目覚め始めた力と恐怖
「私にもこんな力があったんだなぁ……」
イングラムなしで建物を破壊できた野明。
生まれてはじめての体験に少し快感を覚えている。
「他の呪文も覚えていけば、もっと楽しめますよ」
などと言っておきながらも、ゾフィスは厄介ごとが起きたらすぐにでも逃げ出すつもりでいた。
しかも、島の中を移動するのではなく、島の外へ本を燃やして移動する。
自分や野明には本を燃やせないが、周りの人間には燃やせる。
適当な相手を見つけて、燃やしてしまえばさっさと離脱できるだろう。
確実な退路を確保できているゾフィスは余裕綽々と言った感じである。
殺し合いのゲームとはいえ、自分は特別参加のようなもの。
そんな自分が殺される事はまずあり得ない。
しかしながら、それはゾフィスの思い違いである。
支給品として島にやってきたゾフィスは、他の参加者たちのレベルを知らない。
この島にどんな化け物がいるのかを全く知らない。
野明や、顔も見ていないトイレからの脱出者だけしか知らないゾフィスは、謂わば井の中の蛙状態。
それに今はまだ、ココと一緒にいた頃と同じレベルの呪文は覚えていないのだから、自分は完全に力を出し切っているわけではない。
これで本当の力を出し切れば、この島でも一番強いのではないだろうか。
そんな間違った根拠に基づく自信が溢れていた。
「他の人たちにあったら、攻撃していいかな?」
無邪気な顔で野明が確認する。
かつてのココが、笑顔で一つの豪邸を燃やし尽くした時のように、今の彼女はゾフィスの力に魅入られている。
そんな彼女にゾフィスはニッコリ笑って答えた。
「もちろん構いませんよ。楽しみましょう、殺し合いのゲームを」
世界レベールの2人は、鎌石村から近づいてくる二つの気配に気付いていた。
「もうすぐ、誰かと合流するな」
「そうみたいだね、直線なら僕のピエロン・アイで見えるんだけど」
障害物の多い島の中では、そう簡単に確認できないらしい。
「でも、声ぐらいなら聞こえるかな……少し物騒な話をしてるよ。僕らを攻撃するって」
「ほう」
「どうする? って聞くまでもないか」
攻撃しようと考えている人間がいるのなら、それを停止させる。
当たり前の考えだった。そして、それを具体的にやろうと思えば、高槻巌の経験ほど役立つものはない。
「攻撃する人が相手という事は、まず戦力を奪うところからはじめよう。
こちらから攻撃するわけにも行かないしね」
ゲームに乗っていない事を証明するには、何よりも相手に誠意を示す必要がある。
そのためには、自分から攻撃をするわけにはいかない。
だからと言って、相手の攻撃を甘んじて受け入れるわけにも行かず、結論としては
敵の戦力ダウンを図る行動をとるのが一番いいということになる。
「でもねぇ、武器じゃなくて呪文で攻撃する人みたいなんだよね。
戦力は奪えないんじゃないかな」
「呪文というのは初めて聞く言葉だが、口を押さえてしまえば言いという事ならいくらでもやり様がある」
「そりゃ、そうだろうけどさ。でも、それって相手の顔を攻撃するんだろ。
一人は女の子みたいなんだよね、できれば避けたいなぁ。
どうかな、ここは僕に任せてくれない。僕の武器は安全だしさ」
ピエロの武器は人を傷つけない怪盗が使うトランプ銃。
当たれば、軽い切り傷を負うだろうが致命傷には程遠いという武器だ。
サーカスの笑いは愛そのもの。そう言い切るピエロにとって、これほど向いている武器はない。
「相手を傷つけずに、無力化するつもりか」
「ピエロだからね」
サーカスのピエロが相手を傷つけていては、世界レベールの名が廃る。
傷つけず、傷つかず、相手に戦力を奪い取って、殺しの意思すらも消失させる。
その上で愛を説く。ピエロの狙いはそれだった。
暫くして、そんな話し合いをしていた2つのグループが、道の真ん中で出会う。
「はじめまして、お嬢さん。そして、もう一方は……やはり、お嬢さんでよろしいかな?
