貴方を愛しています






〜〜 記憶の中の英雄 〜〜

 それはスロー再生のビデオのようだった。
 崩れ落ちる少年の瞳はどこを見ているわけでもなく、ただ眼球の黒い部分だけ中央に固定されている。

───また変な異世界に飛ばされちまったのかなぁ……

 少年の言葉には少し喜びが混ざっている。

───思い出しても許せねえ……人の命をなんとも思ってないんだ!……

 転がるように表情が変わる。あぁ、この子は生きてたんだな。

───なあ、一緒にあの…えーとさ。そう、あの悪そーな女を倒してこんな世界ぶっつぶそーぜ!

 私の目に映る、無邪気さと勇ましさが同居した表情。
 虎水ギンタと言う子は正義の味方であることを楽しんでそうに見える。
 良くも悪くも生まれついてのヒーロー。
 もしも、彼が主役になれる世界があるのなら、彼は英雄にでも救世主にでもなれただろう。
 でも、ここは主役のいない世界。
 私の他愛ない行動で、英雄は崩れていく。力を失った彼の上半身が、重力に従って直下へ落ちる。
 自重に耐え切れず、膝が音もなく曲がり始める。

(あぁ、ギンタ君は死んじゃうんだ)

 最初に抱いた印象は、まるでアニメのワンシーンでも見ているかのように他人事。
だけど、それは徐々にリアルさを増していく。
 彼の両膝が大きな音を立てて、地面に激突する。
(やっぱり、死ぬの?)

 膝が180度曲がり、彼は自分の踵に尻餅をつく。
(ねぇ、本当に死んじゃうの?)

 少年がゆっくりと倒れていく姿を見て、私の心にある何かが叫びだす。
(嘘でしょ、本当に死ぬの。嫌だ、信じられない。どうして?)

 決心した事とはいえ、目の前で小さな子供が死んでいくのは耐えられない。
 私は目の前で流れるスロー再生の死亡劇を見つめる事しかできず、ただただ呪文のように
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい
 ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
 と何度も呟いた。この言葉に何の意味もないと知りつつも、私には他に何もできなかったのだ。

 結局、ギンタ君は私の目の前で死んだ。誰でもない、私が殺したのだ。


(どうです? 貴方にはこんな素晴らしい力があるんですよ)

 素晴らしくなんかない、どうして私をこんな事に巻き込むの。私は殺し合いなんてしたくないの。
 貧乏でも、希望を持って暮らしていたあの頃に戻して。大学を目指して一生懸命勉強していたあの頃に戻して。
 大声で叫びたかった。でも、どれだけ願っても、悔やんでも、時は戻らない。
 そうよ、もう引き返せないんだわ。大体、ギンタ君を殺そうと思ったのは他ならぬ私だ。
 自分で殺そうと考えて、自分で殺したんだ。昔と違ってゾフィスのせいにはできない。

 暫くして何とか冷静さを取り戻した私は、返り血を洗い、人殺しをしたという証拠を隠滅する。
 返り血を拭うという点において、私が手に入れた力は便利だった。
 怪しく蠢くピンク色の物体。今その物体は私の背中に取り付いている。
 何かの生き物らしいが、コミュニケーションは取れない。酷く原始的な生き物のように感じるが、
それ故、他の生き物に寄生するのは上手いらしく、私の体にピッタリとくっ付いてしまっている。
 この生き物は洗い切れなかったギンタ君の残り血を全て吸い取ってしまった。
 どうやら、この生き物には他の生物の血液を、自分の宿主に還元する能力があるらしい。
 また、自分の宿主が持っている血液を、宿主の意思に従って自由に操り、時には武器として時には盾として
使う事も出来るようだ。
 何も喋らない分、ゾフィスよりはマシなんだろうけれど、私にとっては怖い力である。
 それでも、決意した事を実行するためにはこの力に頼らざるを得ない。


〜〜 心溶かす出会い 〜〜

 ホテルから出て暫く歩いた私は、道中で一組の男女と出会った。
 河内恭介さんと美神令子さん。2人とも私と同じ年代の人だ。
 島にいても特に行く当てがない私は、簡単な自己紹介をして彼らと行動を共にする事にした。
 彼らも、全く疑うことなく、共に行動する事を許してくれた。
 彼らが私を疑わなかった理由は恐らく二つだろう。
 一つは、ゲームが開始された直後なので、彼らが今までに殺人者と出会わなかったと言う事。
 これは推測に過ぎないが、ゲームが始まって数時間しか経っていないのだから、あながち外れとも思えない。
 もう一つは、私自身の見た目。お世辞にも可愛いとは言えないルックスだが私は女の子だ。
 年頃の女の子が、人に危害を加える人間であるとは誰も思わないだろう。だから彼らはほとんど私を疑っていない。
 ただ、そうは言っても、美神さんだけは私を少し疑っているようだが、あまり大きな問題ではない。
 今は若干の疑念より、私自身の心の弱さが問題になる。

