Spear of the beast






「殺し合いをしろだなんて…悪趣味極まりないわね。」
冷ややかな朝の空気の漂う森の中、一本の木の根元に腰掛け少女は一人ため息をつく。

「だいたいねぇ、こういう野蛮なイベントは優ちゃんとかティアお姉さまの役でしょう。か弱い
乙女の私にいったいぜんたいどうしろってのよ!!あの幽霊女も少しは適正ってものを考えなさい!
そもそm(以下略)」
(以後、延々と愚痴が続きます)


30分ほど主催者を罵り続け、ようやく気持ちを落ち着かせた少女は生き残るための方法を考える。

ゲームに乗り優勝を目指す、という選択肢は論外。
最初に集められていた場所には明らかな人外やスプリガン級の人間が何人もいた。
彼女の実力では優勝するのは困難極まりない、さらに言えばあの主催者の女が約束を守るとは到底
信じられない。
ならば、目指すべきは自力でのゲームからの脱出。そのためには主催者の作る檻と、主催者の科した
枷を解除できる人物を探し出す必要がある。

「まずは、優ちゃんを探さなくちゃ!」

最初に探すべきは、見知らぬ人物だらけのこの島でただ一人絶対の信頼を置ける少年。
御神苗優は絶対にゲームに乗らない、そして彼が名簿を目にしていれば必ず少女との合流を目指す。
彼なら決して彼女を見捨てたりしないし、世界最高峰のS級エージェント“スプリガン”なら護衛と
しても最適だ。

行動指針は決まった。ゲームに乗った危険な輩と出くわさぬよう、慎重に迅速に御神苗優を探し出す。
早速行動に移るべく立ち上がり、デイバッグと至急されたランダムアイテムを手に取る。

「それにしても、本当に物騒な槍ねぇ…」

手に取った“それ”を不気味そうに眺めながら、少女はつぶやく。
彼女に支給されたのは全長2mほどの古びた槍である。
ずいぶんと年代物らしく、大振りな穂先には無数の傷と刃毀れが見え、くくり付けられた真紅の
飾り布もぼろぼろではある、だがその発する妖気は尋常なものではない。

「並大抵の霊槍ではなさそう…、まさかロンギヌスの槍だとか言わないわよね…?」

世界中の名だたる組織が追い求める神殺しの聖遺物・ロンギヌスの槍。
彼女が手にする槍は、そんな世界を制する力を得るとすら言われる代物と比べても遜色ないほどの
“力”を秘めている。
持っていて楽しいものではない、本来ならさっさとアーカム財団に売り払って手放してしまいたい
ほど物騒な代物である。だが、装備のほとんどを剥ぎ取られた現状ではこの槍に頼るしかない。
トドメにこの槍の名称や能力・由来を示すものはデイバッグのどこを探っても見つからなかった、
霊媒師である少女なら槍の詳細も探れるかもしれないが…

「調べるつもりで、逆に取り憑かれでもしたら洒落にもなんないわよ。」
というか、既に誰かの御霊が槍に封じ込まれている。下手に触れるとこちらの魂が喰われかねない。
結局のところ、どれほど強力な霊槍でも使い方が分からなければただの古びた槍でしかない。


「さぁて、まずはここら一帯の捜索ね。」
そう言って少女は直接道路を歩かず、切れ切れに朝日差し込む森を道沿いに歩いていく。
「優ちゃん、早く探しに来てね。」
つぶやく少女の肩の上で、獣の槍は

   ぬらり

と妖しく光った。
【B-3・道路沿いの森/早朝・ゲーム開始から40分程経過】
【染井吉野@SPPRIGAN】
[状態]健康
[装備]獣の槍@うしおととら
[道具]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.道沿いに周囲の捜索
   2.御神苗優との合流
   3.協力できそうな参加者を探す
   4.ゲームからの脱出



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