上杉達也の出した結論
気が付いたら神社にいた。
比喩でも夢でもない。現実だ。
先程まで確かに握っていた南の手の温もりもまだ掌に残っている。
「……なんなんだ……」
繋いだ先を失った自分の右手をまじまじと見つめ、上杉達也は脱力気味に呟いた。
自分と南の身に何が起きたのかわけがわからない。
取りあえず賽銭箱の前の小さな階段に腰掛け、支給されたバックを広げる。
地図、コンパス、時計、筆記用具、水と乾パン、そして名簿。
とりあえず目を通したその名簿の一点で、達也は息をのんだ。
「上杉達也」のすぐ上。
「上杉和也」。
それは、自分の双子の弟の名。
明るくて人当たりが良くて誰からも好かれていた、自分とは全く違う弟の名。
和也は二年前の夏に死んだ。
甲子園への切符を賭けた地区大会の決勝のその日に。
『南を甲子園に連れて行く』という夢を叶えられずに。
弟の事故を一番に知ったのは自分だった。
遺体安置室で嘘みたいに綺麗な顔をしていた弟は、眠っているみたいだったけど本当に死んでいて。
生まれたときから常に側にいた自分の片割れをなくす喪失感は、きっと一生拭えない。
「本当に和也なのか……?」
同姓同名の別人か。
それとも名前だけで本当はそんな人はこの場にはいないのか。
いろんな可能性が考えられる。
その中にはもちろん、名簿の名が本当で……あのよくわからないお化けの力で生き返ったってことも
考えられるのだ。
固まっていた腕を動かし、名簿を傍らに置く。
ここでうだうだと考えてたって本当のことはわからないのだ。
生来、深く考えるということは和也の担当だったのだ。自分には向いていない。
そう思いぼりぼりと頭をかく。
とりあえず思考を止め、さらにリュックを漁った達也の手が何かつるつるとした物に触れた。
「なんだ……?」
手探りで取っ手を見つけ、引っ張り出す。ちょっと重い。
「…………」
出てきたのは――――――――――――炊飯器だった。
持ち上げてひっくり返してみる。
回しながら眺めてみる。
……やっぱり、どこからどう見ても間違いなく炊飯器。
ご飯を炊く、日本人には欠かせない家庭用電気製品だ。
「…………」
スイッチを押してみるが反応はない。
コンセントがどこにも繋がってないのだから当然だ。
「…………」
蓋を開けてみる。
ホワホワとのぼった湯気の中から現れたのは、白米ではない。
「…………」
リュックの底の方を見ると、説明書らしき紙が入っていた。
『ジャぱん2号。炊飯ジャーぱん』
あの美人の幽霊(?)は、『殺し合いをしてもらいます』とか言ってなかったか?
いや、殺し合いなんてできるわけねぇし、現実感なんてこれっぽっちもないが、確かそう言ってたよな。
んで、『一般人も能力者に対処できるようにランダムアイテムを入れた』とか言ってたよな。
……ランダムアイテム?
もしかしてこのパンが?
パンであのよくわからない“能力者”達と戦えと?
「…………」
パンをちぎって口に放り込んでみる。
「……うまいな」
炊飯器でパンを焼く人種がいるんだな、と感心しながら達也は二口目をほおばる。
そういえば毒が入ってたら、と思いついたがとりあえず体に変化はないから……大丈夫だろう。きっと。
「腹が減っては……ってね」
南を、和也を捜しに行かなくてはいけない。
探しだして守って、早いトコこんな所から逃げ出さなきゃいけない。
だけどその前に。
「ジャムが欲しいな」
上杉達也は、朝食を取ることに決めた。
【E−2・菅原神社/早朝】
【上杉和也@タッチ】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】荷物一式、ジャぱん2号・炊飯ジャーぱん(炊飯器入り、焼きたて)
【思考】1、南と和也を捜す
2、なんとかして脱出する
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