 殺す。

 言葉にすれば簡単だが、実際には難しい。
 目を閉じれば今なお、崩れ落ちていくギンタ君の姿が見えてくるようだ。
 人一人の命は決して軽くない。
 私は親友のためとは言え、見ず知らずの人間たちの命を奪い尽くさなければならない。
 出来るだろうか。
 いや、難しい事は分かっている。それでも、やらなければならないのだ。
 私は彼らから見えない左手掌に、親指大のナイフを作り出す。それは自分の血液を材料にした武器。
 私の背中に寄生する生物が血液の凝固作用を利用して作ったもので、中々に硬く、強い力で斬りつければ、
人を二人殺す事など訳はない。私は、このナイフで二人を切り殺すだけで目的を達する事が出来る

 後は決心だけ。
 だが、その事が容易ではない。

「そっか、ヨーロッパから来たんか。大変やなぁ」
 他愛ない雑談からスタートする私と彼らの関係。情がうつっては殺しにくいと分かっていても、
中々に覚悟を決められない私は雑談に流されてしまう。
「ワイはな、日本から来たパン職人や。パンタジアって言うそら有名なパン屋の職人やねんで」
「意外ねぇ、なんの取り柄もなさそうな顔してるのに。パンなんか本当に作れるの?」
「取り柄のない顔って何やねん、ワイかて日本屈指のパン職人やで。そら、東や諏訪原、冠には負けるけど、
ワイ以上の職人はそうはおらん。美神さんやココさんにもいずれ食わしたるさかい、待っとってや」
「東、諏訪原ってどっちもこの島にいるじゃない。私は何でも一番がいいのよ、一番美味しいパン食べさせてよね」

 そんな会話をしながら、私たちが向かっていく先は平瀬村。
 会話の流れから行くと、平瀬村で河内さんのパンが食べられるんだろうか。でも、私は貧乏だから無理だな。

「日本屈指のパン職人って、河内さんって凄い人なんだね。でも、私は貧乏だから、河内さんに払うお金がなくて
パンは食べられそうにないなぁ」

 日々の生活に困るほどではないけれど、冗談抜きに私の家は貧乏で、美味しいものなんて食べた事がない。
 それどころか、貧乏すぎて街の食材屋から物を盗むと疑われるほどに貧窮していた。
 もちろん、実際に盗んだ事はない。だが、貧乏人にまともな生活など出来ないという現実を学ぶには
十分すぎる環境だった。けれど、そんな私に対して河内さんは優しい言葉をかけてくれる。

「貧乏って、ワイの家も相当に貧乏やったで。いや、今もやな。親父が火事で亡くなって以来ずっと貧乏や。
兄弟に満足な飯を食わせるために、学校も通わずこの年でパン職人になってなぁ……」

 茶色に染めた短い髪型が、いかにも今風の若者を意識させる河内さんは意外にも貧乏人。
 私と同じだ。

「ちょっと駄目人間の癖に、貧乏話とかしないでよね。私まで金に縁がなくなりそう」
「ちょ、美神さん。誰が駄目人間ですねん」
「あんた、私の知ってる助平な駄目人間によく似てるのよね。何ていうか雰囲気全体がさ」
「なんでやねん!」

 面白い人たちだ。ここが殺し合いの空間である事を忘れさせられる。
 彼らが明るいのも、恐らく命の危機に直面した事がないからなんだろうが、それでもこのムードは私の心を暖めていく。

「まぁ、ともかくや。いつか絶対パンを食わしたる。いや、いつかと言わず平瀬村に着いたらすぐでもええで」
「でも、私はお金を払えないし」
「お金なんか要らんわ。全員この島に連れて来られた被害者同士やろ。パンぐらい仲良く食わな」
「令子、東君のパンがいい」
「なんでやねん!」
「だって、彼のパンが一番なんでしょ。この島にいたら一番美味しいパンが食べたいじゃない」


 憎まれ口を叩く美神さんも、決して河内さんが嫌いなわけじゃなさそうだ。
 本当に、彼らは楽しそうに話をする。
 駄目だ、これ以上彼らと話をしていると躊躇いが強くなってしまう。

