老後の趣味は伝統芸能






「しまったな」
静謐な境内の中で、ヘンリー・ボーマンは一人苦笑していた。
彼の立つ神社のお社にはやたらとカラフルな人型(?)の物体がめり込んでいる。
「罰当たりなことをしてしまった。」
任務の性質上、古代遺跡や異教の神殿を破壊したことは何度もあるが、流石に何のオーパーツもない
ごく普通の寺社を破壊しては良心が咎める。
「まあ、やってしまったことは仕方があるまい。」
そう結論付け、ボーマンは黒い手袋をはめた指を複雑に動かす。
それに吊られる様に、カラフルな物体・操り人形“グリモルディ”はゆっくりと身を起こした。


ヘンリー・ボーマンに支給されたのは懸糸傀儡“グリモルディ”。
複雑精緻な“人形繰り”によって動かすその特異な操作方法は流石の元スプリガンも手を焼いている。
親切なことにもデイバッグの中に人形繰りのマニュアルが入っていたのと、爆発物処理のプロとしての
繊細な指裁きのお陰で、初心者としては異様なほどのスピードで人形繰りを習得しつつあるがそれでも
マスターには程遠い。
2・3日ほおじっくりと修練に専念すれば操り人形での戦闘も可能だろうが、正直なところ素手で戦った
方がはるかにマシであろう。特に両手がふさがる事と、その巨体と騒々しさ故にボーマンの切り札である
“ドッペルゲンガー”が生かせないことは致命的だ。
「だが、捨てるには惜しい」
特に移動手段としては極めて優秀だ。
自動車並みの速力を持ち、高い悪路走破性を備え、物資の積載も容易(何せ手に持たせればよいのだ)。
車両では通行不可能な地形でも、車輪走行から二足歩行にすれば容易く進むことができる。
操縦の難しさや目立ちやすい派手な装飾という短所はあるものの、特殊部隊の移動手段としては最適だ。
「トライデントの正式装備にしてもよいかもしれないな。」
構造材や動力源にも興味がわく。
この人形は思わぬ拾い物かもしれない。

「まずは片手で人形繰りが出来るようにならんとな。」
マニュアルには負傷したときの対処法だろう、片手での操作法も記載されている。
片手が空いていれば不測の事態にも対処しやすい。
ヘンリー・ボーマンは懐から取り出したマニュアルを片手に人形繰りを再開する。
途端に、ドテン、と間抜けな音をたてグリモルディはずっこけた。

「むぅ」
ボーマン教官が人形繰りをマスターするにはまだまだ時間がかかりそうである。
【G-6 鷹野神社/ゲーム開始から一時間ほど経過】
【ヘンリー・ボーマン@SPPRIGAN】
[状態]健康
[装備]グリモルディ@からくりサーカス
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.人形繰りをマスター(とりあえず片手繰りで安全に操作出来るぐらい)
   2.御神苗優との合流
   3.協力出来そうな参加者と接触、危険な参加者は排除
   4.ゲームからの生還

備考:G-6の鷹野神社のお社の一部にグリモルディの事故った形跡が残っています。



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