続・推理をしない名探偵
小五郎とメドーサの二人は平瀬村を目指して進んでいた。
二人は、平瀬村で知人や、役立つ情報の捜索などをした後、時計回りに島を散策する予定である。
当初、平瀬村への移動はメドーサが渋っていたのだが、小五郎が説得して行く事になった。
そもそも、二人のゲームに対する考え方は根本から異なっている。
メドーサは危険な場所へは近づかない事を前提として作戦を練る。
全員が広間に集められたとき、そこには自分以上の強者が何人かいた。
彼らに近づく事は、それ自体がデメリットである。
不確定要素のある戦い、負ける要素のある戦い、そんなものはプロフェッショナルのする戦ではない。
だからこそ、メドーサは安全に慎重に、コマを進める。
そして、その上で最終的に生き延びる道を探すのである。
そんな彼女が、様々な生き物の集まる村への移動を渋るのは当然と言えた。
なぜなら、村には凶悪な力を持つ化け物たちも集まりやすいだろうからだ。
これに対して、小五郎の考えは情報を重視するものだ。
もちろん、小五郎だって危険な場所へは近づきたくない。
だが、一体この島のどこが危険で、どこが安全なのか。
村に近づく事が危険とメドーサは言うけれど、それとて情報のない今では確証はない。
裏をかいて、村に近づく事こそ安全と言う可能性も否定できない。
ともかくも、今の状況だと安全な場所と危険な場所の切り分けは不可能だ。
だったら、少々の危険は覚悟のうえで情報を集めるために島中を散策した方がいい。
島の状況が掴めて来れば、安全な場所がどこなのか明確に分析する事が出来るだろう。
それに、この島のどこかには蘭やコナンがいる。
彼らの保護者として、父として、小五郎はあの二人を守る責任を負っている。
だから、小五郎は島を散策して、あらゆる場所で聞き込み捜査を行おうとした。
「情報集めはいいけどさ、あたしは危なくなったら、さっさと逃げるよ」
等と愚痴を言いつつも、メドーサは小五郎の案に従い、島での捜索を行う事になった。
さしあたって向かうのは平瀬村。 だったのだが……
「小五郎。気配を感じないかい?」
「確かに、感じますな。大妖怪の気配をビンビンにね」
小五郎に気配を感じ取る能力はない。
だが、心眼の力は近くにいる大妖怪とらの心理を読み取って、気配よりも詳細に状況を分析する事が出来る。
「どうする? この気配は只者じゃないね、あたしとしては近づきたくないんだけどさ」
「そうも行きませんよ、聞き込みは情報集めの基本ですからな」
━━━━━
獣の槍が怖い。
傍から見れば、そんな風に見えるかもしれない。
だから、さっきはせっかくのご馳走も食べ損ねた。
大妖怪だなんて、調子に乗っていても一本の槍を心底怖がるあたり妙にカワイイ雰囲気が出ている。
「どーすっかなー。うしおの奴も見つかんねーし」
ゲームで優勝を目指すのも、良いかも知れないが、うしおが五月蝿いだろうな。
とすれば、やっぱり、うしおを探すしかないか。
「面倒くせーな。全く、あのボケガキはワシがいないと何もできん癖に文句だけは一人前に言いやがるからよぉ」
うしおを探すのは気乗りがしないが、他に考えも浮かばない。何より、槍を振り回されれば後が厄介だ。
と、ここまで考えて奇妙な事に気付いた。
獣の槍は本当にこの島に来ているのか。
白面の者は槍を恐れていたはずだ、奴の立場になって考えてみれば槍をこの島に持ってくると言うのはおかしい。
かと言って、こんな事をしている島には結界を張るだろうし、獣の槍とて易々と入り込むことは出来ないだろう。
ひょっとしたら、うしおは槍のない状態じゃないのか?
