地獄人と少女






「ハァ…ハァ…もう大丈夫よね…」

突然襲い掛かってきた少年、花菱烈火から逃げるために走っていたさやか。
しばらく走り続け、近くに誰もいないことを確認して足を止める。
追ってくる者はいないようだ。
ひとまず安心する。次に、先ほどまで一緒に行動していた男のことを思う。
囮になって自分を逃がしてくれた男、諏訪原戒。
二分の一とは言っていたが、やはり諏訪原が勝つ可能性は低いだろう。
そう簡単に水を掛けられるとも思えないし、うまく掛けられても双子や阿修羅になってしまったら勝ち目はない。
今からでも戻って加勢するべきだろうか?
しかし自分が行ったところで何かできるわけでもない。
更に、もし既に諏訪原が死んでいて、戻った自分も殺されてしまったら何の意味も無い。
やはり村に行って諏訪原が来るのを待とう。そう決め、再び歩き出す。


(誰かいるみたいね…)
数分後、前の方で一人の男が歩いているのが目に入った。
声を掛けてこないということはこっちに気づいていないのだろうか?
男の姿をよく見てみる。見た目だけでは分からないが、凶悪な殺人者のようには見えなかった。
(よし、声を掛けてみよう)
そう思い、さやかは男に近づいていった。
アノンは鎌石小中学校での鬼丸との一戦を終え、島内を散策していた。
特に決まった目的があるわけでもないので、のんびりと歩いている。
しばらく歩くと、一人の少女を見つけた。

(ん〜、女の子が一人…か。あんまり面白そうな感じはしないな。)
見たところ武器も持っていないし、強そうにも見えない。戦ってみたところで時間の無駄だろう。
そう思いそのまま通り過ぎようとしたが、
「あ…あの〜…」
少女の方から声を掛けてきた。しかたなく、ゆっくりと振り返り、返事をする。

「やあ、こんにちは。僕はアノン。僕に何か用?」
「あ…わたしは峰さやかよ。よかった、あなたゲームには乗ってないみたいね」
アノンの態度に少し安心したようだ。さやかの顔が若干緩む。
しかし、
「ん〜、どっちかっていったら乗ってるってことになるかな?」
「え?」
一瞬驚いたような顔をし、次に怯えたような顔になる。
やっぱり声を掛けるべきじゃなかった。
そう思いながらも逃げ出そうとしたさやかだったが、
「あ、安心していいよ。君と戦う気はないから。君と戦っても面白くなさそうだしね」
「え…?」
その言葉に動きを止めアノンの方を見る。今度は困惑したようにしている。
「用はそれだけだよね。じゃあ、また会えたらいいね」
困惑しているさやかを置いてスタスタと歩き出したアノン。

が、ふと立ち止まってさやかに声を掛けた。
「そうだ、君、向こうに行くんだよね?だったら鬼さんを手当てしてあげてくれない?
 ほっといたら死んじゃうかもしれないし」
「は?」
ますます困惑するさやか。アノンは無視して話を進める。
「別に死んじゃったらそれでもいいんだけど、どうせならまた戦ってみたいしね。
 この鎌石小中学校ってところにいるはずだから、頼んだよ。」
地図を取り出し場所を示すと、アノンは再び歩き出した。
次第に小さくなっていくアノンの姿を、さやかは呆然と眺めていた。


「なによあいつ…訳分かんない」
アノンの姿が完全に見えなくなったころ、さやかは呟いた。
何だかよく分からないが、殺されなくてよかったと思うべきだろうか。

問題は、アノンの言ったことだ。
アノンは「怪我人がいる」というようなことを言っていた。
地図を確認する。鎌石小中学校なら、遠回りにはならない。
もしアノンの言ったことが本当だったら寄ってみるべきだと思う。
しかし、罠という可能性もある。もし罠だったら、殺されてしまうのかもしれない。
(…でもわたしを殺したいんだったらこんな回りくどいことする必要ないわよね。)
数分間悩み、結局行ってみることにした。

数歩歩き、ふと後ろを振り返る。誰かが来るような気配は全くない。
「諏訪原さん…」
一瞬悪い考えが頭をよぎる。しかしすぐにその考えを振り払う。
「戦いが長引いてるだけよね」
そう自分に言い聞かせ、再び歩き出した。




【D-7 朝】
【峰さやか@YAIBA】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分) アイテム(確認済み。武器ではない)
[思考]:1.鎌石小中学校へ行き、怪我人がいたら助ける
    2.鎌石村へ行く
    3.諏訪原を待つ
    4.鉄刃を捜索する


【D-7 朝】
【アノン@うえきの法則】
[状態]健康
[装備]不明(本人未確認)
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.戦闘を楽しみつつ島内を散策する
   2.強敵とは全力で、面白そうな相手はそれなりに、底が見える雑魚は無視



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