忍の戦い、そして侍の咆哮
諏訪原とさやかは刃を探すために歩き続けていた。
しかし、そう簡単に見つかるわけもなく時間と体力を減らすだけであった。
その上二人とも自分たちの位置すらわかっていない。
二人が最初に出会ったのが森の中であり、道しるべになりそうなものが
何一つ見当たらなかったためだ。
自分たちがどこにいるのかわからない、このことは想像以上に
精神的な疲労を加速させた。
そんな二人に転換の時が迫った。
「ねぇ!あれってトンネルじゃない?」
「そのようだな。この地図を信用するのであれば、おそらくあれは東崎トンネル。
東にトンネルがあることから俺達がいるのはEー7だ。近場で鉄刃を探すとするなら鎌石村だな」
「そうね、人を捜すならやっぱり人が集まりそうな所よね」
こうして二人は鎌石村に進路をとった。
その時であった。突然、諏訪原が叫ぶと同時にさやかを押し倒す。
「峰!伏せろ!」
「ちょっ、急にになによ!?」
その刹那、諏訪原とさやかがいた場所を無数の火球が通り過ぎていく。
花菱烈火は道路を歩いていた。
ほどなく東崎トンネルを見つける。
「トンネルか…」
それは単なる気まぐれ。好奇心か何かを感じたのか定かではないが烈火はトンネルを通ることに決める。
もとよりゲームに乗った身、人に出会えればそれでよく明確な目的があるわけではない。
あるとすればゲームに勝利し柳に再び会うことのみ。
トンネルを通ってる途中でも天界モバイルからの情報は止まない。
「次々に減っていくな…。このギンタって奴だって中学生くらいだろ?」
本当に人を殺すことなどできるのか?いや、そんなこと言ってられない。
もう一度柳に会いたい。その気持ちに偽りはない。そのためには自分以外の全員を殺すしかないのだ。
しかし、これは言ってしまえば自分のわがままだ。そのためだけに自分より年下の者、同じ位の者、
年上の者、そして知己の者を殺さなければならない。
心の内で葛藤を続けているうちトンネルを抜け出してしまった。
そして、目に入ったのが二人の男女。こちらには気付いてないようだ。
これは願ってもないチャンスである。ゲームに勝利するためには逃すことはできない。
しかし殺ってしまえばもう後には戻れない。
もう一度柳に会う。開始直後に決意したはずじゃないか。
その時の誓いを胸に、烈火は攻撃することを決意する。
「竜之炎壱式崩」
無数の火球が空中に現れると同時に二人に襲いかかった
「どうやら襲撃者のようだな」
さやかは突然のことに状況を把握しきれていない。
このままでは危険だと判断し、座り込んだままのさやかを担ぎ諏訪原はいちもくさんに逃げ出した。
逃がさまいと烈火も追走を開始する。
人一人を担いでいる諏訪原、かたや忍者の末裔。追いつかれるのは時間の問題であった。
「峰、お前は一人で逃げろ。あいつは俺がなんとかする」
「えっ、なんでよ?それってつまり諏訪原さんが囮になるってことでしょ?そんなのいやよ!」
「黙れ!雰囲気でわかる。奴は恐ろしく強い。このまま逃げたところで追いつかれて殺られるのは目に見えている。
しかし、一人が囮となりもう一人を逃がせば一人は助かる。今囮になれるのは俺のみ!