「美神さん、アンタそんな事言うてますけどな、ワイかて凄い職人やねんで。証拠見せたるさかい、
なんかコインみたいなの貸してくれへんか?」
「コインなんか持ってる訳ないじゃない。代わりにこれで我慢してくれる」

 そう言って美神さんが取り出すものに、私は我が目を疑った。
 それは使用済みの薬莢。映画やテレビでしか見たことはないが、銃弾を撃った後に生じる残りかすだ。
 これがあるという事は、美神さんと河内さんの二人は戦いを経験している事になる。

「物騒なもん持ってますなぁ。まぁ、これでも代わりになるやろ。よう見とってや」
 河内さんは左手の背に、薬莢を載せてそれをクルクルと動かしはじめた。
「これはコインロールちゅうてな、手先を器用にするための修行の一つや。
ここまで滑らかにできる人間は世界でもそうおらんで」

 確かに河内さんが自信を持つのも納得できる。
 薬莢は油を塗った車輪のように、滑らかに彼の手の上を踊る。


「確かにコインロールは巧いみたいだけど、パンも美味いとは限らないじゃない」
 美神さんの指摘はもっともだ。けれど、私にはそれ以上に気になることがある。
「あのぉ、コインロールは凄いと思うんだけど。それより、その薬莢はどうしたの?」
 戦いの痕跡を残す物体。念のために確認しておこう、彼らは一体なぜこれを持っているんだ。
「あぁ、これはな。美神さんが撃ったスナイパーライフルの弾丸や。
さっき、ワイが変な仮面の大男に襲われたときに美神さんが助けてくれたんやけど、そん時に使ったもんやな」

 さっき? 襲われた?
 河内さんは微塵もそんな素振りを見せていなかった。
 私を疑わなかったのも、そんな経験がないからだと思っていたのに、どうやら考えが完全に違っていたらしい。

「襲われたって、本当に? だったら、どうしてそんな明るく振舞えるの」

 信じられない。だって、ここは殺し合いの島だよ。その大男だって、私だって十分に危険なんだよ。
 単純に能天気なだけ? いや、違う。そんな雰囲気じゃない。
 疑問に思う私に、河内さんは丁寧な説明をしてくれた。

「まぁ、普通は一度襲われたら少しは暗くなったりもするんやろうが、ワイはパン職人や。
パン職人のワイが、明るさを失ったらあかん。ワイら料理人は人を幸せにする義務を負っとる。
そのワイらが暗くなったら、誰も幸せになんかなれへん」

 河内さんは、職人としての誇りを強く持っているらしい。
 東さん、諏訪原さんより格下でも、彼は立派な職人魂を持つ人間であるようだ。

「正直言うとな、ココはん。アンタを見つけたとき、ワイは少し疑とったんや。
命助けてくれた美神はんと違ごうて、アンタには何の恩もない。それに加えて、ここは殺し合いの会場や。
誰かて疑うやろう」

 意外な言葉が出てきた。
 私を受け入れ、明るい言葉で接してくれた河内さんが私を疑っていると言う。

「けどなぁ、やっぱワイはパン職人や。そら、さっき言うた人たちに比べたら二流かも知らん。
それでも、やっぱりパン職人なんや。人を疑って、不幸せを作っていく事はワイらの仕事やない。
たとえ力はなくても、食事を作り、笑顔を作っていく事がワイらの仕事や。
だからな、ココはん。ワイは誰に襲われても、最後まで明るさを失わへんつもりや」

 簡単に聞こえるが、凄い覚悟だ。
 これが、パン職人と言う人種なのか。よく見ると、河内さんの左手足に少しの切り傷がついている。
 さらによく見れば、彼は歩くのもキツそうだ。

「そんな偉そうな事言ってるけど、さっきまでのアンタ見てたら、とても信じられないわよ。
仮面男に襲われて、『ウギャァァァ!!』とか叫んでさぁ、情けないったらありゃしない」

 美神さんは、長い髪の毛で河内さんの髪型を真似しながら、面白可笑しく叫び声を再現する。
 駄目だ。
 こんな事をしていては、いつまで経っても彼らを殺せない。
 際限なく大きくなっていく躊躇を胸に、私は歩いていく。
 そのうちに、平瀬村が見えてきた。

「材料あるかどうか分からへんけど、もしあったらアンタにパン食わせたるで」
 そう言いながら、クシャっと私の頭を撫でてくれる河内さん。
「暖かい手。この手で作ったパンは美味しいだろうなぁ……」
「これはな、太陽の手甲って言うてな。ワイが気を失うほど辛い思いをしながら、獲得した手や。
見てみい、ワイの腕、中々凄い筋肉やろ」