あれれ、なんだか考えがループしてきた。
こんな事はさっきも考えていた気がする。
「あーー、もうヤメだヤメ」
色々考えるのは性に合わない。
まず、うしおを探す。次に槍を探す。
槍が見つからなければ、うしおを食う。
複雑な事考えるのは止めて、さっさとうしおを見つけよう。
そんなとらの近くに、一組の男女が来た。
うしおじゃなかったら、面倒だし会いたくないな。
━━━━━
「小五郎、アンタは後ろに下がってな」
相手は只者ではない。
竜神族のメドーサが心底警戒している。
情報収集のためとはいえ、何でこんな化け物とコンタクトを取らなければならないのか。
メドーサは自身の体が、緊張のため硬くなっていくのを実感する。
「そんなに固まってちゃぁ、相手も警戒するでしょう。もっとリラックスして下さいよ」
化け物の力が分からない小五郎は暢気なものだ。
心眼で聞こえる声は、あくまで、とらのコミカルな部分のみを表す。そんな状況では警戒できない。
だが、今から二人がコンタクトを取ろうとしている妖怪は、コミカルなだけの妖怪ではない。
二千年生きた大妖怪、とらだ。
間違いなく島の中でも最強の部類に入るとらを相手に、無警戒でいるのは非常識極まりない。
自然、メドーサに汗がたまる。
(っち、超加速が使えればいいんだけどね)
「駄目駄目、そんなんじゃかえって警戒されちゃいますよ」
そう言いながら、小五郎は自らとらの下へと歩みだす。
「そこにいる妖怪さん、出てきて頂けませんか?
私は毛利小五郎と言いまして、しがない探偵をやっている者なんですが……」
「馬鹿、小五郎、殺されたいのかい」
「貴方ほどの大妖怪が、こんなちっぽけな探偵を殺すなんてあり得ないでしょう。
ねぇ、とらさん」
小五郎の大胆な行動に、とらが戦慄する。
どういうわけか、相手は自分の名前と居場所を知っているらしい。
仕方ない。うしおに会うまであまり目立ちたくなかったが、姿を現すことにしよう。
「いや、別に殺しゃしねーけどよ」
と言って、道端に隠れていたとらが現れてくる。
その風格、妖気、なるほど大妖怪だな。とメドーサは感じる。
そして、物干し竿を握る右手に力が入る。
そして、一方のとらは面倒くさそうな表情をしている。
人間に会っちまったら、守ってやらねーとうしおが五月蝿い。
だから、会いたくなかったんだ。
「相方のうしお君は行方不明ですか。何だかんだ言って、心配なご様子ですな」
煙草を蒸かしながら、小五郎が喋りだす。
今度はうしおの名前が出てきた。一体、この人間は何なんだ。
「そう、警戒なさらないでくださいよ。私は只の人間なんですから。
もっとも、巷じゃ少しは名の売れた探偵でもあるんですがね」
「なんでワシやうしおの事を知ってやがる、まさか白面の回し者か」
「とんでもございません。ちっぽけな探偵事務所の所長です。
別名、眠りの小五郎とも言いますが。まぁ、とらさんから見れば、只の人間ですよ」
只の人間が、なぜ自分やうしおの事を知っている。
「この業界、色々な情報がありましてね。800年前の勇姿は私の耳にも入っておりますよ」
「タンテイつーのは、ワシやうしおの事まで調べられるってのかい」
ありえる筈がない。
探偵が何なのか、とらにはサッパリ分からない。
しかし、それでも、並の人間にはとらとうしおの関係まで判る筈がないのだ。
なにせ、本来ならとらの姿は、普通の人間には見えないのだから。
「まぁ、私は推理力だけが取り柄みたいなもんすから。アナタの事もかなり詳しく調べさせてもらいましたよ。
そして、アナタが気になされている獣の槍のこともね」
一呼吸おきながら、話を続けていく。
「実は私、今回の事件に潜入捜査員として忍び込んでいまして、白面の者の弱点を探る事が目的なんです」
「っけ、人間に白面の相手が出来るかよ」
「出来ないでしょうな、獣の槍がなければ」
「当たり前だっつーの」
「しかし、逆を言えば槍さえあれば白面を倒せる。さらに、この島には様々な世界から集められた強者どもがいる。
私に言わせれば、確実に白面を倒せると思いますがねぇ」
小五郎は白面の者の脅威を、とらの心中からしか察する事が出来ない。
あれは存在そのものが絶望なのだが、そんな事、小五郎には分からない。
「っけ、話にならねーな」
一瞬、とらと小五郎との会話に間が空いた。
その瞬間にメドーサが割ってはいる。
「一体、なんの話をしてるのさ?」
「私らをこんな所へ閉じ込めた女の話ですよ。白面って言って有名な妖怪なんですがね……」
こう言って、小五郎はとらとメドーサに白面の者に関する説明を始めた。
とはいっても、全ての説明はとらの心を読んで得られた知識を元にしている。
一通り説明が終わった後、メドーサもとらも小五郎の知識に感心しきったようだ。
「アンタ、なんでそんな事知ってるんだい」
神属にだって、こんな話は出ていない。
「人間の癖に、よく知ってやがる」
百年も生きていられない人間が、こんな知識を持っているとはとらにとっても予想外だ。
「どうです、皆さん。ここは一つ協力して白面を叩こうじゃないですか?