だからお前はさっさと逃げろ」
「けど、そんなの諏訪原さんを見殺しにするのと変わらないじゃない!」
「忘れたのか?俺の支給品のことを。あれを使えば二分の一の確率で奴に勝てる!」
鬼気迫る表情でそうまで言われたら諏訪原の言う通りにするしかない。
「行く前に一つだけ約束して。生きてまた会うって…」
「ああ。奴を倒せたら村でまた会おう」
言い終わるとさやかは諏訪原から降り、一人森の中を駆けていった。
「二分の一の確率で勝つ、か。しかし、恐ろしく強い奴にこの水を掛けるなど万に一つ以下であろうな。
だが、易々と屍を晒す気など毛頭ない!来るなら来てみろ!」
諏訪原の気合いの籠もった咆哮が轟くと同時に烈火が姿を現した。
「貴様が誰かは知らんが、襲ってくるなら容赦はせん!」
叫びと同時に諏訪原が踏み込む。
「竜之炎弐式砕羽!」
烈火もまた炎の刃、砕羽で諏訪原を迎え打つ。
諏訪原は両腕を使った手刀のラッシュ。烈火の方は右腕の砕羽と素手の左腕のコンビネーション。
攻撃力は烈火が勝ったが、手数では諏訪原が上回った。トータルで見れば二人は互角であった。
しかし、徐々に二人の拮抗が崩れていく。
素手の諏訪原と炎の刃の烈火。見る見るうちに諏訪原の服が血で赤く染まっていく。
「くっ!」
烈火はチャンスと踏み一気に間合いを詰め、止めの一撃を振り下ろす。
しかし、その行動は忍の者としてはあまりに軽率な行動であった。
諏訪原の目はまだ死んでいない。
「何!?」
次の瞬間、烈火が見たのは切り裂かれた諏訪原ではなく、白刃取りされた炎の刃であった。
「この時を待っていたぞ!貴様はたしかに強い。だが、攻撃の一つ一つに迷いが感じられた。
そのため最後の最後で詰めを謝り大振りになった。それが貴様の敗因だ!」
怒声と共に放たれた諏訪原渾身のハイキックが烈火の顎を捕らえ脳を揺らし、
その体を茂みの中に吹っ飛ばす。
「このチャンス、逃がしはせん!」
呪泉郷の水を片手にさっきとは逆に諏訪原が烈火を追撃する。
しかし、諏訪原はそこにいないはずの人間を見つける。
「峰!?お前ここで何をしている?逃げたのではなかったのか?」
しかし、さやかは何も答えない。
「まあいい、お前はさっさと逃げろ」
そう言って背を向けた瞬間だった。さやかが突然諏訪原に抱きつく。
「こ、こら!何をふざけ(何だ?峰の体が異常に熱いぞ?まさか!)
諏訪原が気づいた時には遅かった。さやかから急に火柱が上がり、諏訪原を飲み込んでいく。
竜之炎陸式『形無しの塁』。それは幻術の炎。
諏訪原に吹き飛ばされたとき、咄嗟に烈火が選んだのは塁であった。さやかの口調や声は知らなかったが、存在と容姿は確認してある。
自らが囮になり逃がしたことからも一定以上の信頼があったと考えられた。
砕羽や焔群では時間が掛かるし、さっきのようなことがある。だからこそ塁を選んだのだ。
しかし、これは結果的にはだまし討ちに近いかたちになってしまい、烈火の心に深い影を落とした。
「ハァハァ、許してくれとは言わねぇ…。俺はもう一度姫に、柳に会いてぇんだ…」
愛を求めた忍と義を貫いた侍との戦いは、忍の勝利で幕を閉じた。そして、忍はその哀しい愛を埋めるためどこかに去っていった。
【E-7 東崎トンネル付近/朝】
【花菱烈火@烈火の炎】
[状態]:精神力を少程度消費
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分)、天界モバイル@植木の法則
[思考]:1.ゲームに勝利する
2.非情に徹する
3.柳を蘇生してもらう
【D-7 朝】
【峰さやか@YAIBA】
[状態]:健康、悲しみ
[装備]:なし
[道具]:荷物一式(食料&水:2日分) アイテム(確認済み。武器ではない)
[思考]:1.鎌石村へ行く
2.諏訪原を待つ
3.鉄刃を捜索する
【諏訪原戒@焼きたて!ジャぱん】死亡確認
【残り62人】
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