かみそり後藤の考察






時刻は七時半を過ぎた頃。
灯台の入り口から二人の男が出てくる。
オレンジの派手な服装の男、後藤喜一。
その服は彼が隊長を務める特車二課の制服である。

後藤は少し違和感を感じていた。
手元にあった三百円で後藤がボディーガードに雇った阿紫花という男。
彼のこの制服に対する反応の薄さである。
ある意味で有名(どういう意味合いかは後藤他諸隊員の名誉の為、割愛しておく)な
第二小隊の制服はその独特の色合いのせいもあるためか、それを見た者に多かれ少なかれの反応があるのである。
阿紫花にはレイバー小隊という物珍しい部署に対する興味も、仕事の不始末に対する皮肉めいた発言もない。
「最近のお巡りさんって言うのは派手なんですねえ」という一言だけだった。
そう、まるで第二小隊の存在を知らず、制服を始めて見たかのような。
ここで後藤は、集められた当初にそれはまず無いだろうと頭の中にしまい込んだ一つの考えを再び取り出す。
それはパラレルワールドという安っぽいSF小説のような考え。
もしそうならば、この不可思議な世界も、自分に配られた支給品も、特車二課をおそらく知らないであろう阿紫花の反応も説明は付く。

「旦那、どうかしたんですかい?早く行きやしょうや。」
考え込み、足を止めていた後藤に先を進む阿紫花が話しかける。
「なに、考え事をしてただけさ。ところで歩きながらで良いんだが、少し質問したいことがある。」
後藤は自分の考えを確かめる為に質問の提案を持ちかける。
「刑事さんお得意の取調べって奴ですか?」
「どっちかっていうと聞き込みって奴かな。この場合。
 なあに、あんたが言いたくないことは喋らなくてもいいさ。」
煙草を吹かしながら、後藤と阿紫花は砂利道を音を立て進む。
「レイバーって言う物を知らないか?」
「・・・いやあ、聞いたことも無いですねえ。なんですかいそりゃあ?」
暫しの沈黙のあとに阿紫花は答えた。
「やっぱりそういうことか。」
後藤は自分の考えが確かなものだと確信した。
自分の世界でレイバーの存在を知らない人間など殆ど居ない。
阿紫花が嘘を吐いている可能性も無いわけでは無いがそんな嘘を吐くメリットも考え付かない。
つまり、阿紫花は特車二課やレイバーの存在を知らないのではなく、その存在自体が無い世界から連れてこられたのだろう。
「そういうことって言うのはどういうことなんです?」
状況を飲み込む事の出来ない阿紫花は後藤に何のことかを尋ねる。
後藤はレイバーについてや自分の世界、自分が達した結論、そもそものパラレルワールドの概念などを分かりやすく教えた。

「大体の事情は承知致しやした・・・」
阿紫花は訝しげな顔をしては居たが後藤の話をとりあえずは信じる事にした。
「しかしロボットが居るなんて、酔狂な世界もあったもんだ。
 まあ、あたしの世界も信じられないような事はありましたがね。」
「ほう、そりゃ興味深いな。詳しく聞かせてもらえりゃしないかね?」
「構いはしませんが、旦那はそれを聞いてどうするんですかい?」
「出来るだけ、それぞれの世界についての情報は仕入れておいたほうが良い。
 最初に集められた場所でも化物みたいな連中は居たし、支給品に関しても単なる重火器や刃物の部類じゃなく特殊なものもあるだろう。
 対処法が分かれば万々歳って所さ。」
「そういうことなら、とりあえずあたしの知ってる信じられないようなことでも話やしょうか。」
阿紫花は後藤の先見の明に改めて感心する。
そして自動人形のこと、黒賀の者やしろがねなどの人形繰り達について
そして世界に蔓延するゾナハ病についてなど自分が殺し屋である事意外、包み隠さず話した。
殺しのクライアントならともかく、ボディーガードとクライアントの関係は円滑なものにしておきたい為だ。

