烈火の炎・再び






――姫が、死んだ――
殺人ゲームが幕を開けてからずっと、花菱烈火はただ地面に座り込み続けていた。涙も無く、哀しみも無く――ただ真っ白になっていた。

「………」

このような突拍子も無い事、現実ではなくただの悪い夢であると思わずにはいられなかったのだ。

「ハ……ハハ……」

乾いた笑いを漏らす。あまりにもこんな悪趣味すぎる夢が馬鹿らしく思えたのか、それとも…衝撃が大きすぎたのか。

「……紅麗も……風子も…いたなぁ……」

『これは夢だ』との前提を頭の片隅に置きつつも、しかしようやく少しづつ烈火に思考力が戻ってくる。

「……例えば……姫が…死ん…だとして…」
「………」
「生き返らせる方法とか……あるのか…?」

現実ではない夢の世界、それはなんだかテレビゲームの中に迷い込んだみたいな錯覚を受けた。ならばそんな世界なら人を生き返らせるのは簡単だ。
復活の魔法?蘇生させる不思議な薬?


「…ハハ、んなのあるわけねーし…」

馬鹿な事をと自分で自分を一笑。だがこれは『もしも』の話。仮定の上での可能性をさらに考えてみる。

「人を生き返らせる魔導具なんて聞いた事もねーし……」

ゾンビにする魔導具なら見たが、そんな物は言語道断。そもそもこの世に存在した魔導具は全て…あの天堂地獄との最終決戦の時に役目を終えて消滅したはずである。
自身の体に宿っていた火竜も今はもう一匹もいない…はずであった。
しかし先ほど“崩”が出せた。腕を確かめると…確かに無かったはずの“崩”の字が浮かび上がっていた。
ただ…なぜか“崩”のみ。本来八個あったはずであるのに。

「……紅麗……そういやなんで、いたんだ…?」

最初の場所で見たあれは見間違うはずもなく、烈火の兄である紅麗。同じく最終決戦時に――

「……時空流離でタイムスリップしたはずじゃあ……ん?時空…流離?」

ふと何かが頭に引っかかった。
紅麗の存在――柳――魔導具――全てが繋がりそうな、そんな引っかかり。


「もしかして、紅麗のやつ…あの後またこっちにタイムスリップしてきたんじゃねえか?いや、それかもしくは…昔の紅麗がタイムスリップしてきたとか?」

ゲーム開始前のやりとりの様子では後者の可能性の方が高い。そんな考えに行き着く。
…ならば…

「なら……紅麗に頼んで、姫…柳がああなる前に、タイムスリップさせてもらえばいいんじゃねーか?」

実際には穴だらけの推理…しかしこれは彼の中では夢の世界の話。だがたとえ現実ではない夢やゲームの世界であっても、柳姫を助け守り抜くのは烈火の使命。それが烈火をつき動かす原動力である。

「そうだ!それなら姫を助けられる!もし紅麗がダメでも母ちゃんに聞けばなんとかなるかもしれねーし、試してみる価値はあるよな!」

重く沈んでいた気持ちがようやく少し晴れてくる。冗談だろうが夢だろうが、柳の死などと到底受け入れられるものではない。

「よし、なら善は急げだ!だいぶタイムロスしちまったからな…ん?そういや俺の支給品ってなんなんだ?」

紅麗を探すという目的を果たすためにも便利な武器や道具はあるに越した事はない。今の烈火は以前と比べれば八分の一以下しか力が無いも同然。そんな心許ない現状を一番知っているのは自分自身であるため、支給品を探る手にも力が入る。

「………ん?なんだこりゃ?」

出てきたのは小さな木札。予想以上のハズレっぽいガラクタに落胆の色を見せる烈火。

「ついてねえ……ん?なんか説明書付きか?なになに…」

――“空白の才”。これに書かれた才(才能)を持つ事ができる。どんな才能でも良い。ただし書き直し不可、身につけていないと効果はない。(例/計算の才・料理の才・など)――

「…なんだこりゃ…?」

説明を見た限りでは眉唾物の支給品にしかめっ面で木札をじっと眺める。

「…からかわれてんのか俺…?才能?」

イマイチよく理解できないガラクタを眺める内、ふと以前に父から言われた言葉が脳裏をよぎる…。

――本来お前には、炎術士の資質は無かった――

「……へっ、夢だかゲームの世界だかなんだから、何でもありか?なら…!」


荷物の中から鉛筆を取り出し、小さく息を吐いた後に一気に書き込み手の中に札を握りしめる。

『炎術士の才』

「………」

しばらく自身の体の変化を見てみるが、別段異変が起こる気配はない。火竜が宿る証である腕の刻印がさらに浮かび上がる気配も無い。

「…やっぱからかわれてたのか…」

そうは言うものの、やはり落胆は隠せずに目を伏せる。

「…俺の炎…か…」

溜息混じりにぽつりと呟き、人差し指で空に一文字の漢字を描く。
…砕…




「…!?」

光る――体が熱い、腕も熱い、そして…腕に炎の刃が生まれる。

「な…!?ほんとに出た…!!」

それは以前と比べれば炎の勢いが衰えてはいたが、紛れもなく竜の炎弐式…砕羽。慌てて腕をまくり刻印の有無を確かめる。

「あ、あれ?“砕”しか増えてねえ…!?」

てっきり八竜全てが再びこの身に宿ったのかと期待するも、なぜか言葉の通りの二つしか無かった。

「まあ…いいか。崩だけよりはマシだろ。…またよろしくな、オレの炎…!」

懐かしむように腕を小さく叩き、荷物を背負って歩き出す烈火。
再び大切な者の笑顔を見るために、悲しき宿命も共に背負って。


【トゥーンタウン/トゥーンパーク内/早朝】

【花菱烈火@烈火の炎】
[状態]:健康
:崩・砕羽、使用可能
[装備]空白の才@うえきの法則(炎術士の才。炎の能力と関係無い者が持っても効果無し)
[道具]荷物一式
[思考]1:紅麗・風子を探す
2:時空流離の方法を探して柳の生存時まで戻る



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