないって思っている。
 こんな事じゃ駄目なんだろうけどな。
 ま、考えてたってしょーがねぇ。
 今はここにいる連中を死なさない事が大事だ。
 まずは、早乙女とビーム男の対決だが、この戦いでも、無駄に犠牲を出すわけには行かない。

「早乙女、お前がその男と闘う事はもう止めねぇ。だが、闘う時、俺と犬夜叉が側にいてもいいだろ?
万が一、お前たちが負けたときに、俺達が代わりに闘う」
「分かった、その代わり手出しするんじゃねぇぞ」
 早乙女が人間に戻った響に声を掛ける。

「おい、良牙。聞いてただろ、手を貸せ!」
「断る」
「な、おい。聞いてなかったのかよ、あかねだって危ないかも知れないんだぞ」
「分かってるさ。だがな乱馬、俺はあかねさんだけじゃなく、蘭さんも泣かせる訳には行かないんだ」
「この豚野郎、惚れっぽい男だなお前は! あかりちゃんはどうした?」
「何とでも言え。とにかく俺は蘭さんを守るんだ」

 響は、診察室を出ようとする。そして、ドアの前で立ち止まり、綾崎の方を向きなおす。

「綾崎、お湯ありがとうな。おかげで男に戻れたぜ。
お礼に俺の支給品をやるよ、それがあれば全身筋肉痛のお前でも動けるはずだ」

 その言葉を最後に、響が部屋を出た。
 早乙女にどんな考えがあったかは知らないが、これで早乙女の作戦は潰れたわけだ。

「早乙女、ビーム男との戦闘は俺と犬夜叉とお前の三人でやる。もう、文句ねぇよな」
「あぁ、仕方ねぇ」

 本当のことを言えば、早乙女にだって戦わせたくない。
 こいつはどう見ても、ただの高校生だ。ビームを撃つ化け物との戦いに耐えられるとは思えない。
 だから、戦闘力のある者だけで闘いたい。
 だが、今さらそんな事も言えなくなってきた。
 とにかく今は、生き残る事を優先して作戦を立てよう。
 それに、さっきフォルゴレに伝えた戦術もある。絶対にこいつ等を死なせはしない。
 俺は考えている作戦を全員に説明する。

「いいか、俺たちはこれからビーム男をこの診療所の目の前に誘き寄せる」
「どうやってじゃ」
「狼煙を上げるんだ、診療所の駐車場で上げれば奴は来るだろう。
そして、その間非戦闘要員の東、綾崎、フォルゴレの三人は診療所向かいの家に隠れてるんだ。
後は俺たち三人が目標を倒す」

 そうして、俺たちは二手に分かれて作戦を実行する。
 俺、犬夜叉、早乙女の三人が診療所の駐車場に位置し、綾崎、フォルゴレ、東の三人が診療所向かいの家に隠れる。
 その上で、ビーム男を誘き寄せるために駐車場で火を起す。

 ちなみに、この作戦。早乙女には秘密にしているが、やはり俺はコイツを戦わせるつもりがない。
 だから、ショットガンを持っているフォルゴレに狙撃してもらうようお願いしている。
 早乙女は恨むだろうが、命には代えられないって訳だ。

 時刻は正午間近。
 ビーム男を呼び寄せるために、火を起す。
 作戦開始だ。
 御神苗さんの指示で、僕と東さん、フォルゴレさんの三人は診療所から向かいの家へと移動しました。
 成り行きでこんな事に巻き込まれてしまいましたが、僕はまだ悩んでいます。

「綾崎、まだ悩んどるんか?」
「えぇ、蘭さんが言ったように、今からやる事はただの暴力ですよ。でも、僕はその暴力を否定しきれないんです」
「その悩みはみんな思ってる事じゃよ。じゃがな、俺はそれを解決する方法を思いついたんじゃ」
「え? 本当ですか、東さん」
「このゲームそのものを破壊するジャぱんを作ればいいんじゃ」

