決戦氷川村






ささいな日常会話から端を発したこの戦い。
しかし、ハヤテはただ逃げ回るだけであった。
「(そりゃそうだよ。お嬢様を見つけるのが第一目的だし、何よりあんなのと戦ったら命が幾つあっても足りないよ!)」
ハヤテがそう思うのは無理なかった。

追ってくるのはおよそ人間とは思えない容姿を持つ戦神、キース・シルバー。
そして何よりハヤテを恐れさせたのは、その腕から放たれる『ブリューナクの槍』と
呼ばれる荷電粒子砲の存在であった。

「いつまで逃げるつもりだ!この小動物が!」
ハヤテが逃げている最中も、その無数のビームが容赦なくハヤテを襲う。
ある時は避け、また、ある時は物影に隠れるなどしてハヤテは何とかやり過ごしていた。
「(まずい。非情にまずい。一体どうすればいいんだ?)」
打開策が何一つ見つからないことに焦るハヤテ。
しかし、そこに一つの妙案が思いつく。

その名は 『ヤ  シ  マ  作  戦』



それは某大ヒットアニメの初○機、零○機と第五使徒ラ○エルとの戦いでの作戦。
ラミ○ルはキース・シルバーと同様に荷電粒子砲を使う敵であった。
その時に使用された作戦というのが、荷電粒子砲を零○機が盾で防ぎ、その間に初○機が狙撃するというものである。
そして、見事この作戦は成功している。

「(この作戦を使えばいいんだ!)」

盾はジュラルミンケースで代用。問題は狙撃方法がないということであったが、
そこは必殺技で代用することにした。
そして、何度目かわからないブリューナクの槍を避けた直後に、ハヤテは作戦実行のため再びキース・シルバーと向かい合う。
「いきますよ!」
「ほう、やっとやる気になったか」
しかし、ハヤテにその言葉は届いていなかった。
振り向いた直後、ハヤテの目に飛び込んできたのはキース・シルバーの後に広がる凄惨な光景。
さっきまで確かに存在していたはずの民家が、道路が、木が、軒並み原型を保っていなかった。
その光景を見たハヤテは絶句し、再び逃走を開始する。
「また逃げるのか!」
「(僕の考えが甘かった…。そりゃあジュラルミンケースぐらいでビームを防げるわけないよな…。
 やっぱりアニメと現実を一緒にするのはよくないなぁ)」
いつかナギに言われた言葉が思い出される。
「(しかも、これで振り出しだよ。それにもう何も思いつかないし…。
 助けてください、ミ○トさん!!)」

「こ、こりゃあ…」
乱馬と武蔵もまたハヤテと同様にその光景に絶句していた。
「一体何があったんだ?」
「分からん。だが一つだけ言えることは、この近くで暴れている者がおるということじゃ」
「だったら、そいつのとこに行ってみようぜ」
「ふむ…。そうじゃな、一人だけで暴れているとは考えづらい。おそらくこれは戦闘の跡じゃろう。
 ここは、乱馬の言うとおりこの破壊の跡を辿ってみよう。その先にこの戦闘の張本人がいるはずじゃ」
こうして武蔵と乱馬もまた、この荒れた道を走り出した。

そして、一匹の怪物と、それに追われる一人の少年を発見する。
「どうやらあの怪物が張本人らしいな」
「ああ、そのようじゃ。よし、乱馬はあの怪物の目を引き、時間を稼いでくれ。ワシはその隙にあの少年を逃がす」
「わかった。じじぃもあれの流れ弾に当たらねえようにな」
「何を言っとるんじゃ?ワシを誰だか忘れたか?」
「へいへい、400年生きた宮本武蔵だろ」
「分かっとるようじゃな。では行動開始じゃ!」

乱馬は一直線にキース・シルバーに、武蔵はハヤテに向かって駆けだした。


「(はぁ…。今日、僕、死ぬんだ…)」
建物の影でハヤテはこの状況の打開を諦めかけていた。
「(けど、ただで死ぬわけにはいかない!お嬢様のためにも、死ぬ前にあの使○に一太刀でいいから浴びせてやる!)」
覚悟を固め、瞳を閉じ、一回大きく深呼吸をする。
「(よし!綾崎ハヤテ、ガ○マじゃないけど最初で最後の特攻だ!見ててください、お嬢様!)行きますよ!
 って、おじいさん、こんなところで何やってんですか!?危ないから、ここは僕に任せて早く逃げてください!」
いつの間にかハヤテの目の前には小さな老人が立っていた。
おそらく深呼吸している間に現れたのだろう。
「安心せい。ワシは宮本武蔵。お主の味方じゃ」
「はぁ、僕は綾崎ハヤテです。味方してくれるのは嬉しいんですけど、おじいさんを危険な目に合わせることはできませんよ。
 さっきも言ったように早く逃げてください」
「ホッホ、誰がワシが戦うと言った?あれを見てみい」
武蔵が指さした方を見てみると自分と同じ位の少年があの怪物と戦っている。
「さぁ、乱馬が時間を稼いでいる内にワシらは逃げるぞ」

しかし、ハヤテはその申し出を拒否する。
「すいません、宮本さん。見ず知らずのあの人が戦っているのに、僕だけ逃げる訳にはいきませんよ」
そう言うと、ハヤテはキース・シルバーを正面に据え、あの時のことを思い出す。

それは、執事復帰のため執事クエストに挑戦した時のこと。
自分の力不足から守るべき主を命の危機に晒してしまった。
あの時はお嬢様を救うためだった。
状況が違うとはいえ、誰かを助けたいというのは一緒だ。



