エースに憧れた少年
そこは周囲に何も無い田舎道、参加者が各地へ散り散りに飛ばされた直後のこと。
「アイテテテッ」
路上に放り出された学生服の少年が頭を擦った。幸いにして怪我は無いようだ。
彼の名は吉田剛。小柄で器用さが売りの野球少年だ。上杉達也を尊敬して野球部に入り、達也を
慕っていたが、成長し周囲に中々の投手として自信が付くと増長してタメ口になり、達也とエースの
座を争おうとしたが、その直前に家の事情で渡米。その後に別の高校のエースとして立ちはだかるも
実力差は以前以上に開いており、古巣の面々に容赦なく滅多打ちにされた彼である。
「ナレーション、ちょっと説明が長すぎねぇか?」
君のようなに古い作品の脇役だと、シッカリ人物紹介しないと最近の人はついてこれないんですよ。
「い、一応アニメじゃ3話くらいメイン張ったんだぞ……ちょうど20年前の話だけどさ」
そんな風に一人でブツブツと呟いている少年の後ろに立つ一人の影があった。
「人の話を……ん、後ろ?!」
「ミスター横島、何を一人でブツブツといってますか?」
「うひゃぁぁっ!!!」
情けない悲鳴を上げて振り向く吉田の前には、ピンク一色の女性が立っていた。ピンクの髪、ピンクの
レザースーツ、スカートにブーツ、手袋までピンク。頭には妙なアンテナの付いた髪飾りをしている。
滅茶苦茶に派手な格好のはずだが不思議に地味に見えてしまうのはツヤ消しの原色だからか、
彼女の眼に生気が無いからか。
「あ、いや。一緒に飛ばされてたんですか。気付かなくてえっと……横島って誰? 俺、吉田だけど」
「……声紋一致、その他13項目不一致。申し訳ありません、人違いです」
恐る恐る尋ねる吉田に、抑揚の無い声でピンクの女が答えた。
「私はマリアです。ミスター吉田をマスターとして認証。以後、指示に従います」
「はぁ?!」
いまいち状況のつかめない吉田を尻目に、マリアは説明書を見るようにと答えた。
「…えーと、つまり君はアトムみたいなロボットで僕が操縦するって事?」
10分ほど説明書を流し読みした吉田が首を傾げながら問うと、マリアが首を縦に振った。
「正確にはロボットではなくアンドロイドで、操縦ではなく行動指示です」
「例えば僕があの木に向かって『パンチだ鉄人!』とか『ミサイル発射!』て言うとしてくれるわけ?」
疑いの眼差しの吉田が道端に生えている大き目の木を何気なく指差した。
「イエス、ミスター吉田」
抑揚の無い声で言うが早いか、道端の木をロケットアームでへし折り、二の腕からの小型ミサイルで
一瞬にして粉々の木片に変えた。それを見た吉田が唖然とした表情でポカーンと口を開ける。
「も、もしかして波動砲とかビームを出したりできる?」
「イエス、ミスター吉田」
マリアは手から高出力のレーザー出して見せた。
「そ、空を飛んだりとかは?」
「イエス、ミスター吉田」
マリアは吉田の手を掴むと足からジェットを噴出させて飛び上がる。
「わわ、飛んでる! ホントに飛んでるよ!」
吉田は子供のように目を輝かせ、はしゃいだ声を出した。
「………すっげぇー! コレってヒーロー?! コレって主役?!」
「質問の意味を解りかねますが、たぶん違います」
マリアにしがみ付いたまま吉田が片手でガッツポーズを取る。
「よし、このまま島の……とりあえず建物のあるところまで飛んでけ!」
「イエス、ミスター吉田」
「凄い、凄いぞ! コレなら誰が相手だって勝てる。何だって出来……」
ピーコン! ピーコン! ピーコン!
興奮した吉田の言葉を遮るようにマリアから変な音が発せられた。
「なんだよ。このウルトラマンのカラータイマーみたいな音は」
「エネルギー残量少の警告音です。無駄なエネルギーを使いすぎました。スリープモードに移行します」
「え?! 何で突然そうなるんだよ!!」
「ドクターカオス、アパートの電気を止められていました。墜落します。衝撃に備えてください」
「えぇぇぇ!!」
ドゴーン!
「アイテテテッ、もう少しまともに着地しろよ」
下が草原だったからか、低空飛行だったからか、マリアが庇ってくれたのか、吉田は擦り傷で済んだ。
「おい! 聞いてるのかよ!」
怒鳴ってみたがマリアは返事をしない。眼は開いているが揺すっても300kg近い体はピクリともしない。
「し、死んじゃったんじゃないだろうな。ってこいつロボットだし。エネルギーとかなんとか」
慌ててディパックから分厚い説明書をパラパラと取り出しエネルギーに関する項目を捜す。
「あったコレだ! えーと充電は家庭用100Vのコンセントでいいのか。簡単じゃん脅かすなって」
意外と簡単な充電方法に吉田が安心して笑う。
「そうだ。まだまだ始まったばかりだ。僕はヒーローになんだ。コンセントさえあれば………」
そこまで言って吉田は我に帰った。周囲には電源どころか送電線すら周囲には見えない。
「コンセント……」
草原のど真ん中で吉田は呆然と立ち尽くした。
【B-2からC-2(草原部)へ移動/早朝】
【吉田剛@タッチ】
[状態]健康
[装備]なし(学生服)
[荷物]荷物一式(食料&水二日分、分厚いマリアの説明書)
[思考]1.電源を捜してマリアの再起動
2.生き延びる
[備考]支給品『マリア@GS美神極楽大作戦』はエネルギー切れ
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