私は通りすがりのサラリーマン、名を高槻巌という。こちらはケダムサーカスの団長、ピエロ・ボルネーゼ。
君たちの名前を教えてくれないかな」
野明もゾフィスも、世界レベールの2人に対して、むき出しの殺意を見せている。
だが、それを前にしても、紳士的な態度を崩さない高月巌。そして、いつもの笑顔を絶やさないピエロ・ボルネーゼ。
何かがおかしい、”勘のいい魔物”ゾフィスは僅かながらの違和感を感じ始めていた。
「私はゾフィス、こちらは警察官の泉野明です。よろしくお願いします」
(おかしい……震えが来るようだ。何かの違和感を感じている、この男たちには何かがある)
ゾフィスはまるで、ブラゴに敗れたときのような恐怖心を感じていた。
「ねぇ、ゾフィス。なに普通に挨拶してるの。攻撃していいんでしょ」
無邪気な野明は力を試したい。
人間相手に呪文がどれほど効くのか確認したい。そんな気持ちでいっぱいだった。
「野明、止めなさ 「ラドム」
刹那、ゾフィスの意識がはじけ飛ぶ。
一瞬の空白が、周りの音と景色を消し去り、何物も認識できなくさせる。
そして次の瞬間、目の前の道路はめくれ上がり、アスファルトには人が入るほどの穴が開いている。
そして、ピエロと巌はいない。
「これで、よかったんですか……」
呆気ない。自分が感じていた恐怖は勘違いだったのか。ブラゴに勘のいい魔物などと言われていたが、
やはり勘が外れる事もあるのか。
しかし、そうじゃなかった。ゾフィスの勘はやはり正しかったのだ。
次の瞬間、ゾフィスはその事をまざまざと思い知る事になる。
「おやおや、一瞬にして焼け野原だね。凄いじゃないか」
「どうやら、鎌石村で起きた煙のうち一つはお嬢さん達が起こしたらしいな」
背後から聞こえる声。
高槻巌も、ピエロ・ボルネーゼも無事。それどころか無傷。
ケダムサーカス団長として、150体もの分身が可能な男、ピエロ・ボルネーゼ。
パン職人が集まる大会でも、スナイパーたちから絶えず狙撃を受けつつ、それでいて周囲に気付かれる事なく狙撃をかわし続けた男。
そして、目に見えぬ攻撃も、その殺気だけを読んでかわす事が出来る最強の傭兵。静かなる狼こと高槻巌。
この2人に、息の合わない連携攻撃など当たるはずがなかった。
「野明、逃げますよ」
やばい予感が当たった。
ブラゴどころではない、まともにやり合えば最悪の場合、本を燃やす間もなく殺される。
「どうしたの、ゾフィス」
突然逃げ出した魔物の子に驚く野明。
自分はゾフィスと一緒なら、イングラムを凌ぐ力を身につけたのではなかったのか。
なのに、これでは話が違う。明らかに脅えきって、その場から逃げさるゾフィスを後ろから追いかけていく野明。
「逃げられちゃったねぇ」
「追わないといけないな、あの力は危険すぎる」
そう言って、高槻巌が2人を追撃しようとすると、
「待つさ。あの2人は僕に任せてくれるはずだろ」
と言って、ピエロが阻止した。
「そうだったな、あの2人は君に任せるとしよう」
「うん、任されたさ。君はもう一つの火災の原因を追ってくれ」
鎌石村で発生した火災は二つ。
その一つがゾフィスたちによるものだとしても、もう一つの火災が残っている。
つまり、鎌石村にはもう一つの危険な力が残っている事になる。
ピエロと巌は二手に別れ、それぞれの『危険な力』に対処すべく、
お互いが向かうべき場所へと向かっていった。
【C-4 鎌石村の道路/ゲーム開始から2時間30分経過】
【ピエロ・ボルネーゼ@焼きたて!!ジャぱん】
[状態]健康
[装備]トランプ銃@名探偵コナン
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)ガードレール製ナイフ 補充用トランプ1セット
[思考]1.泉、ゾフィスを止める。
2.傷つかず、傷つけず、ゾフィスを無力化する。
3.東たちを探す
4.この殺し合いの舞台に愛を広める
5.主催者に愛を伝える
【高槻巌@ARMS】
[状態]健康
[装備]ボーマンのオリハルコンナイフ2本@スプリガン ガードレール製投げナイフ24本
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)ジョーカーのカード
[思考]1・涼たちを探す
2.ゲームに巻き込まれた人たちを助ける
3.ゲームの打破
4.戦闘があった場所の調査
【泉野明@機動警察パトレイバー】
[状態]健康、ゾフィスに操られている
[装備]魔物の本(ゾフィス)@金色のガッシュ
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.ゾフィスと共にゲームを楽しむ
2.逃げたゾフィスを追いかける。
[備考] ゾフィスがどこへ逃げたのかは次の書き手に任せます。
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