いさおととら






「くっそー!何がどうなってる!まったくもって非常識だ!」
 森の中、大声で叫びながら警棒のようなものを振り回す男が一人。
ガッシリとした体、微妙に派手な色合いの制服、その襟には巡査の階級章が光っていた。
特車二課所属巡査・太田功。
このゲームが始まって約2時間が経過している。薄気味悪いゲームの説明は覚えているが、
その内容は一般常識人であり、様々な意味で大人である彼にとって過酷かつ難解なものであった。
だが非常識も目の前に現れて数時間もすると慣れてくるものだ。たとえば、こんな非常識。
「オッサン、オッサン。その手のセリフ、もう6回目だぜ。ただでさえルックスにゃ恵まれてねーんだから
もうちょっと意味のあるセリフ吐かねぇとサクッと死ぬ脇役Aになっちまうぞ」
 やけに流暢な口ぶりで太田の脇を少し離れてノシノシと歩く虎が煽ってくる。
「やかましいぞ、トラ公!そのチャラチャラした喋り方をやめんか!」
「オッサン、ちゃんと俺様にはタマっつー、プリティーチャーミーな名前があると何度いえば・・・」
「貴様なんぞトラ公で十分だ!」

 1時間前、森の中で唐突に起こった虎との遭遇。常識人であれば死すら意識せざる緊張感を、
このタマとかいう虎は「よぉー、オッサンもゲームの参加者かよ。ついてねぇよな」と一笑したのだ。
その時の脱力感は計り知れない。それは生真面目な太田に「非常識という現状」を受け入れるに
相応しい十分な非常識さを持っていた。
「だーっから!イライラすんからって人(トラ)に八つ当たりすんなよ。オッサン、牛乳嫌いだろ?」
「がるるるるる!」
 もはやどちらがケモノか分からないが、意外と気があっているのかもしれない。

「チャッチャとお嬢たち(ついで借金執事も)見つけて、こんなとこからオサラバしたいもんだね」
「お前、あのふざけたルールを聞いてなかっだろ。生き残れるのは」
「ハァ?オッサンだって同僚を連れて帰るっつってたろ。それに敷かれたレールに沿った人生って
つまんなくね?いつだって臨機応変、設定に縛られてばかりじゃ面白い漫画は描けねぇーぜ」
「そういう問題ではないだろう!大体、どうやってだな・・・」
「その辺は、まぁノリと勢いって感じ? 何とかなるって、多分。誰か何とかしてくれるよ、きっと」
 あくまで軽すぎるタマに呆れたのか、それとも慣れてきたのか太田も軽く溜息をついて前を見据えた。
「どちらにせよ、隊長や泉、お前の飼主、それに可能な限り一般人の安全は確保せねばならん
その上で、事件の黒幕に正義の鉄槌をぶち込んでくれるわ!」
 そう言って振るう武器が、実は警棒ではない事に太田は気付いていない。常人には見えない凡字が
刻まれた、霊力というものが認知された世界のポピュラーな武器「神通棍」であることに。
「いよっ!さすが公僕は辛いネェ!頑張ってくれよ。俺の為に」
「貴様は納税者ではないから、保護対象外だ!」

口喧嘩しながら進む一人と一匹の前に森が開け、遠くに神社の屋根のようなものが見えた。


【F-6@森の中/ゲーム開始から2時間経過】
【太田功@機動警察パトレイバー】
[状態]健康
[装備]神通棍@GS美神極楽大作戦 
[荷物]荷物一式(食料・水二日分)
[思考]1. 知人および他参加者の安全確保
   2.ゲームからの脱出 および主催者の逮捕

【タマ@ハヤテのごとく】
[状態]健康 
[装備]なし
[荷物]荷物一式(食料&水二日分)、アイテム不明
[思考]1.ナギ達との合流
    2.ナギ達と共にゲームを脱出



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