「自動人形のサーカスがばら撒く病原菌で人々が苦しんでいるか。確かに俄かには信じ難いね。
 しかし、その黒賀やしろがねといった人々が使う人形に関しちゃ、支給品で配られていたとしても余り恐れる事は無いだろうな。」
「確かに人形は訓練を積んだ者じゃなければ有効に使えやしませんからね。
 恐ろしいのはパンタローネって自動人形でさ。エレオノールって嬢ちゃん守る為ならなんだってしやす。」
「ふむ。こいつはこの支給品も使えるようにしとかなけりゃいかんかな。」
後藤はデイパックから和紙で出来た小さい箱とその取り扱い説明書を取り出した。
「そりゃあ一体なんです?」
阿紫花はとても武器には見えないその箱を開けようとする。
「おっと、止めておいたほうが良い。この中には外堂とかいう化物が住んでいるらしくてな。
 人の欲望、恨みや妬みの心を糧にして生きる化物だそうだ。
 俺は信じる気にはなれんかったし、特殊な術者じゃなけりゃ使えんものらしいから使う気は無かったんだ。
 だが、そう四の五の言ってる場合じゃないからね。おそらくこいつも俺やアンタの世界とは別の世界の物だろうなあ。」
差し出した手を引っ込めて、阿紫花はホッとした顔をする。
「しかし、こんなもんどうする気ですかい?ある種の外れみたいなもんだ。」
「この説明書に外道を操る為の歌や印の結び方が書かれてる。
 ある程度マスターしたら俺みたいな何の力の無い人間でも使えるらしい。
 だが、強力になりすぎれば取って喰われたりするかもしれんがね。」
後藤はそんなことを眉一つ動かさずに言ってのけた。


そんな事を話しているうちに時刻は九時をまわった頃。場所はH-8辺りだろうか。
「こいつは・・・」
所々、地面が軽く抉られている。並の脚力で蹴った者ではないだろう。
「誰か居たようですね。しかもこいつはかなりの実力者が戦ったあとみてえだ。」
そんな地面を見て阿紫花はただ事ではないと言った風に口を開く。
先程、優と犬夜叉が戦った後なのだがこの二人には知る由も無い。
「しかし、死体が近くに無いって事は戦闘はしても、殺し合いをしていた訳じゃあないって所かな・・・」
「どっかに埋めたのかもしれやせんよ?」
「それは無いさ。毒殺ならともかく、これだけの戦闘を行ったんだ。
 少なくとも血液の匂いがしたり、どこかに少しぐらい血溜りがあっておかしくない。
 そもそも、殺し合いが公然と認められたこの場所で、一々死体を埋めるなんて行為はしないさ。そうだろう?」
「そいつはそうですね。」(そうだろうと来たもんだ。あたしが殺し屋って事もお見通しですかね。)
阿紫花は後藤に鎌をかけたつもりだったが、それも必要はなかったようだ。
そして確信する。この男の頭は切れる。そう、まるで鋭利なかみそりのように。

「さて、氷川村へ急ごう。」
二人はとりあえず、人の集まるであろう氷川村へ先を急ぐ事にした。

【H-8/ゲーム開始から三時間経過】
【阿紫花英良@からくりサーカス】
[状態]:健康
[装備]:オリハルコンナイフ@スプリガン
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分)
[思考]:1.氷川村に向かう
    2.ゲームには乗らない
    3.降りかかる火の粉は払う

【後藤喜一@機動警察パトレイバー】
[状態]:健康
[装備]:お外堂さん入りの和紙の箱@うしおととら
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分)
[思考]:1.氷川村へ向かう
     2.出来るだけ早い内にお外堂さんを扱えるようにする
     3.野明、太田の情報を集める
     4.ゲームの阻止

備考:お外堂さんは設楽水乃緒が使っていたものです。
   印と歌を覚えれば誰にでも扱えるよう調整されています。
   しかし、箱が壊れる・術が使えないうちに箱から出す等をすると人間の参加者は取り付かれます。



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