周囲の風がハヤテを中心に渦巻いていく。
刹那、ハヤテの体が疾風のようなスピードでキース・シルバーに向かっていった。

「(ちっ、こいつ強ぇ)」
ブリューナクの槍を恐れずにキース・シルバーに挑んだのはいいものの、その人を越えた腕力と、
タフネスの前に乱馬は苦戦を強いられていた。
ハヤテを逃がすための時間を稼ぐのが目的とはいえ、少しも手を抜くことを許してくれるような相手ではなかった。
「(じじいはもう逃げたか?にしても、この調子じゃ俺が逃げられるか怪しいぜ。
 どうも、簡単に逃がしてくれるような奴じゃないらしいしな)」
そんなことを考えている間にもシルバーの剛腕が頬を掠めていく。
「どうした?お前もただ逃げるだけか?」
「ちっ、言ってくれるぜ」
二人が初めてとも言える会話を交えた時、乱馬の目に必殺技を放つハヤテの姿が目に入った。
「おさげの人!避けてください!」
その声によってキース・シルバーもハヤテの姿を確認する。
が、気付くのが少し遅かった。
ハヤテの必殺技がキース・シルバーの体を貫いていく。
「何!?バカな!ARMSも持たない人間ごときにこの俺が!?」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


次の瞬間、乱馬が見たのは地面に倒れる右半身のないキース・シルバーと、ハヤテの姿であった。
「おい!だいじょうぶか?」
「あ、はい…。大丈夫です。この技を使うと反動で体がボロボロになっちゃうんですよ…」
倒れるハヤテを介抱する乱馬。
そこへ、武蔵も駆けつける。
「よく頑張ったな、乱馬!ハヤテ!二人とも疲れたじゃろう。さっさと診療所に行って休もう」
「ああ」
乱馬は動けないハヤテを背負い診療所へと歩き始める。
「(それにしても本当によくやったわい。あんな化け物を倒してしまうんじゃからな)」
感慨にふけりながら武蔵は後ろを振り向く。
しかし、そこで武蔵が見たのは、今にもブリューナクの槍の発射しようとするキース・シルバーの姿であった。
「(なんじゃと!?こやつ生きておったのか!)」

そして、光が走った。


「乱馬!ハヤテ!危ない!!」
ビームが乱馬を飲み込もうとする直前、武蔵がとった行動は乱馬を突き飛ばすことであった。
「!?急に何すんだよ!じじ……い…?」
乱馬が見たのは光に飲み込まれる武蔵の姿。
「(おい、何の冗談だよ?まさか俺達をかばったのか?)」
乱馬はなかなか状況を把握する事ができなかった。
そこにハヤテの声が響き渡る。
「乱馬さん!あの化け物生きてますよ!」
それは悪夢のような現実。
半身が無いのに関わらず、キース・シルバーは生きていた。
「小動物が調子に乗りやがって!この罪は死を持って償ってもらうぞ!」


「…げるぞ」
「え?」
「逃げるって言ってんだよ!お前がこの状態じゃ戦う訳にゃいかないだろ!
 それに、ここで死んじまったらじじいに申し訳が立たねえ」
「はい…(宮本さん…)」
すぐさま乱馬は逃走体勢に移る。
しかし、キース・シルバーは簡単にはそれを許さない。
「逃がすか!」
またもブリューナクの槍が襲いかかる。
それを何とか紙一重でかわす乱馬。
「ちっ、やっぱ簡単には逃がしてくれねぇか」
「乱馬さん、これを使ってください!」
そう言って、ハヤテはジュラルミンケースを乱馬に手渡す。
「これを投げてください。必ずあいつに隙ができます!」
「その言葉、信用させてもらうぜ!」
そして、乱馬は思い切りジュラルミンケースをキース・シルバーに向かって投げつけた。
「ふ、こざかしい」
億劫そうにケースをはたくキース・シルバー。
その時であった。
はたくと同時にケースが開き、一万枚にも及ぶ一万円札が視界を覆い尽くす。
「なんだと!?」

視界が晴れたとき、キース・シルバーの前には乱馬の姿はなかった。


「ハァハァ…、ここまでくれば安心だな」
「ええ、どうやら逃げ切れたらしいですね」
乱馬が行き着いた先は当初の目的地、沖木島診療所。
しかし、さっきまで共にこの地を目指した侍はこの世にいない。
「じじい………」
流れるのは一粒の涙。
こんなところで泣いてはだめだ。
乱馬は自分に何度も言い聞かせる。
しかし、思いとは裏腹に涙が止まることはなかった。




【Iー7 朝】
【キース・シルバー@ARMS】
[状態]右半身消失
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分、支給品不明)
[思考]1,キズの修復
   2、高槻涼を探す
   3,高槻涼と戦う
   4、ハヤテ、乱馬への復讐
【Iー7 沖木島診療所/朝】
【早乙女乱馬@らんま1/2】
[状態]体力消費少、悲しみ、男
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分、支給品不明)
[思考]1、体を休める
   2、あかねを捜す
   3、武蔵の仇を討つ
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく!】
[状態]体力消費大(自分では動けない)、悲しみ
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分、一億円入りジュラルミンケース)
[思考]1、体を休める
   2、ナギ・ヒナギクの安全を確保
   3、できれば武蔵の仇を討ちたい

【宮本武蔵@YAIBA】死亡確認
【残り60人】

*キース・シルバーの右半身は近くに転がってます
*武蔵の荷物一式は消滅しました。支給品は不明です。次の作者に任せます。



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