明るい未来って何だっけ?
小高さを持つ島の斜面を駆け上がっていこうとする海風はとっても心地よさそうなんですけどねえ。
海に目をやれば世界中どこでも一緒の波間からの光のきらめきが踊っているっていうのに
そこにいる少年はどうしてこの大自然に感動しないかなあ? ってまあこんなゲームに放り込まれちゃ当然か。
ま、それはさておき少年、今目を丸くしてじぃっと足元のそれを凝視しております。
きっと脳内じゃショック大き目の思考回路があやふやな計算を繰り返しているんでしょうねぇ。
傍から見ればうらやましいほどに幸運なんですが、なんというか。
なんというかあまりに場違いな――主催者の方、意地悪ですねえ。
ちょっと前から彼の様子を見て見ましょうか。
「ハァ。何だか大変なことに巻き込まれてしまったようですねえ」
自分も巻き込まれた一人というのに妙に客観的に少年は呟く。
とはいえパニックにならず、まず思考から入ったのはある意味場慣れしている証拠だろう。
2時間サスペンスのラストシーンにでも使われそうな断崖絶壁が彼のスタート地点。
まずは周囲の状況確認…何だか浮いてるヘンなものは見えるけどあたりに人影なし。ちょっと寂しいかも。
次は荷物確認…にしてもこのデイパック、なんだかとても重いのは何故でしょう? あ、これ名簿…発見。
では名簿確認……お嬢さま。ヒナギクさん。ついでにタマ。確認。
他にも漢字、ひらがな、カタカナ、随分たくさんの人がさらわれているみたいです。
どうやったのかは分からないけれどこんな多数の人間を、なによりお嬢さまを誘拐という大事件(自分もやろうとしたケド)。
外部介入、救出は期待できるかもしれませんが…やっぱりすぐって訳にはいかないですよね?
『生き残るのは一人』に煽動されてもしその前に……事が起これば。
まず自分が優先してやるべきはお嬢さまの安全を確保する事、後の事はそれから!
というわけで僕の支給品は……予想通り重い……。
外見に反し異常に重かったデイパックからその容積を無視して出てきたのは銀に輝くジュラルミン・ケース(×2)。これどうやって中に入ってたんだろう?
持ち上げた腕にかかる負荷がその中身の存在を教えてくれる。
興味、期待、不安、さっそく開けて見る―――
でぇ、少年は固まっちゃったって訳ですよ。それじゃ私が代わりに説明しましょうか。
私? 私は「第三者視点」、ちょっとした説明役ですよ。まあお気になさらず。
えーとそれでジュラルミンケース、その中身はなんとねえ、ずらりと並ぶ諭吉さんの顔。そして束!
すごいですねえ、見まごう事なき無数の紙幣、多額のお金。その額、ケース二つで何と2億円ですよ。眼福眼福。
ちなみに綾崎ハヤテ…あ、この少年の名前ね、彼が背負う借金総額はなんと約1億5838万4千円。
それも常軌を逸していますがこいつはなんとに・お・く・え・ん、2億円、もっと上。
これが拾得物なら警察に届ければ1割2000万円、半年で全額、借金完済してさらに4000万円ほど余るって感じ。
まあ額は説明書きに書いてはありますが少年は気付いてないってか気が回ってないですねえ。
一束は100万円なのだとか知ってるんですかねえ。
加速暴走した思考も海風に冷まされること数分間。
現実は重い。正体不明、犯人不明の殺人ゲームの真っ只中ではお金なんかどれ程のもの?
当面盾としても鈍器としても使えそうな推定13kgのケース一つを提げ、もう一方はデイパックの中へ。ずしりと重みが増す。
それから眼下の村へ向けて執事は歩みを始める。
しかし、なによりも僕は三千院家の、お嬢さまの執事ですから。お金の問題じゃないです!
ほかの条件はどうあれまずお嬢さまの安全を確保する事、それが今僕に課せられた役目!
少年、いい目をしています。手にしたケースもまるで銀の盾、かぁっこいいねえ。
というか推定13kgをあんな感じに持てるって彼かなりの腕力してます。これは素直に賞賛。
じゃあ、頑張って、生き延びてください。影から応援してますから。
でもこれで幸運使い果たしてないと……いいですねえ。
【I-5 断崖上/ゲーム開始直後】
【綾崎ハヤテ@ハヤテのごとく】
[状態]健康
[装備]一億円入りジュラルミンケース
[荷物]荷物一式(食料・水二日分)、一億円入りジュラルミンケース(重量約13s)
[思考]1.探索しながら移動
2.ナギ・ヒナギクの安全を確保
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