世界レベールの二人






「タイムスリップの次は殺人ゲームとはねぇ。ピエロもビックリだよ!」
池の畔に一人の男が立っている。
カラフルな衣装に身を包み派手な化粧をしたその男は、どこから見ても非の打ち所のない完璧なピエロであった。

「まあ驚くのもことぐらいにしておいて…」
クルリ、と背後の森を振り返り
「そろそろ出てきたらどうだい?」
ニヤニヤと笑みを浮かべながら告げる。

「驚いたな、いつから気づいていたのかな?」
その声に答えるように太い木の陰から一人の人物が姿を現す。
鍔の広い帽子を目深に被り、スーツを隙無く着こなしたサラリーマン風の男だ。
「30分ほど前からかな?なかなか出てこないから恥ずかしがり屋さんなのかな〜と思って遠慮していたんだよ。」
「そんなに前からばれていたとは。私もまだまだ修行が足りないようだ。」
道化へと歩み寄りながらわずかに嘆息する男。
その男に対し道化は大仰に手を広げ。
「とんでもない、君の気配の消し方は超一流さ!!世界レベールのピエロである僕だからこそなんとか気づけたのさ!!」
そう告げてウインクをする。
その間も歩み続けた男は道化のすぐ2m手前で足を止める。
「袖振り合うのも多少の縁、ってね。そろそろ自己紹介をしようか。僕の名はピエロ・ボルネーゼ。ケダムサーカスの団長を務める世界レベールのピエロさ!!」
そう言ってサーカスの観客にするように恭しく一礼する。
ゲームに乗った敵かも知れぬ相手を前にして目線を外し頭を下げる、その胆な行動に感心しながらもスーツの男は答える。
「私の名は高槻巌。通りすがりのサラリーマンさ。」
「なるほど、君はこの“ゲーム”を止めたいのだね?」
しばしの情報交換の末に、高槻巌が問う。
「当然さ!ピエロの仕事は観客を笑わせること。そしてサーカスにとって笑いとは“愛”そのものさ!」
大げさなジェスチャーを交えて芝居じみたおしゃべりをする道化だが、
「暴力は暴力しか生まない。僕は…僕は信じたいんだ。人は他人を愛せるんだって。」
その言葉は何よりも重く真摯だった。

「君は強いな。」
巌は優しい目で道化を見る。
「ピエロだからさ!」
大きく口を開け舌を出しながら答える道化。
「ふふ、どうやら私たちの目的は一致しているようだ。」
二人の望みは同じ。誰かを泣かせることなく、この理不尽なゲーム打破すること。
そして二人の間には、この短時間にすでに互いへの信頼が生まれていた。
「ならば、私と協力してくれないかな?ボルネーゼ君。」
その申し出に道化は両手を広げ、全身で喜びを表現する。
「大歓迎さ!!君のような世界レベールのサラリーマンが味方してくれるなんて!僕は嬉しくて涙が止まらないよ!」
言葉の通り道化の量目からは滝のような涙が。
そのオーバーなリアクションに巌は思わず苦笑する。
そして
世界レベールのピエロとサラリーマン(忍者)はどちらからとも無く、がっしりと握手を交わす。
二人の顔に浮かぶのは新たな仲間への確かな信頼の笑みであった。
【D−4 高原池の畔/ゲーム開始から一時間経過】
【ピエロ・ボルネーゼ@焼きたて!!ジャぱん】
[状態]健康
[装備]不明(本人は確認済み)
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1.東たちを探す
   2.この殺し合いの舞台に愛を広める
   3.主催者に愛を伝える

【高槻巌@ARMS】
[状態]健康
[装備]不明(本人は確認済み)
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)
[思考]1・涼たちを探す
   2.ゲームに巻き込まれた人たちを助ける
   3.ゲームの打破



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