 えーっと?? ジャぱんって……

「小麦粉も手に入らんこの状況だと厳しいかも知れん。じゃが、何の犠牲も出さずに俺たちが助かる方法は他にないんじゃ」
「リアクションの話ですか? そんな事本気で言ってるんですか!」
「本気じゃ。綾崎は信じられんかも知れんが、俺のパンが起すリアクションは本物なんじゃ」
「でも、そんなもので……」
「お前も見たじゃろう、良牙が豚から人間になる姿を。綾崎の常識では考えられん現象が実際に起こるんじゃよ」

 確かに東さんの言うとおりだ。
 僕のいた世界だと、変身する人間も、ビームを撃つ化け物も、何一つ考えられなかった。
 この島では、常識の全てが崩壊しているといっていい。

 だとすれば……

「こんにちは皆さん。12時になりましたので最初の放送に入ります」

 っと、色々考えている途中に正午になったようです。
「まずは死亡者です。宮本武蔵、江戸川コナン……」

 宮本さん、本当に死んでしまったんですね。
 コナン君も死んでしまったんですか。蘭さんが追い詰められなければいいんですが……

「諏訪原戒、ピエロ・ボルネーゼ、河内恭介……」
「う、嘘じゃろ……」

 そういえば、この三人は東さんの知り合いでしたね。
 これがゲームの残酷さですか。

「三千院ナギ……」

 え……三千院ナギ? お嬢さま? 嘘ですよね?
 僕は信じませんよ。だって、今でもお嬢さまとの想い出は鮮明に覚えてるんですから。

───僕は君が欲しいんだ!

 クリスマスの日、営利誘拐が切欠で知り合った僕とお嬢さま。

───この家で、私の執事をやらないか?

 帰る家をなくした僕に、仕事と寝る場所をくれたお嬢さま。
 そのお嬢さまが死んだ? 僕の大切な人が死んだ?

「僕は、僕は信じませんよ。そんな話、ある訳ないじゃないですか」
「おい、ハヤテ大丈夫か?」
「僕は大丈夫ですよ、フォルゴレさん。だって、お嬢さまが死ぬ訳ないじゃないですか」
 目の前が真っ暗になったみたいだ。
 死んだ? お嬢さまが死んだ。 ハハッ、僕はこれからどうしたらいいんですか。

「ハヤテ、君の大事な人が亡くなったんだな。辛い気持ちは私にもよく分かる。だが、まずは落ち着くんだ」
「分かる? あなたに何が分かるって言うんですか! 清麿さんはまだ生きてるじゃないですか!」

 僕は強引にフォルゴレさんのショットガンを奪い取る。
 そして、それを自分の米神に当てる。だって、お嬢さまが死んだなんて信じられないんですから。

「これは夢ですよ。引き金を引いたら、僕はいつも通り三千院家のベッドで目を覚ますんです」
「止めるんじゃ綾崎。大切な人を亡くして、辛い気持ちは俺も分かる。俺だって友達を三人も亡くしたんじゃ。
じゃが、言ったじゃろう。パンさえ作れば、全てが解決できるんじゃと。だから、落ち着くんじゃ」

 パンを作れば解決できる? そのパンはドラゴ●ボールだとでも言うつもりですか。
 ハハッ、それもいいですね。

「なら東さん。僕と一緒に来てくれませんか、パン作りとお嬢さまの仇討ちです」
「言っとる事が支離滅裂じゃな……パンさえあれば仇討ちなんて必要ないじゃろうが」
「それじゃ、僕の気持ちが収まらないんですよ! アナタは黙ってついてくれば良いんですよ!」

「それとフォルゴレさん、このショットガンは頂いていきます」
「ショットガンはいいが、まずは落ち着くんだハヤテ」

 『ズドンッ!』

「僕のどこが落ち着いてないって言うんですか! それと、東さんは、さっさとこれに乗ってください」

 東さんを乗せるのは、良牙さんがくれた支給品『青き稲妻』。いわゆる空飛ぶホウキです。
 僕は東さんと二人でこれに乗って、お嬢さまを殺した奴を……殺しに行きます!