 引き締まった筋肉、暖かい手。
 この手なら、どんな小麦粉でも力強く捏ね上げ、人のぬくもりが感じられるパンを焼き上げられるだろう。
 彼の暖かい手は、私の頭の中にある冷たい何かを溶かしていくようで心地よい。

「河内さん。平瀬村についたら、すぐにパン食べようね」

 私はそう言いながら、彼の手を握り締める。




「ウギャァァァ!!」
 河内さんが叫び声を上げた。
 それは奇しくも、美神さんが茶化しながら再現した叫び声と同じものだ。

「ちょ、ココはん。なんかおかしいで、手を離してくれまへんか」

 私は手を離さない。
 左手に隠し持っていた手製のナイフを彼の手に突き刺し、そこから血種を使って河内さんの血を吸い取っていく。

「ちょっとぉ、河内君。なんの冗談よ」
「冗談ちゃいます。ホンマに苦しいんや」

 美神さんには何が起こったのかわからないらしい。
 そりゃそうだ、私が河内さんの血液を全部吸い取っているのだから、見た目には出血していないし、
か弱い女の子が手を握っているのだから、別に何か害のある行動には見えないだろう。
 そして、その事は河内さんにも言える。

「一体、何が起こってるんや。ワイの体から血が抜けてってるみたいや」
 みたい、ではなく、実際に抜けている。
「血が抜けてる? ひょっとしてアンタ、吸血鬼の仲間なの。
河内君から離れなさい、本当に怒るわよ!」

 今さらながらに、美神さんがスナイパーライフルを構えて私を脅す。
 言われるがままに、河内さんから離れたが、もう十分だ。彼の血液は大量に頂いている。
 しかし、私が吸血鬼か。そんな程度のものであれば、どれだけ気が楽な事だろう。
 現実に、私の身に巣食う悪魔はそんなレベルの物ではないのだ。

「吸血鬼の仲間が、なんの目的で河内君を攻撃したかは分からないけど、
今すぐに彼を戻しなさい。でないと、撃ち殺 ……

 私は美神さんが言い終わるよりも早く、吸い取った河内さんの血液を彼に返す。
 ただし、凝固した弾丸としてだ。
 空から降る雹のごとき、血塊弾の乱射。
 河内さんの体全体にそれが当たり、彼は原形を留めぬほどに変形してしまう。
 もはや、生きてはいないだろう。

「許さ ……

 何かを言いかけた美神さんに、私は一発だけ血塊弾を打ち込む。
 それで十分だった。
 弾は、彼女の左胸に命中し、ほんの僅かな出血をもたらす。
 その一撃で、彼女はその場に倒れた。
〜〜 決意の理由 〜〜

 優しかった河内さん。憎まれ口を叩きながらも、何だかんだで人を守ってくれた美神さん。
 二人とも死んだ。殺したのは、またも私だ。
 河内さんの暖かい手のぬくもりを感じながら、二人を殺してしまった私は、もう人間じゃない。

「河内さんのパンが食べたかったなぁ……」

 今もなお、河内さんの手の温もりは私の髪の毛に絡まっている。
 髪をすくと、そこに彼がいるようだった。
 その温もりは、彼だけじゃなく、幼き日のあの人を思い出させる。
 自殺しようとして、川に身を投げた少女。
 彼女の手もまた暖かかった。私は河内さんの温もりで、シェリーの事を思い出すことが出来たのだ。

 河内さんは優しかったけれど、それでも私が大切にしているのはシェリーだけ。
 シェリーを思い出したら、殺せないなどと言う気持ちは吹き飛んでしまった。
 私は彼女のためにこの島にいて、彼女のためにこの島にいる者たちを皆殺しにするだろう。
 けれど、なぜか私の心は晴れない。やっぱり、三人も殺しちゃったからかなぁ。

 河内さんが持っていた食料を口に運ぶ。
 パン職人を名乗っていた彼の持つ支給食は、やはりパン。
 一見するとただのコッペパンだったが、まろやかでとても美味しい。
 それに、コッペパンとは思えないほど、中身が白く鮮やかで、輝いて見えるほどだった。

 自然、私の目に涙がたまる。

「殺したくなかった。私だって、パン食べたかったよ」

 本心である。けれど、私が殺しを止める事はない。
 もしもシェリーが今の私を見たら、なんと言うだろう。
 優しかったはずのココはもういない。今の私はゾフィスに操られているわけでも、
背中に取り付く化け物に操られているわけでもない。
 単純に自分の意思で、人殺しに手を染めている。