メドーサさんは、最終的に生き延びる事を考えていらっしゃる。
とらさんのような大妖怪にいてもらえれば心強いでしょう。
とらさんも、獣の槍とうしおさんを探していらっしゃる。
探し物に関しては、私がプロですから。三人の利害関係は一致すると言う事で」
「っけ、んなこと言って、お前らワシの力をあてにしとるだけだろうが!」
小五郎の申し出を受ければ、人間を守らねばならない。
死なせると、うしおが五月蝿いからだ。
面倒くさい、正直言ってやりたくない。
だが、そんな事を考えると、小五郎はそこを突いてくる。
「我々との同行を断っても構いませんが、もし我々が死んだら、見殺しにした事になるでしょうな。
そのとき、潮君はなんと言うか……
これは、私の探偵としての勘ですがね、獣の槍は既にこの島に来ていますよ。
白面が嫌がる槍とは言っても、やはり獣の槍は偉大ですからな。
ひょっとしたら、持ち主を求めて既に島中を動き回ってるかもしれませんなぁ。
いやいや、もしかしたら既にうしお君は槍を持ってるのかも……
堪りませんなぁ、とらさん」
「ふざけんじゃねーぞ、人間の小僧が!」
大妖怪とらが軽く見られている。
戦闘力でも、年齢でも遥かに下を行く小僧に舐められている。
これが許されることか。
無意識のうちに、とらは自分の拳に力を入れていた。
っと、そこへメドーサが物干し竿をもって横から入る。
「小五郎は殺させないよ。思った以上に使えるみたいなんでね」
物干し竿を喉に突きつけ、明らかな威嚇。
けれど、威嚇されているとらはノホホンとしており、メドーサのほうが汗をかいている。
「別に殺しゃしねーよ。ちょっとムカついただけだ」
「とらさん、怒るのは構いませんが、貴方も白面には苦い思いをさせられているでしょう。
ここは一つ、全員で協力する他、ないと思いますがね」
小五郎としては、とらの力は何より得がたい大切なものだ。
白面の者に関する詳細な知識、数々の妖怪を屠ってきた強大な戦力。
こいつを巧く垂らしこんで、娘たちを守らせれば、これ程頼りになるものはない。
だが、当のとらは、係わりに会った人間が死んでしまう事を恐れている。
見殺しにした。と言う事態になる事を恐れている。
「それに、とらさん。もし、我々を見捨てて、その後我々が死んでしまったら。
後でうしお君に相当怒られるでしょうなぁ」
「っへ、お前たちの事なんか最初から知らねー、って言えば済む事よ」
とらは中々に頑固者。
こいつを仲間にするのは骨が折れそうだ。
結局その後、とらと小五郎は何分かやりあった後、別れる事になった。
「あばよ人間。精々死なねーよにな」
「そちらこそ、お気をつけて、うしお君によろしく言っておいて下さい」
大妖怪とらはプカプカ浮きながら、どこかへと去っていった。
━━━━━
「あーぁ、せっかく。力強い味方が手に入ると思ったのに」
小五郎の対応が悪かった。
心眼の力に溺れ、嫌味まで言ってしまったのが不味い。
殺されなかっただけでも僥倖といったところか。
まぁ今回は、とらの力こそ逃したが、代わりにメドーサから、より強い信頼を得ることが出来た。
「小五郎、アンタ本当に凄いじゃないか」
推理をしない名探偵の能力に彼女は心底驚いている。
まぁ、これだけでも収穫だな。
「しかし、アンタが潜入捜査員だったなんてね……人は見かけによらないねぇ」
勢いで出しただけの大嘘なのだが、メドーサは真面目に信じている。
でも、潜入捜査員と言う肩書きは結構使えるかもしれない。
今しばらくは、この嘘をつき続けておこう。
そんな二人は再び、平瀬村を目指し始めた。
【F-3 平瀬村へ向かう道中/開始から3時間】
【毛利小五郎@名探偵コナン】
[状態]健康
[装備]魔道具「心眼」@烈火の炎
[荷物]荷物一式(食料・水二日分)
[思考]1.蘭&チビっ子達との合流
2.ゲームからの脱出
【メドーサ@GS美神極楽大作戦】
[状態]健康
[装備]妖刀・物干し竿@YAIBA
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.小五郎を利用して状況を有利に運ぶ
2.生き延びる
【とら@うしおととら】
[状態]健康
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、支給品不明(本人未確認)
[思考]1.獣の槍の確認
2.蒼月潮の捜索
3.他の人間にはあまり会いたくない。
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