「んじゃ、フォルゴレさん。運がよければまた会いましょう」
 行ってしまった。
 私がついていながら、なんと言う失態だ。こんな事でイタリアの英雄と呼べるのか。
 いいや、呼べない。
 英雄なら、混乱した少年を止めるべきだ。
 私はパン作りも、仇討ちも否定するつもりはないが、正気を失ったハヤテは何をするか分からない。
 まずは彼を止めて、落ち着かせなければいけない。

 追わねば。

「おい、フォルゴレ! 今の銃声は何だ?」

 追うと決意した私の前に、乱馬が来る。ちょうど良い。

「ハヤテがホウキに乗って逃げた。今の彼は何をするか分からん、一緒に追ってくれ乱馬」

 ホウキで逃げたハヤテに、私たちが追いつけるかどうかは分からん。
 だが、今の私には他に思いつく手段などないのだ。
 些細な意見の違いから、仲たがいした俺たち。
 半ば強引に蘭さんを連れ出し、二人でここまでやってきた。

「ねぇ、良牙君。乱馬君の事とか放って置いていいの?」
「あんな乱暴な奴、どうなっても構いませんよ蘭さん」
「友達じゃないの? お湯だって作ってもらったのに」
「お湯の代わりにホウキをあげたでしょうが」
「そりゃ、そうだけど……」

 蘭さんは、アイツらが心配なようだが、俺は心配してない。
 乱馬がそう簡単にくたばる筈ないからだ。

 それよりも、気になるのは今のこのシチュエーション。
 邪魔者のいない場所で、華の女子高生と二人きり。
 暗く長い青春のトンネルを、今やっと抜け出た気分だぜ。
 あかりさん、あかねさん。この響良牙、君たちへの気持ちを忘れたわけじゃない。
 だが、蘭さんは俺の恩人なんだ。
 豚だった時の俺を抱え、危険な氷川村まで俺のために入ってくれたんだ。
 彼女のぬくもりを、俺は決して忘れないだろう。
 だから今は、彼女の側にいさせてくれ。
「こんにちは皆さん。12時になりましたので最初の放送に入ります」

 おっ、もうこんな時間か。

「まずは死亡者です」

 ま、あいつ等が死ぬ事はないだろうな。

「宮本武蔵、江戸川コナン、諏訪原戒、ピエロ・ボルネーゼ、
河内恭介、三千院ナギ、虎水ギンタ、スノウ、ドロシー。以上9名になります」

 ほらな。だから大丈夫だって言ったろ。ね、蘭さん?

「こ、コナン……コナン君? コナン君なの」

 コナン君? って誰だっけ?
 そうだ、乱馬の支給品の持ち主だ。
 確か、蘭さんの家に居候してるって言う……

「コナン君、どうして……まだあの子は小学生なのよ! どうして、コナン君が死ななきゃいけないのよ」
「蘭さん、辛い時は泣いてくれ。俺の胸ならいつでも貸す」
「良牙君……」

 蘭さんの体は思った以上に、華奢で頼りない。
 こんな彼女を泣かせた奴は誰だ。俺はそいつを絶対に許さねぇ!
 御神苗の野郎が、ビーム男を呼び寄せるための火をつける。
 俺はこいつの考えがイマイチ掴めないが、これまでの話から見て、早乙女に戦わせるつもりはなさそうだな。
 素手の早乙女より、小刀を持った自分の方が強いって事か。
 ま、俺から見りゃどっちも弱いんだけどな。

 ビーム男は、相変わらず北の方をぶらぶら動いてやがるな。
 早乙女達の話から考えれば、復讐のために早乙女と綾崎を探してるってとこか。

「こんにちは皆さん。12時になりましたので最初の放送に入ります。まずは死亡者です」

 おっ。もう、そんな刻限か。
 かごめが死んでなきゃいいんだけどな。

「宮本武蔵、江戸川コナン、諏訪原戒、ピエロ・ボルネーゼ、
河内恭介、三千院ナギ、虎水ギンタ、スノウ、ドロシー。以上9名になります」

 かごめはまだ無事か。
 殺生丸も生きてやがるのは気に食わねぇが、そう簡単に死ぬような奴じゃねぇからな。


「ピエロ・ボルネーゼは死んだのか……」

 御神苗が何か考えてやがる。
 ゲーム破壊のために必要な人材とか言ってたな。
 心配すんなって、鉄砕牙さえ戻れば俺一人でもあの女を蹴散らしてやるからよ。
 『ズドンッ!』
 なんだ、この音は?