 やっぱり、もう貴方には会えないわね。
 それでも、もし貴方に会えたなら一言だけ言わせてください。

「貴方を愛しています」
【F-2 平瀬村付近/開始後4時間】
【ココ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康
[装備]:魔導具「血種」@烈火の炎
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分)、アイテム(不明)、スナイパーライフル
[思考]:1.シェリーをこの世界から脱出させるために他参加者を全滅させる。
    2.顔をあわせたくないのでシェリーに会いたくない。

【美神令子@GS美神極楽大作戦!】 死亡確認
【河内恭介@焼きたてジャぱん!】 死亡確認
【残り60人】


 ここは平瀬村へと続く道の上。一人の男の奇妙な死体が転がっている。
 その死体は、全身穴だらけなのにほとんど血液が流れていないと言う、不思議なものだった。
 開いた穴の周囲には、ピンク色の何かが付着しており、傍目には血液に見える。
 しかし、実際にはその何かは血液ではない。血である事は確かだが、液体ではなく、固体。
 ココという少女が放った血塊弾が、粉末状になり穴の周囲に散らばったものだった。

 仕組みは簡単である。
 ココの放った血塊弾は、所詮たんぱく質が凝固した物体であり、その正体は牛乳に出来る膜と同質である。
 この物体が、男に降り注ぎ、男の体のあちこちにぶつかって、粉々に砕けた。
 その砕けた粉末が、彼の体に纏わりつき、血液のように見える物体へと変化したのである。

 同じ事が、隣にいる女にも起こった。
 その女は、左胸、心臓の位置に血塊弾を受けた女。
 血塊弾の衝撃により、気を失っていた彼女の胸にも、軽い出血のような跡が見られる。
 これは、粉末と化した血塊弾。

「全く、シャレになんないわよ」

 美神令子が起き上がる。左胸のポケットには、スナイパーライフル用の弾丸が入っている。

「これ、持っておいて良かったわ」

 運良く、弾丸が身を守ってくれた。
 本来、人を殺すはずの道具なのだが、使い方によっては身を守る事もある。
 職業柄、様々な危険と接する美神は用心のために、弾丸を急所近くに置いていたのだった。

「河内君、死んじゃったのね……」

 霊魂は見えない。もう成仏してしまったのだろうか。
 自分が信じた少女に命を奪われるなど、どれだけ不幸でもあってはならない出来事だ。
 しかし、それが起こってしまった。GSとして、これまで多くの悪霊を見てきた美神は、
河内の霊が悪霊にならない事を祈らずにいられない。


「それにしても、あの女は絶対に許さん!」


 周りを見渡すと、スナイパーライフルが無くなっている。
 役立つ武器だと言う事で、あの女が盗んでいったのだろう。弾丸も一発だけ、あの中に込められている。
 そして、役に立たない武器として特大ヘラは残されていた。
 こんなもの持っていたところで邪魔になるだけなのだが、それでも美神はそれを手にした。

「河内君、アンタの無念は私が晴らしてあげるわ」

 数時間とはいえ、行動を共にした男が持っていた武器だ。
 情が薄い美神でも、その武器は必要なのだろう。河内の仇をとるために。

「何があっても、アイツはぶっ殺す。私を嘗めた真似して許されると思ってんじゃないわよ」

 いや、どうやら河内の仇として見ているのではない。
 純粋に、自分を騙した女として、ココの事を恨んでいるようだった。
 美神令子は、スナイパーライフルの弾丸を胸に、特大ヘラを背中に持って、再び歩き始める。
 今度、あの女に会ったらただでは済まさない。
 美神という女は、自分が世界の中心にいると思っている。だからこそ、ココは殺す。確実に。
【F-2 平瀬村付近/開始後4時間】
【ココ@金色のガッシュ!!】
[状態]:健康
[装備]:魔導具「血種」@烈火の炎
[道具]:荷物一式(食料&水:8日分、若干消費)、アイテム(不明)、スナイパーライフル(残弾1)
[思考]:1.シェリーをこの世界から脱出させるために他参加者を全滅させる。
     2.顔をあわせたくないのでシェリーに会いたくない。
[備考]:血種は同じ血液型の人の血液しか吸血できません。しかし、ココはその事に現時点では気付いていません。

【F-3 平瀬村へ向かう道路/開始後4時間】
【美神令子@GS美神極楽大作戦!】
[状態]:健康、左胸に血痕がありますが怪我はありません。
[装備]:特大ヘラ@らんま1/2
[道具]:スナイパーライフルの弾丸27個
[思考]:1.主催者を倒す
     2.横島の捜索
     3.ココを許さない

【河内恭介@焼きたてジャぱん!】 死亡確認
【残り61人】




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