「ショットガンか! フォルゴレ達に何かあったのか。早乙女、頼む。あいつらの様子を見に行ってくれ」
「何で俺が」
「いいから行くんだよ」
「わ、分かったよ……」

 早乙女をフォルゴレ達の方に向かわせたって事は、やっぱコイツ自分がビーム男と闘うつもりなんだな。
 ま、弱い奴はいない方が俺も都合良いしな。

「御神苗、ビーム男がこっちに来るぜ」
「そうか……何だかんだで、残ったのは二人だけになっちまったな。ライカンスロープの力、期待してるぜ」
「その、らいかんなんとかって言い方止めろよな」
「すまねぇ、半妖だっけか?」
「犬夜叉だ」
 早乙女、フォルゴレ、綾崎、東、響、毛利の匂いはどんどん遠ざかっていく。
 代わりにビーム男が煙に誘われてこっちに来やがる。

 来やがった。
 思ったより、貧弱な体してやがるな。
 右手が生えてねぇし、右足も細くてよろめいてる。
 こりゃ、簡単に片付きそうだな。
【I-7 沖木島診療所/放送直後】
【御神苗優@スプリガン】
[状態]健康
[装備]ジャバウォックの爪@ARMS
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.ビーム男(キース・シルバー)を倒す。
     2.日暮かごめ、高峰清麿、毛利小五郎、妖脾をどうにかできる人物の捜索。
     3.ゲームの破壊。

【犬夜叉@犬夜叉】
[状態]健康
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、探偵バッジ×3
[思考]1.ビーム男(キース・シルバー)を倒す。
     2.日暮かごめ、鉄砕牙の捜索。
     3.白面の打倒。

【キース・シルバー@ARMS】
[状態]右腕消失。右足は不完全だが、歩ける程度に修復完了
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、小竜鬼のヘアバンドと篭手@GS美神極楽大作戦!
[思考]1.高槻涼を探す。
     2.高槻涼と戦う。
     3.ハヤテ、乱馬への復讐。
     4.目の前の二人(犬夜叉と御神苗)にハヤテ、乱馬の居場所を聞く。
【I-5 北側の道路/放送直後】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]体力消費大(自分では動けない)、深い悲しみ、重度の精神錯乱
[装備]蒼い稲妻@GS美神極楽大作戦!
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、一億円入りジュラルミンケース、ショットガン(残り20発)
[思考]1.疲労が大きく、全身ガタガタでまともに動けないが休むつもりはない。
     2.ナギの仇を討つ。
     3.東にパンを作らせる。
[備考]ハヤテは支給品の時計を持っていません。
    支給品『蒼い稲妻』は制限により、高く浮かび上がる事が出来ません。

【東和馬@焼きたて!ジャぱん】
[状態]健康、悲しみ
[装備]サブマシンガン
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.錯乱しているハヤテを落ち着かせる。
     2.ゲームを無効にするためのパンを作る。
【I-6 道路/放送直後】
【パルコ・フォルゴレ@金色のガッシュ】
[状態]健康
[装備]探偵バッジ@名探偵コナン
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.綾崎ハヤテを落ち着かせる。
     2.高峰清麿、妖脾をどうにかできる人物の捜索。
     3.ゲームの破壊。

【早乙女乱馬@らんま1/2】
[状態]体力消費少、男
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、キック力増強シューズ@名探偵コナン
[思考]1.フォルゴレと共に綾崎ハヤテを追う。
     2.あかねを捜す
     3.武蔵の仇を討つ
【H-7 道路/放送直後】
【毛利蘭@名探偵コナン】
[状態]健康、深い悲しみ
[装備]偽火@烈火の炎
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、探偵バッジ@名探偵コナン
[思考]1.小五郎、灰原、あかねを探す。
[備考]蘭は偽火の効果を誤解しています。

【響良牙@らんま1/2】
[状態]健康、男
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.あかねを探す。
     2.蘭を守る。
     3.コナンの仇を討つ。



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